「ジャジャネット~ジャジャネット~!!! 今日もやってきました超天才魔術師ジャネット様が発明品を売りさばいちゃうよコーナー!!! 今日紹介するのはこれ!!!」
「『いつでもどこでも簡単楽々鍋』!!!」
「ネーミングセンスが安直じゃ」
「ヘイ!!! 僕ちゃんの相棒ドリーさんよ!!! 難しい言い回しするよりはぱっと見でどんな性能かわかった方がいいんだよー!!!」
「わーったから早く商品の説明をせんか」
「オッケーバブリー!!! 唐突だがキミは『ヨッスィー=ナッヴェー』というお料理を知っているかな!?」
「『寄せ鍋』じゃろうが。味のついたスープに様々な食材を入れ、煮込んで楽しむ料理じゃな。食材の旨味が煮込まれることによって引き出され、食材同士やスープとの相乗効果でとても美味い」
「丁寧且つ完璧な説明アリガトゥッ!!! そう、寄せ鍋は食材をスープにぶち込むだけだから準備の手間がそんなに掛からない……バット!!! その分道具とか場所とかで広めにスペース取らないといけないんだよね~~~!!!」
「だがこの鍋を使えばそんな悩みも解決じゃな」
「イクザクトリー!!!」
「この鍋は近年話題沸騰の魔力鋼をふんだんに活用!!! これにより従来の鉄鍋では不可能だったぐねんぐねんに折り曲げるって行為が可能になってるぜい!!!」
「真ん中をこう、べこっとへこませられるんじゃな」
「空間の有効活用だね☆ 平らになるから置き場に困らナーイ!!! ここに食器とか寄せ鍋に使う諸々をぶち込んでもオッケーだ!!!」
「そして、件の底の部分。普段は赤くなっているが、スイッチを入れると鋼でコーディングされるんじゃな」
「それこそがいつでもどこでもを名乗っている最大の理由!!! これは火属性の魔力を通していて、使わない時は魔力を通さないからベリークーリング!!! 必要な時だけ熱することができて、しかも内蔵している回路のみで起動するから火種を用意する必要もない!!!」
「机の上に置いて気軽にドンじゃな。もうこれは買うしかないな。でもお高いんでしょう、じゃ」
「待ちたまえドリー!!! まだ説明してない特徴があるんだけど!!! 面倒臭くなったからって切り上げようとすんなー!!!」
「というわけですね!!!」
「僕買っちゃったんですよ!!! 『いつでもどこでも簡単楽々鍋』!!!」
ばーんと買ったばかりの鍋を広げるのは、グレイスウィル魔法学園の若き教師ディレオ。
彼の同僚である四年生の教師陣は、よくわからない感情を持ってして彼を見つめている。
「……お前、まさかジャネットに騙されるなんて」
「いや!! いや!! これは騙されてないです!! 僕の知り合いもめっちゃこれ使ってます!!」
「知り合いってティナの同僚ですかぁ。それなら信頼できるんでしょうかねぇ」
「ミーガン先生!! 何で最後疑問形なんですか!!」
「いやだってジャネット……ジャネットは、ねえ?」
はぁと溜息をつくのはリーン。前に酷い目に遭った記憶が沸々と蘇ってきやがる。
「『どんな土でも楽々惚れちゃうよ鍬』……あれ使った三日後に爆発して返品したんですけど……」
「それは偶々仕入れた素材が悪かったのだろう」
「ルドミリア先生はどうあがいてもジャネットを擁護するんだから黙っててください」
「」
「まあ試供品って言われてたのに、買っちゃったこっちにも落ち度はある……うっ、苦い記憶が」
ならば鍋で浄化しましょう! とディレオは叫ぶ。
「ちょっ、えっ、ここでやるんですか!?」
「だっていつでもどこでもですよ! 魔法学園の職員室、休憩時間にもぱっとできるんです! さあてどこに置こうかな!」
「それでしたら私の席をお使いください」
ハインリヒはすっと立ち上がり、ディレオに席を譲る。
「いいんですか!? 本当に使っちゃっていいんですか!?」
「食べさせてくださいよ。あと近くに座らせてください」
