自分達の魔法を駆使し、数キロ先にある村まで走る走る。
到着した時には時間は更に数十分経ち、更に凄惨な光景が救援者を出迎える。
「血の臭い……っ」
「……既に犠牲者が出てしまいましたか」
数秒だけ目を閉じた後、マットは村に足を踏み入れる。
見張りと思われる者が接触してきた。
「あ、あんたは……戦える人かい!?」
「傭兵をしております。同業者がここから逃げてきたので、それで駆け付けました」
「そ、それなら!! こっから北西だ!! そっちから、盗賊共が――」
げーっはっはっはっはっはっはあ!!!!!!!
「……!!!」
「向かう間もなく来ましたね……!」
獅子の紋章が刻まれた外套を羽織り、すばしっこい身のこなしで魔物と見紛うような、小汚い集団が迫ってくる。
その数は、おおよそ数十といったところだろうか。
「気を付けてくださいね。連中は銃を使う可能性があります」
「銃? 遠くから狙撃するやつ?」
「いや、狙撃する長い銃じゃねえ。詳しい説明は時間がないから省くが……くれぐれも距離を詰めすぎるなよ!」
村に危害が加えないように、こちらもある程度前に出ていく。
交戦が始まり、鋼のかち合う音が響いた――
「えいっ!」
「んなあっ!?」
「……わたしのこと、女の子だって甘く見ないでね!」
腕慣らしに剣を振った後、エリスはイザークと背中合わせに立つ。
「何だ何だ! カッコイイこと言うじゃん!」
「……正直、一度は言ってみたかったんだよね!」
「ハッハー! イカすぅ!」
片手間にイザークとサイリはギターを掻き鳴らす。細かいサウンドは敵視する相手の精神を掻き乱す。
そうして盗賊達は、軽く発狂したかと思いきや更に攻勢の手を強める。
「チッ、しぶといな! 妨害が効いている感触はあるんだけどな!」
「大体盗賊ってのは、人間性を捨てた代わりに生命力が上がっているもんなんですよ……それっ!」
マットが盗賊の心臓を貫く。剣を抜く際に醜い色の血が飛び散る。
「イザーク殿、感謝致します。貴方が音で妨害してくださるお陰で、こちらも急所を貫きやすい」
「しかもこっちには身体強化がされるときた! おらあっ!!」
バスタードソードに力を加え、重さを武器に敵を両断していくイーサン。一瞬にして肉塊へと変貌していく様は、慣れていないと眩暈がしそうだ。
「……ふー」
「エリス、大丈夫? 少し休む?」
「平気……これは生死を懸けた戦い。油断をした方が死ぬ。気持ち悪いとか、言ってられない!」
「その意気ですぞ、エリス様!」
死角からの攻撃はカタリナとセバスンが捌いていく。こうして話している今も、隙を狙って盗賊が刃を向けてきたが、二人が糸で絡み切って裁断していった。
「数、明らかに増えているね……百は超えてそうな気がする」
「敵も増援を送り込んだってことか……オレ達だけで凌げるか?」
「凌ぎ切る、の間違いでしょ?」
「……そうだな!」
気分を改め、アーサーはカヴァスに跨り敵陣に飛び込む。
聖剣が触れた者の命を、悉く骸に変えていく――
「っと……!」
「地震だね、ボクのご主人!」
「本命、来ましたか……」
「少し防御を固めておくか……エルマー、頼んだぞ」
さながら盗賊共を山に見立てるようにして、その男はやってきた。
全身が石に包まれ、瞳の代わりだろうか、赤い点が微かに覗く。
そうして汚らわしい、癪に障る、実に不快な高笑いをするのだ――
「ぐへへへへへへへへへへええええええ!!! わしが来たぞ!!!」
「おめえら全員下がれ――あとはわしがやる!!!」
\アイアイサー!!!/
「……」
振り返ってみれば、自分の調子が狂い出したのは、あいつが余計なことを仄めかしたからだ。
苦い記憶に立ち向かう覚悟を固めながら、アーサーは剣を構える――
「……」
「……な……」
その途中に、別の人影を見た。
石の男に付き纏う、幼女。金髪青目の、ぴっちりとしたブラウスに過度に膨らんだ胸部――
「おいアーサー? 冷や汗流れてるぞ?」
「ああ……ありがとう」
どちらか片方だけが相手なら、向き合う覚悟も決まるのだが――
両方同時に来られては、流石に動揺してしまう。
