ナイトメア・アーサー

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第五百六十四話 合同魔術訓練・前編

公開日時: 2021年4月7日(水) 06:36
文字数:4,292

 こうして各々街を堪能した翌日、二日目。いよいよ合同魔術訓練が始まる。


 街の防壁より少し出た所に特設された訓練場。地形も豊富に取り揃えたそこで訓練は行われる。




「ケビン先生、結界状況は実に良好です。不具合は見られません」

「なら良しだ。ご苦労、君は下がって休んでくれ」

「ありがとうございます!」



 若い魔法学の教師が頭を下げ、てくてく撤収していく。


 それと入れ替わるようにディレオとヘルマンがやってきて、ケビンに状況を説明してもらった。



「経過は良好! これぐらいの規模を展開しておいて?」

「流石に複雑な術式を組んで、頭を使いましたがね」

「凄いですケビン先生~! 流石グレイスウィル一の魔法学教師!」

「ははは、褒めても何も出ませんよ?」

「……」



 ぽけーっと結界の術式を眺めるヘルマン。



「どうされましたか?」

「いやあ……この結界の構築指揮したの、ケビン先生なんですよね」

「そうですよ」

「……意味深なこと言おうとしたけど語彙が足りないですわ」



 振り向いた彼の化粧が若干落ち掛かっており、骨のようなすっぴんが微妙に露わに。



「あの、今振り向かれてぞくっとしました正直」

「んあー、化粧落ちてたか? ちゃんと防護結界張ったのにこれかぁ……」

「……何だか昨日より益々強くなってますよね、熱波。本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫にするのが我々教師の務めだろう?」

「……はい、その通りです! 弱腰になってました!」



 見回り行ってきます! と出ていくディレオ。



「若いっていいですなあ、本当」

「ヘルマン先生も十分若いですよ、私に比べれば」

「ええっ、ケビン先生って一体おいくつなんです?」

「千より大きい数は忘れました」

「……冗談ですよね?」

「冗談ですが?」

「ですよね~、あっはっはっは~……」

「はっはっは」














 訓練場に到着した生徒達は、各班毎に地形毎に区画に誘導される。


 日程は午前訓練、昼食、午後訓練の三つに分けられており、昼食を挟んで訓練区画が変わる。一日で二つの地形に合わせた訓練が行えるということだ。



「さてさて初日の日程は~……どん!」



 リーシャが真っ先に足を踏み入れたのは、水の濁った沼地であった。



「沼地かあ、足取られてやなんだけど~」

「すすぐ水も自分達で出すんだからね~」

「うえ~」

「さてさて、訓練プログラム」



 各自配布されたプログラムを手に取る。初回の午前ということもあってか、ウォーミングアップ的なノルマが多く課せられている。



「三年生は四年生の魔法を見て、気付いたことを学ぶ。四年生は三年生の魔法を見て、気付いたことを教える。そういった感じでコミュニケーションを積極的に図れってさ~」

「!!!!!!!???????」



 まさかの指示に心臓が飛び出しそうになるネヴィル。そんな彼を気にしているのは同姓且つ顔見知りのルドベックだけだ。



「指摘は得意ですよ私」

「でも言葉は選ぶんだよ?」

「それは……善処します」

「にやり~……」

「な、何ですか」

「おまえ~……学園祭の時といい、結構可愛い所あるなぁ~……」



 比較的足を取られない位置に移動した後、ミーナを引っ張るリーシャ。



「あの、班長一応うちだから。忘れんなよリーシャ。ワラ」

「はいはい点呼はお願いね~。んでんでミーナ、先鋒決めてよ」

「へえっ」

「私普段とは違う貴女の姿見てみたい~……」



 (……!!!)