「やったーハインリヒ先生ありがとうー! でも防音魔法は流石に使っとこうー!」
それからいつの間に調達してきたのか、スープに具材をどばどば入れていく。
「……何鍋?」
「普通の寄せ鍋です! 鶏のダシが効いてますよ!」
「ああ、流石に匂い嗅いだら腹が減ってきた……俺は食べちゃう!!」
「ヘルマン先生、これ湯気ですよ」
「わーってんだよんなことはぁー!!」
顔を近付けて鍋を覗いたヘルマン、みるみるうちに化粧が溶ける。
「ああ~……うおーたーぷるーふがあ~……」
「水に強い化粧だったんですか……」
「でも安いのだったから、効能もこんなもんかもしれない……ああううああ~……」
情けない声を出すヘルマンをよそに、鍋をつつきだす一同。一応遮蔽の魔法をハインリヒが行使したが、気にされる物は気にされるのだ。
「人参大根鶏肉え~と……この白くてぶよぶよしてるの、何」
「それはしらたきです! 煮込んで食べると美味しいんですよ!」
「へえ~……あっ確かに美味しい」
「タレもあるぞ~。酢と果物とあと何かをぶち込んだ焼肉用タレだ!」
「合うんですかねそれ……」
「……」
でかい鍋を眼前にどんと置かれたハインリヒ。
しかし機嫌を損ねる様子はなく、寧ろ手を伸ばして何かを感じ取っている。
「魔力回路でも見ているんですか?」
「ご明察。最近嵌ってましてね……」
「え、魔法具の魔力回路覗くのですか?」
「魔法具に限らず、魔法陣も魔術も色々見ているんですよ」
「……」
「何と言いますかぁ、ハインリヒ先生も意外な趣味があるのですねぇ」
「意外にも釣り趣味持ってる人に言われたくないですよ」
現在絶賛魔法音楽を漁っているエルフ女性がそれを言う。
「やあ、私がいない間に楽しそうなことを」
「おやおやニース先生。どうぞ先生も食べていってくださいよ。あと先生には何か趣味ありますか」
「趣味? そうだな、グラフィティの練習とか研究とかかな……」
「ニース先生らしい。でもって僕はこれといって決まった趣味がないんですよね……」
「それもまたありだと思うぞ俺は。ディレオ先生はまだまだ若いんだから色々試してみなさい。因みに俺の趣味は何だと思う?」
「どうせ化粧品漁りでしょう?」
「どうせって何だどうせって! まあ正解だけど!」
「てかルドミリア先生は食べないんですか?」
「私はジャネットに新品を譲ってもらったからな。家でじっくり楽しむよ」
「そのルートがありましたかぁ」
手と一緒に口も進む。心を通わせ穏やかな雰囲気を作るには、酒よりも食べ物を優先させた方がよいのかもしれない。
「……そういえばハインリヒ先生」
「何ですか」
「先生って……保健室のゲルダ先生と、どんな関係なんです?」
ハインリヒの手が止まり、思案する態勢に移る。
「……質問の意図を伺っても?」
「いや、お二人って何か仲いいなあって。何度も一緒にいる所目撃してますもん。僕が教師になってからもそうだし、生徒だった頃から何となく思ってましたよ」
「成程……」
また食べる手を再開してから、ハインリヒは喋る。
「友人なんですよ、昔からの」
「昔……」
「他の皆さんは……リーン先生以外は、まだ生まれてない頃の話です。彼女とは共に生活し、そして魔術を学んだ仲でした」
「私と先生が生まれ育った場所って違いますもんね。まあ知らないんですけど」
「活気溢れる、巨大な町でしたよ……」
ぼんやりと手が止まっていき、そして見えもしないはずの湯気をじっと見つめ出す。
「……ローランド」
「きっとお前も、こうして鍋をつついてみたかっただろうに……」
「……先生?」
「……すみません、少し呆然としていました」
「そうでしたか……」
しんみりとした雰囲気の中、盛大にシメの白米がぶち込まれていくのであった。
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