「おっと! こっち向いたぞ!」
「来るよ……」
「……!」
明らかに目が合った。男とも幼女とも。
しかし男が一目散に向かってくるのに対して、幼女は男から離れ、何処かに隠れていってしまう。
今はそれが僥倖だった。覚悟を固める相手が一人だけになったので、冷静さを取り戻す。
「……前に出るぞ。奴は馬鹿みたいな怪力だ、ここじゃ村も巻き込まれる!」
「ちょっと、アーサー!?」
「その提案に乗りましょうか。現に今不味い気配を感じていますので……!」
「うおおおおおーーーい!!」
ここでようやくギネヴィアも合流。リズもやってきてマットの肩にひらりと乗った。
しかしギネヴィアは軽く手を振り応答したかと思いきや、カヴァスに乗って進んでいったアーサーに追い付かんと尚ひた走る。
「ギネヴィアー!? 敵、すっごくやばいんだからねー!?」
「……何ですか彼女、向こう見ずなんですか?」
「まあ、常に明後日の方向を見ていますね……!」
どれぐらい走ったかもわからなくなってきた所で、男の攻撃が飛んできた。
地面を無作為に殴り、その衝撃波が襲い来る。カヴァスはそれを器用に躱した後、魔法でアーサーを押し上げた。
「喰らえっ――!!」
剣を振り被り、重力のままに男に振り落とす――
「――ふんぬっっっっっっっっっ!!!!!」
石を纏った腕を持ち上げ――
只魔力を込めるだけで、その一撃をいなす――
「……」
「ぐへへへへへへ……ぐへへへへへへ!!!」
「久しぶりだなあ、小僧――いや、騎士王!!!」
ありとあらゆる不快な感情を刺激する高笑い。冷静を心掛け、アーサーは剣を正面に持っていき対峙する。
「あんたとは二度と遭いたくなかったがな……!」
「そーれは無粋なこと言うねえ、わしはこんなにも逢いたかったのに!!!」
「何故この村を襲った!」
「わしもそろそろ動き出そうと思って、謂わばうぉーみんぐあっぷってやつさあ!!! 軽く身体を動かすのに、この村が標的になった、それだけだぁ!!!」
「あんたの私情如きに、壊滅させられた村の人達の気持ちは――わかるわけがないな!」
言葉を颯爽と切り上げ、アーサーは間合いを詰める。
素早く振り下ろされた一撃、男は腕でそれを弾く。
互いに本気の死合、介入の余地は見当たらない――
「……どうしよう」
「急いで来たはいいけど、何すりゃいいんだ……!!!」
呆然と立ち尽くすことしかできないギネヴィア。そこに友人と傭兵達も合流してくる。
「ギネヴィア! 今の状況は!」
「戦闘が始まった! アーサーと石のクソ野郎が何かやばい!」
「雑ぅ!! でもまあ、やれることはやるぞ!!」
アレグロの命令に沿って、ゆったりとした中にも焦りを感じさせるフレーズが響く。
一先ずこれでと様子を見るイザーク――だが、男の勢いは変わらない。
「あ゛ー!! ドッカンバッタン五月蠅くて、全ッ然音が小せえ!! 出力全開だ!!」
「……手伝うよ。どうにも介入の余地が見当たらない……あたしの糸だと、ね」
「オッケー頼むわ!」
「これはもう……彼に任せて、こちらは支援に徹するしかないのでは?」
「何もしないって言うんですか?」
「いいえ、することはありますよ。ほら――」
激しい戦闘に引き寄せられるように、周囲には魔物の姿が見える。
皆一様に橙色、或いは元の肉体に橙色の画材をぶちまけたような色だ。
「恐るべき八の巨人フルングニル、どうやらあの石の男は本当にその力を有しているようだな!」
「スルトが出たら周囲が火の海になったのと、同じ現象が起こってるんですね!」
「左様!」
マットは戦闘を素早く避け、アーサーに襲い掛からんとしていた者を貫く。
それを尻目に彼方に向かおうとしていたワイバーンが、イーサンが投げ飛ばしたバスタードソードに両断されて地に伏した。
「……殲滅しますよ。この魔物共も村に行ってしまったら大変です。エリス殿、ギネヴィア殿、信頼できる剣の腕ですよね?」
「信頼していいですよ。何があろうとも!」
「おっしゃー!!! やったるぞー!!!」
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