「ミーナさんが困っている……まさか自分が先にと言われるなんて想像もしていなかった顔だ……ここは僕が助け舟を出すべきか、出すべきなのか……!!! そして先鋒を決めてリーシャさんにキャー緊張にも負けず魔法を繰り出してかっこいいーなんて言われてやんややんやされて「ネヴィル君、心の声が……」「当の本人に聞かれてなくてよかったな……」





 そうこうしているとミーナの準備が終わった。学生服に愛用の杖を持って深呼吸を繰り返している。



「ええと――では私は氷属性なので――すぅ――」


円舞曲は今此処に、サレヴィア・残虐たる氷の神よカルシクル!」



 真っ直ぐ向けた杖から真っ直ぐ氷が伸びる。


 氷の塊は真っ直ぐ地面に落ちていき、沼を真っ直ぐ凍らせた。



「……お見事! 丁寧な呪文だった!」

「威力も申し分ないんじゃない? これ」

「でも何か、固すぎるっていうかぎこちないっていうか」

「ああ、目の前だけに集中し過ぎて、周囲が見えていない感じだったな」

「くぅ……」



 賞賛と指摘を受けて唇を噛むミーナ。



「この班の属性構成ってどうなってるの?」

「えーと、カタリナが闇、ルドベックが土、うちが水、あと皆氷」

「圧倒的氷率……!」

「どうする? 先に氷属性ズ消化しとく?」

「いや、やりたい人からでいいよ。というわけで次鋒は誰が行くかい」

「はーい!!!」



 手を挙げるよりも身体が先に来てしまったネヴィル。



「……ネヴィル君」

「はいっ!?!?」

「いや、呼んだだけ。普段ネヴィル君が本気出して魔法使ってるとこ、見たことないなあって」

「そそそそそそそ左様でございますかー!!!」



 手にするのは杖ではなく指揮棒。ナイトメアのタクティである。



「では僕の渾身の魔法お見せいたしましょうっ!!! 円舞曲は今此処に、サレヴィア・残虐たる氷の神よカルシクル壮大に現れよディオッソ!!!」




  

 小節線を切り上げるように腕を上げると――




「わああーっ!?」

「っと! 滑るー!!」




 彼の周囲三メートルが忽ち氷に覆われる。




「……」

「ふっふっふ……見ました? 僕範囲に干渉する魔法が得意分野なんです。ほら音楽家ですから? いや違いますね厳密には音楽家志望ですねリーシャさんの前なので思わず見栄張っちゃいましたてへぺろ「凄かったなぁーーー!!!」



「……えっ」



 動揺するネヴィルもよそに、興奮を隠し切れない様子のリーシャ。



「何かもう、凄かった! どんな感覚でやってるのか……教えてくれない!?」


   教えてくれない!?


        教えてくれない――


              くれない――



「わけがないじゃないですかヒャッホーーーーーーーーゥ!!!」

「わーーーーお!!!」


「はいはい、先ずは残りの子やっちゃおうねー」

「次行きまーす!」

「はいよー!」










 





 



