ナイトメア・アーサー

Honest and bravely knight,Unleash from the night
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第六百十話 苦い記憶

公開日時: 2021年5月11日(火) 18:12
文字数:3,248

 自分達の魔法を駆使し、数キロ先にある村まで走る走る。



 到着した時には時間は更に数十分経ち、更に凄惨な光景が救援者を出迎える。





「血の臭い……っ」

「……既に犠牲者が出てしまいましたか」



 数秒だけ目を閉じた後、マットは村に足を踏み入れる。


 見張りと思われる者が接触してきた。



「あ、あんたは……戦える人かい!?」

「傭兵をしております。同業者がここから逃げてきたので、それで駆け付けました」

「そ、それなら!! こっから北西だ!! そっちから、盗賊共が――」



     げーっはっはっはっはっはっはあ!!!!!!!



「……!!!」

「向かう間もなく来ましたね……!」





 獅子の紋章が刻まれた外套を羽織り、すばしっこい身のこなしで魔物と見紛うような、小汚い集団が迫ってくる。


 その数は、おおよそ数十といったところだろうか。



「気を付けてくださいね。連中は銃を使う可能性があります」

「銃? 遠くから狙撃するやつ?」

「いや、狙撃する長い銃じゃねえ。詳しい説明は時間がないから省くが……くれぐれも距離を詰めすぎるなよ!」












 村に危害が加えないように、こちらもある程度前に出ていく。



 交戦が始まり、鋼のかち合う音が響いた――






「えいっ!」

「んなあっ!?」

「……わたしのこと、女の子だって甘く見ないでね!」



 腕慣らしに剣を振った後、エリスはイザークと背中合わせに立つ。



「何だ何だ! カッコイイこと言うじゃん!」

「……正直、一度は言ってみたかったんだよね!」

「ハッハー! イカすぅ!」



 片手間にイザークとサイリはギターを掻き鳴らす。細かいサウンドは敵視する相手の精神を掻き乱す。


 そうして盗賊達は、軽く発狂したかと思いきや更に攻勢の手を強める。



「チッ、しぶといな! 妨害が効いている感触はあるんだけどな!」

「大体盗賊ってのは、人間性を捨てた代わりに生命力が上がっているもんなんですよ……それっ!」



 マットが盗賊の心臓を貫く。剣を抜く際に醜い色の血が飛び散る。



「イザーク殿、感謝致します。貴方が音で妨害してくださるお陰で、こちらも急所を貫きやすい」

「しかもこっちには身体強化がされるときた! おらあっ!!」



 バスタードソードに力を加え、重さを武器に敵を両断していくイーサン。一瞬にして肉塊へと変貌していく様は、慣れていないと眩暈がしそうだ。





「……ふー」

「エリス、大丈夫? 少し休む?」

「平気……これは生死を懸けた戦い。油断をした方が死ぬ。気持ち悪いとか、言ってられない!」

「その意気ですぞ、エリス様!」



 死角からの攻撃はカタリナとセバスンが捌いていく。こうして話している今も、隙を狙って盗賊が刃を向けてきたが、二人が糸で絡み切って裁断していった。



「数、明らかに増えているね……百は超えてそうな気がする」

「敵も増援を送り込んだってことか……オレ達だけで凌げるか?」

「凌ぎ切る、の間違いでしょ?」

「……そうだな!」



 気分を改め、アーサーはカヴァスに跨り敵陣に飛び込む。


 聖剣が触れた者の命を、悉く骸に変えていく――





「っと……!」

「地震だね、ボクのご主人!」


「本命、来ましたか……」

「少し防御を固めておくか……エルマー、頼んだぞ」





 さながら盗賊共を山に見立てるようにして、その男はやってきた。


 全身が石に包まれ、瞳の代わりだろうか、赤い点が微かに覗く。


 そうして汚らわしい、癪に障る、実に不快な高笑いをするのだ――






「ぐへへへへへへへへへへええええええ!!! わしが来たぞ!!!」


「おめえら全員下がれ――あとはわしがやる!!!」



   \アイアイサー!!!/








「……」



 振り返ってみれば、自分の調子が狂い出したのは、あいつが余計なことを仄めかしたからだ。


 苦い記憶に立ち向かう覚悟を固めながら、アーサーは剣を構える――



「……」


「……な……」





 その途中に、別の人影を見た。


 石の男に付き纏う、幼女。金髪青目の、ぴっちりとしたブラウスに過度に膨らんだ胸部――





