ナイトメア・アーサー

Honest and bravely knight,Unleash from the night
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第五百四十三話 彼方からの便り

公開日時: 2021年2月21日(日) 10:14
更新日時: 2022年7月24日(日) 01:29
文字数:3,817

 こうして夏の暑さと戦いながら、どうにか部屋まで戻ってきた女子ーず。


 帰ってくるや否やすぐにベッドルームに直行。








「ぐえー」

「はいエリスちゃん、次背中塗るよ」

「うーん」

「ホント骨抜きになってるじゃない」

「ちかれたのー。うあー」

「即効性の高いやつだからねー。めっちゃ染みるよー」

「あ~~~~~」



 エリスに続いて入室し、そのままベッドルームでくつろぐ女子六人。肝心のエリスは下着すらも着用するのを放棄している。



「むみぃ……」

「胸苦しくないの?」

「くるしい……でも薬草塗りたい……」

「はい終わったよー」

「ぶへー」



 寝返りをして仰向けに転がる。ぷるるんっ



「でかい」

「やめろ」

「というかシーツに臭い付くでしょ」

「いいもん洗うもん」


「てか前よりちょっと大きくなってない?」

「だからやめてよぉ」

「アーサーが今のエリス見たらどんな台詞吐くでしょうね」

「……」




 顔を思い浮かべて、考える。




「……ううー」

「やっぱりあいつもさ、見てくるの? 何気ない時に」

「……うん」

「でっすよねー。やっぱ男だ」

「でも、アーサーだから……」


「そのうち見るだけじゃ我慢できなくなったりして」

「……サラは何でそんなこと言うのぉ」

「大体そうじゃない? 特に思春期における男女関係なんて、そういうもんでしょ」

「そういうもん……かな……」






 心のどこかではやはりそう思う所はあるかもしれない。



 けれども大半を占めるのは、恐怖である。






「……いつかね。いつかはちゃんと整理して、受け入れないといけない」

「……」

「でも、それは今じゃなくてもいいかなって……考えてはいる」


「……そうね。ワタシは事実だけを言うけど、そこからどう考えるかは勝手。だからその……ごめんなさいね」

「サラが平謝りとは珍しい。そもそも怒ってないからいいよ。ただ、逃げちゃいけないよなあって」




「……服着る。ギネヴィア、準備して」

「はいはーい」








 暗くなりかけた雰囲気ににセバスンとクラリスが、




 両手に手紙を抱えて戻ってくる。






「おおー二人共。投函箱見に行ってくれていたかー」

「お疲れ様セバスン」

「クラリスもサンキューだぜー!」

「まあ毎日の日課だからな。で、こんな量が届いていたわけだが……」



 ばばーと解き放たれた手紙の山に、ぞろぞろ群がる五人。エリスだけは着替えをしてから行ったので遅れた。






「あ、お母さんからの手紙だー」

「へえ、エリシアさんから。ユーリスさんは苺と一緒に送ってくるよね」

「うん、いつもはそれで済んでるからお母さんが手紙出すの珍しいんだ。どれどれ……」



 そこにはエリスを心配していること、アヴァロン村の近況、そして今月は苺を送れないこと、自分はユーリスの代筆をしていることが書かれてあった。



「んー……今月は苺ないのかあ」

「そりゃまた珍しい。てか初めてじゃない?」

「うん初めて。まあいっぱい収穫できたのをお裾分けしてもらってるだけだから、不作ってことも考えられるけどね」

「その影響で忙しいのかな、ユーリスさん」


「……あ、これサラ宛の手紙だね。差出人はクラジュ王子……」




 すぐにカタリナから手紙を奪い去るサラ。




「あの野郎……」

「王子様から手紙貰ってるんだ」

「ちょくちょくワタシのこと気にかけてんのよ。ったく、余計な世話だ……」


「カタリナ宛の手紙もあったー?」

「あったよ。村の皆から。あの後どんな生活してるか、流行っている物は何か、そんなことがいっぱい書いてる」

「ふふ、それならこっちも嬉しくなるなあ」

「返事にそのことも書いておくね」

「あ、カタリナ宛の手紙もう一通あるな」

「え?」




 その手紙をカタリナに渡すと、彼女は目を丸くした。




「お? どした?」

「……姉さんだ」

「えっ!」

「姉さんからの、手紙だ……」



 すぐに中を開いて読み耽る。



「……」

「……どうだった?」


「……うん。元気だって。姉さんは姉さんの使命を果たしているみたい」

「そっか……そうだ。返事にはわたし達のことも書いてよ!」

「うん、勿論だよ。色んなことをいっぱい書くね……」






「おっとこれはリーシャ宛だ。やけに分厚いぞ」

「んあー? 私ー?」




 手紙の山を漁っていたクラリスから、五通の手紙を受け取る。




「おおこれは! 私の孤児院からだ!」

「メアリー孤児院のみんなかぁ。元気にしてるって?」

「バリバリ元気だって。あはは、便箋から文字がはみ出てる……」

「一人一人メッセージ書いて送ったんだろうね。ううーん、そういうのいいなあ……」

「……で、肝心のこいつの宛先は?」



 ここでクラリスが、手紙を一つクラリアに投げる。



「うおっと! 誰からだ?」