 魔術に慣れている生徒が多い班の中には、既に今日のプログラムを終え、午後に予定されているプログラムに片足踏み入れている班もある。


 サラとクラリアの班もその一つだ。



「ええと、特定の属性か系統について気付いたことを纏める……ですって!」



 サネットがプログラム内容を全員に聞こえるように読み上げる。



「まーたざっくりしてるわねぇ~」

「八属性八系統どれでもいいみたいですよ?」

「ワタシ捻くれてるから無属性って言うわよ」

「多分先生方もできるもんならやってみろって思ってんじゃないですかぁ☆」

「メルセデス、アナタも相当に捻くれてるわねぇ~」

「え゛っ」

「まあいいわ、それでどれにする? 選択肢は十六あるけど」

「サラ先輩の回復魔法が見たいです~」



 ここぞとばかりに後輩特有の駄々のこね方を披露するサネット。



「ええ、何よそれ」

「だって実際凄いじゃないですかあ。魔術戦でも大活躍だったでしょう?」

「その通りだぜ! サラの仕掛けてくれた魔法陣が爆発しなきゃアタシ達は危なかったぜ!」

「それ回復魔法じゃないわね」



 場の空気がサラの回復魔法一択で固まってくる。



「……はぁ、仕方ないわねえ」

「やったー!」

「見てるぜー!」

「見てるだけじゃなくって、自分の魔法にも活かせるように学ばないといけないのよ」



 杖を持ちサリアを連れて、森林区画の開けた場所に立つサラ。





「ここに立って気付いた、何を回復すりゃいいのよ」

「あっ」

「地形……とか……?」

「それは復元魔法の区分になるでしょうが……」

「ならアタシとメーチェに任せろー!!!」

「え゛っ!!」

「うおおおおおおおお!!」



 雑に強化魔法を行使して雑に近辺を駆け回ってくるクラリア。アンド巻き込まれたメルセデス。その時間僅か一分。



「めっちゃ疲れたぜ!!!」

「あ゛あ゛あ゛」

「ご、ご苦労様……じゃあワタシの前に立ちなさい。肉体的困憊でしょ?」

「足も腕も滅茶苦茶に痛いぜ!!!」

「う゛あ゛あ゛」



 どんっと胸を張って立つクラリア、引っ張られるようにして隣に置かれるメルセデス。



「好き放題やる狼と屈する兎、子供向け絵本とかでありがちなシチュエーションねえ……まあいいわ、やるわよ」





 頭の中でイメージ。今目の前にいる相手の、傷が癒えて元気になっている姿。呪文は口に出さない。イメージと同時にさり気なく唱える。


 加えて今は訓練なので、対象者二名に対して敢えて、それぞれ工夫を凝らす。



「おお……!」

「えっと、魔法の様子もよく観察しなきゃ……!」



 クラリアはばちばちと点滅を繰り返す光、メルセデスは数秒だけぱっと強まった光に包まれた。



「うおおおおお……?」

「んひょー!!!」



 いまいち効能を感じられていない様子のクラリア、対照的にそれはそれは元気になって周囲をぴょんぴょん走り回るメルセデス。



「ちょーっと強化し過ぎたかしらねぇん」

「強化魔法ですか?」

「まあ副次的効果みたいな。対象者の体力を即座に回復させた上で、暫くの間身体強化を付与する。当然二系統の内容になるから、かなり慣れないと無理よ」

「それを使ってみせるなんて凄いです!」

      <ほわああああああーーーー!!!

「アタシには一体何をしたんだぜー?」

「継続回復。アイツはより疲労が蓄積していると見たから即効性を重視したけど、アナタは別にそこまででもないでしょ」

「走り回るのには慣れてるからな! あと、今になって力が戻ってきた感じがするぜー!」

      <はあっ! はあっ!


 戻ってきたメルセデス、熱心にメモを取るサネット他の班員達。



「まあデモンストレーションとしてさっくりやってみたけど、割と奥深いわよ、回復魔法。他の種類としては敵に命中すると打点を与える反転回復とか、ワタシが魔術戦でちらっと使った回復領域とかあるわ」

「やばい、話聞いてるだけでも勉強になりそう」

「あとさっき地形を治すって言ってたけど、実はそれも術式として確立されている。魔法陣を前提としてたり、地形や建築についての知識が別途必要だけど」

「流石世界で一番研究されているだけありますね!」

「おまんも回復魔法沼に落ちぬか」

「いや!! 強化魔法も捨て難いぜ!!」



 サラの肩に手を乗せ、ぴょんぴょん跳ねるクラリア。



「何か張り合ってきたわこの子」

「先輩、捨て難いって自分を主語にして使う言葉ですよぉ☆」

「自分に強化魔法掛けてガンガン責めるのは楽しいぞ!!」

「聞けよ!!!」

「で、この後どうすんのよ。ワタシの知ってる回復魔法披露していく?」

「それでお願いします!」

「よし、行け」

「うおおおおおおおお!!」「え゛っ!!」




 この訓練の時間だけで、クラリアは五回も周囲を走り回り、メルセデスも同様の回数連れ回されて別方向の疲労が溜まったとさ。

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