「おいアーサー? 冷や汗流れてるぞ?」

「ああ……ありがとう」



 どちらか片方だけが相手なら、向き合う覚悟も決まるのだが――


 両方同時に来られては、流石に動揺してしまう。





「おっと! こっち向いたぞ!」

「来るよ……」

「……!」



 明らかに目が合った。男とも幼女とも。


 しかし男が一目散に向かってくるのに対して、幼女は男から離れ、何処かに隠れていってしまう。




 今はそれが僥倖だった。覚悟を固める相手が一人だけになったので、冷静さを取り戻す。



「……前に出るぞ。奴は馬鹿みたいな怪力だ、ここじゃ村も巻き込まれる!」

「ちょっと、アーサー!?」

「その提案に乗りましょうか。現に今不味い気配を感じていますので……!」

「うおおおおおーーーい!!」



 ここでようやくギネヴィアも合流。リズもやってきてマットの肩にひらりと乗った。


 しかしギネヴィアは軽く手を振り応答したかと思いきや、カヴァスに乗って進んでいったアーサーに追い付かんと尚ひた走る。



「ギネヴィアー!? 敵、すっごくやばいんだからねー!?」

「……何ですか彼女、向こう見ずなんですか?」

「まあ、常に明後日の方向を見ていますね……!」













 どれぐらい走ったかもわからなくなってきた所で、男の攻撃が飛んできた。


 地面を無作為に殴り、その衝撃波が襲い来る。カヴァスはそれを器用に躱した後、魔法でアーサーを押し上げた。



「喰らえっ――!!」





 剣を振り被り、重力のままに男に振り落とす――





「――ふんぬっっっっっっっっっ!!!!!」




 石を纏った腕を持ち上げ――


 只魔力を込めるだけで、その一撃をいなす――



「……」

「ぐへへへへへへ……ぐへへへへへへ!!!」



「久しぶりだなあ、小僧――いや、騎士王!!!」



 ありとあらゆる不快な感情を刺激する高笑い。冷静を心掛け、アーサーは剣を正面に持っていき対峙する。





「あんたとは二度と遭いたくなかったがな……!」

「そーれは無粋なこと言うねえ、わしはこんなにも逢いたかったのに!!!」

「何故この村を襲った!」

「わしもそろそろ動き出そうと思って、謂わばうぉーみんぐあっぷってやつさあ!!! 軽く身体を動かすのに、この村が標的になった、それだけだぁ!!!」

「あんたの私情如きに、壊滅させられた村の人達の気持ちは――わかるわけがないな!」



 言葉を颯爽と切り上げ、アーサーは間合いを詰める。


 素早く振り下ろされた一撃、男は腕でそれを弾く。


 互いに本気の死合、介入の余地は見当たらない――







「……どうしよう」


「急いで来たはいいけど、何すりゃいいんだ……!!!」



 呆然と立ち尽くすことしかできないギネヴィア。そこに友人と傭兵達も合流してくる。



「ギネヴィア! 今の状況は!」

「戦闘が始まった! アーサーと石のクソ野郎が何かやばい!」

「雑ぅ!! でもまあ、やれることはやるぞ!!」



 アレグロの命令に沿って、ゆったりとした中にも焦りを感じさせるフレーズが響く。


 一先ずこれでと様子を見るイザーク――だが、男の勢いは変わらない。



「あ゛ー!! ドッカンバッタン五月蠅くて、全ッ然音が小せえ!! 出力全開だ!!」

「……手伝うよ。どうにも介入の余地が見当たらない……あたしの糸だと、ね」

「オッケー頼むわ!」


「これはもう……彼に任せて、こちらは支援に徹するしかないのでは?」

「何もしないって言うんですか?」

「いいえ、することはありますよ。ほら――」





 激しい戦闘に引き寄せられるように、周囲には魔物の姿が見える。


 皆一様に橙色、或いは元の肉体に橙色の画材をぶちまけたような色だ。



「恐るべき八の巨人フルングニル、どうやらあの石の男は本当にその力を有しているようだな!」

「スルトが出たら周囲が火の海になったのと、同じ現象が起こってるんですね!」

「左様!」



 マットは戦闘を素早く避け、アーサーに襲い掛からんとしていた者を貫く。


 それを尻目に彼方に向かおうとしていたワイバーンが、イーサンが投げ飛ばしたバスタードソードに両断されて地に伏した。



「……殲滅しますよ。この魔物共も村に行ってしまったら大変です。エリス殿、ギネヴィア殿、信頼できる剣の腕ですよね?」

「信頼していいですよ。何があろうとも!」

「おっしゃー!!! やったるぞー!!!」

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