ナイトメア・アーサー

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第五百五十話 チーズ転がしレース

公開日時: 2021年3月25日(木) 09:41
文字数:2,693

「前回のあらすじっ!!!」

「チーズ転がし大会をやろうにも坂がないっ!!!」

「なので生やした!!!」

「そして大会が執り行われるっ!!!」

「以上説明終わりっ!!!」

「あああああああああーーーーーー」



 項垂れるのはヴィクトール。それを横目で見ているアストレア。



「んお! アストレア! 荷物運びご苦労!」

「ああ、ここに置いておくよ。しかし、しかしだな」

「アストレアの協力がなかったらこの坂作れなかった! あんがと!」

「……これがグレイスウィル……」



 演習場に出現したやや勾配が大きい坂を見て、ぼんやり溜息をつく。



「一年ぐらい過ごして慣れてきたかと思ったらそんなことはなかった」

「アストレア先輩……どうかそのままでいてくださいね……」

「ヴィクトール、リリアンが幼馴染である以上それは無理だ」

「あああああああ……」






 演習場で執り行われたチーズ転がしレース。一応外部の村に既にある行事とのことだったので、フロムグレイスウィル魔法学園と副題が冠されている。


 ルールは至ってシンプル。カマンベールを持って坂に立つ。合図が鳴ったらそれを転がす。追う。一番下に到着した順に順位が着けられる。おわり。


 坂を下りるということは速度の制御がしにくいということであり、如何に安定して下り切るかがレースのポイント。事故ったら目も当てられない。






「フゥゥゥゥゥゥーーーーー!!! 俺、最強ーーーーー!!!」

<おおーっと宮廷魔術師のアルシェスさん、

<爆炎に身を包みながら猛突進ーーーー!!!


「イーーーーヤッフゥゥゥーーーー!!!」

<そのまま坂下のフラッグを奪い取ったぁーーーー!!!


「んほおおおおおおお俺様の勝ちじゃーーーーー!!!」

「か……勝ちです……!」

<ナイトメアのユフィさんも満足げですね!

<さて今のレース、観戦してどう思われましたかブルーノさん!


「えっ何で俺に振るの!?」

<だって実況席に来てるじゃないですか!

<あとアルシェスさんと仲良いって話聞きました!


「そうだなあ……まああいつ、最近仕事詰めだったから鬱憤晴らしも兼ねてるんじゃないか? 知らないけど」

<ありがとうございましたー!!


「あと実況の音声もうちょっと下げた方がいいな!!! どれ俺が調整してやろう!!!」

<あざーーーーっす!!!


「結局実況に首突っ込んでるよこの主君はぁ」






 生徒間のトーナメント、一般参加者の乱戦を経て、両者の勝者をひっくるめた決勝戦が行われる。


 子供と大人じゃ力量差あるんじゃねえのという突っ込みはこの際野暮。楽しければよかろうなのだ。


 というより、生徒達は想像もしない方法で大人達に勝っていく。





「んおおおおおおおおおーーーーー!!!」

<ああもうーーー!!! 何をどう突っ込めばいいのかわかりませんっ!!!


「刮目しろぉぉぉぉーーーー!! このブースト型パンジャンドラムをぉぉぉぉぉーーーー!!!」

<安心してください!!!

<現在トップを独走中のパーシー先輩から解説メモを預かっております!


<え~と……『今回のレース用に仕上げたパンジャンドラムで、推進力に大気を燃焼させるブースターを装備! 爆音鳴らして突き進みます!』


<ですって!

<待って今燃焼って言いました!? 爆弾積んでるパンジャンドラムに火つけたら大変なことに






 ドッッッッッッカアアアアアアアアアアアアン






<……言わんこっちゃねぇー!!!








「……何これ」



 爆音と爆風はパンジャンドラムのそれだったものの、



 実際に飛び散ったのは泡であった。



「安全対策ですか……」

「そうだぞー!!! 近年のパンジャンドラム研究は著しくてなー!!! 魔術によって爆発以外の事象を引き起こすことも可能なんだ!!!」



 自信満々に解説しながら近付いてきたパーシーを、至近距離に入れるや否やすぐグーパンチを入れるリリアン。



「あでぇ!!!」

「……最後の学園祭でもぶれませんよね、本当に!!」

「ヴィクトール、アストレア、お前らぼーっとしてないで行くぞー」



 掃除用具を持ち出してくるユージオに、あっはいと促される二人。



「ユージオ先輩……凄い胆力ですね」

「昔からなー。俺は現象に対して慣れるのが早いみたいで。もうどうってことはないぜ!」

「そういうものなのか?」





















 例年なら演習場は武術部が出店をしているのだが、今年は生徒会に譲った形となった。


 代わりに彼等は校門に入って直ぐ、中庭で出店をしている。



「いらっしゃいませー! だぜー!」

「美味しい肉串は如何ですかー!」

「豚、牛、鳥ー! 馬に猪ー! 色々、あり、まーす!」



 入って直ぐに腹を刺激する旨味の匂いがお出迎え。肉串の他にも魚の串焼き、サンドイッチ、バタースコッチ等、とにかく腹に溜まるこってり系の物が屋台で売られている。



「メーチェ! 焼けたか!」

「ええと、少々お待ちを……はい!」



 注文された豚串を二本渡す。クラリアが会計を担当し、客に渡す。





「大繁盛!」

「だな!」

「ルシュド先輩カレオツーっす!!!」



 別の屋台で仕事をしていたアデルが顔を出してくる。



「お疲れ、アデル。順調?」

「そりゃあもうばっちりっすよ! ところで自分はこれからシフト入るんすけど、先輩は休憩とかいいんすか?」

「んー……?」



 シフト表を取り出して、クラリアと一緒に覗き込む。



「おれ、休憩、そろそろ。それから打ち合わせ、魔法音楽部」

「アタシはまだまだやるぜー! 午後は空いているから、魔法音楽部に顔が出せるぜー!」

「んじゃあ交代の生徒待ってから休憩に入った方がいいですかね?」

「そうする。屋台、人いない、大変」





 数分ぐらいした後に、その交代の生徒がやってきたのだが。






「……」






「……おお! ハンスじゃねえか!」

「ハンス先輩、エプロン似合ってます♪」

「殺す」

「ンヒッ!!!」



 メルセデスに向かって風を飛ばした後、ルシュドとクラリアの友人二人に近付く。



「お前エプロン何処で買ったんだー? アタシのはヴィル兄が買ってきてくれたんだぜ!」

「誰も訊いてねえよ……ええと、まあ、その、うん」

「お下がり、アーサーの!」

「えっアーサー先輩の!?」

「ああ……!!」



 恥ずかしいので近くにいたメルセデスを殴る。



「おぼっ!! 何でアタシなんだよ!!」

「……何となく」

「何となくで殴るな!!! ていうかアンタ弓術の訓練の時から思ってたけど、素直じゃなさすぎね!?」

「……」

「わ゛ーっ!!! これも何となくなんだなーっ!!!」



 騒ぐメルセデスを背にハンスはカウンターに入る。



「ルシュド、休憩入りなよ。ぼくが来たからにはもう安心だ」

「うん、任せる」

「アタシが引継ぎをするぜー!」

「オレもやりま~~~~す!!」

「じゃあアタシは「メーチェ!! 串焼きの作り方ばっちり教えてくれよ!!」


「畜生がぁ……!!「普段通り」黙れマリウス!!!

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