「父上からだ。お前のことを案じているぞ」

「……本当だ! イヴ兄とレイチェルさんの分もある!」



 ふんふんと彼女が読み進めている間に、遂にエリス達も山をまさぐり出す。






「ええと……あれ? これ、全部同じ差出人……?」

「ジル・パルズ・ラズ……「これこれ、しーっ」



 ベッドで手紙を読んでいるクラリアから、遠ざけるようにクラリスが指を動かす。



「あの子は純粋だからな。自分に届いた手紙は全部読もうとしてしまう」

「確かにこんな手紙の数じゃ、一晩かかっても読み切れないね」

「そういうことじゃないと思うよギネヴィア」

「へ?」


「こんなにたくさん送り付けてくるってことは、あれってことでしょ。あれあれ」

「ジル殿はどうにもクラリアに対してストーカー気質な所があってな……」

「私、後ろめたいことだからぼかしていたのに断言されちゃったよ」


「すとーかーって?」

「要はモードレッドみたいなクソ野郎ってことだよ」

「例えとしては微妙に違うと思うが本質的にはそうだな」

「ふーむ……」




 ギネヴィアは山の中から一枚を取って、ぺらぺら捲る。



 どぎつい色の便箋に、どぎつい色のインクで、それらがどうでもよくなるぐらいどきつい文章が書かれていた。




「これはきつい」

「そんなきついのがこれ全部かぁ……」

「父上からの言伝でな。ジル殿がクラリアに近付こうとするなら私の方で事前に遮断してほしいと」

「じゃあクラリアはストーキングされてることも知らないわけかー」

「不思議がっている所はあるけどな……よっと」



 頃合いを見計らって、クラリスはクラリアの隣に移動していく。






「どうだったかな、手紙は」

「父さんもイヴ兄も、レイチェルさんも元気そうで良かったぜ!」

「それは何より」

「ところであの手紙の山は、結局誰宛だったんだ?」

「ああ、どうやら間違って届いてしまったらしい。内容もどうでもいいものだったから、こちらで燃やしておくよ」

「そうか! それがいいな!」











 その頃、カーセラムに行っていた男子達。



 いよいよ夜が訪れようとしてきた所で戻ってきて、居室に戻る前に投函箱を漁ってきていた。






「ふう……一息一息」

「セイロンティーとは優雅ですなあ」

「冷やしているからすっきりしているぞ。お前も飲むか?」

「アイスコーヒーもいいもんでっせ?」

「「ははは~」」



 それぞれリビングのソファーに座り、机を出してそこに手紙を置く。






「どうやら全員にそれぞれ来ているようだ」

「え? マジで?」

「イザークのはこれだな。イアン様からだ」



 露骨に眉を顰めるイザーク。



「捨てといて」

「……」

「何見てんだよ」

「どうせ捨てるなら別にいいだろう」




 藤の花が描かれた便箋に、丁寧に文章が綴られている。


 最近のリネスの町の様子や、自分の心境、そして息子を心配していることが、言葉を丁寧に選んで述べられていた。




「お前を貶すようなことは一つも書いてないぞ」

「は……」

「疑うようなら読んでみるか?」

「……いい」


「そうか。でも事実だからな」

「……」

「オレが取っておいてやるよ。読みたくなったらいつでも言え」




 アーサーはその手紙を片付けると、自分宛の手紙を見つけた。




「これは……エリシアさんか」

「アーサー、母さん? 違う、エリス、母さん」

「そうだ、エリスの母さんだ。まあオレからしても、実質的には親のようなものだが」



 ユーリスが自分のことも気にかけてくれていること、自分自身も心配していることがそこには綴られている。



「……こう、こうな」

「何だよ」

「手紙なんて、貰ったことあまりないから……」

「照れてんのかよ」

「照れてはいないぞ。ただ、珍しいなあって」

「そうなん?」


「手紙を送ってくるのは大体ユーリスさんだからな。しかもエリスにだけ」

「まるでアーサーのことなんてどうでもいいような……」

「まあ、初対面の印象が最悪だったからな……」

「やっと改善されたって感じなんだ」



 そう言うとハンスは自分宛の手紙を閉じる。



「ハンスは誰から来たん?」

「アルトリオス……様。寛雅たる女神の血族ルミナスクランのトップ。同胞にはこうして手紙送ってきて、そして返信しないといけない」

「七面倒臭え」

「まあ、慣れればどうとでもねえ……」



 言葉を切りながら、ハンスはその文面を考えているようであった。






「で、残った二人は機嫌が良さそうだけんど」

「……父上からだ。あの後どうなったかを述べられていてな……多少の罰金は取られてしまったが、命は無事だそうだ」

「そっか! それは良かった! ボクらの分までお礼しといてよ!」

「ああ、加筆しておこう」


「それでルシュドは……おっ、ルカさんって書いてるな」

「姉ちゃん、手紙。おれ、嬉しい。えへへ」

「えーと何々? 『ルシュドは男なんだからちゃんとデートでキアラちゃん喜ばせるんだよ』?」

「うわあっ!」

「何だ、初デートの日程決まったのか。何かあったらオレを頼ってくれよ、全力で支援する」

「……お、お願いっ。えへへ……」








 こうして彼方からの便りを肴に、夜を過ごす一同であった。

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