ナイトメア・アーサー

Honest and bravely knight,Unleash from the night
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第七百八十三話 ルインシーカー・その一

公開日時: 2021年11月23日(火) 21:41
文字数:4,663

 ログレス平原のしがない町ニアーチェスターと、ログレス平原の大遺跡ウィンチェスター。二つの距離は散歩気分で歩いていっても三時間程度、まして乗り物を使えば所要時間はもっと縮む。


 そこまで遠くない距離といえよう。けれどもウィンチェスターに広がる遺跡一帯は、近郊の惨劇なぞ知らぬ顔で、今日も学者達に調べ回られている。




 悠久の時を讚えている、と評するには暑さが邪魔に感じられた。少年少女の冒険に、予定外の延長が加わった八月のある日。






「見えてきたぞ……段階的に速度を落としていけ」

「ああ」



 ヴィクトールの指示を受け、アーサーは魔力球を操作する。




 後ろを確認すると、友人達がこの暑さにくたびれていた所だった。



「あ゛づい゛っ……」

「午前八時にニアーチェスター出て? 今が十時ぐらい? それでこの暑さ???」

「やばいよやばい……帰る時はえげつなさそう」




 雲一つない快晴。それは太陽の光が余すことなく注がれることを意味する。


 という状況に置かれると誰よりも心配な人物がいるのだが。




「ヴィクトール、日傘はちゃんと差しているだろうなぁ!」

「当然だろう。シャドウに変身してもらい、傘置きになってもらっている。俺は貴様等が考え付く以前に行動を完了している」

「そっすか、それは何よりっす」


「……」

「エリスちゃん……ニアーチェスターが心配?」

「……少しは。でもそれより、一昨日から今日まであっという間だったなあって」

「わかるぅ~……この調査も、あっという間に終わっちゃうんだろうなあ」

「何かハプニングがあったとしても、終わってしまえば早いよね」




 そうしてただそりに乗っているだけの、暇を持て余した時間で語り合っているのも束の間、



 目的地は目と鼻の先に――











「よーし、降りろ降りろー。そりをしまうよー」

「あまり音は立てないようにな。何があるかわからん」

「わっとと、先に言ってよ。ふう……」




 視界に入る城壁。煉瓦を積み重ねて構築された、ありふれた構造の町を取り囲む壁。


 羅針盤と地図を確認しつつ入り口を探す――




「むっ」

「どしたのクラリア」

「前方に集団を発見だ。あと天幕っぽいのもあるぜ」

「天幕……?」



 全員が内部強化を行い、クラリアと同じ方角を見る。




 伝えてくれた物と同様の存在が見える。天幕が二十数個、集団がローブ姿の者とそうでない者が半分ずつ。



「まさか……キャメロット?」

「ここからでは確認できんな……」




 慎重に距離を詰めつつ、特にローブ姿の人間を観察する。キャメロットの所属を表明する、花園を模した紋章はどこにも見当たらない。




 加えて『ウィンチェスター遺跡観光案内実施中!!!興味なくても取り敢えず来てみない!?!?というか来てくださいお願いします!!!』という旗が立っていたので、余計に警戒心が解ける。




「……マジで人が来ないと見た」

「切実な心の叫びだぁ……で、どーすんの」

「ここまで来たらぐぐっと接近した方がいいっしょ。ボクが行きまーしゃあ!」




 ひょいひょいと歩み出し、一気にローブ姿の人間と距離を縮めるイザーク。






 何も知らないことを装いつつ接触を開始する。




「こんちゃっす!」

「ああ、君は……魔法学園の学生さんかな? そうでもないとこんな遺跡には来ないもんな」

「そんな自虐も程々にしてくださいよー! 確かに学生ではあるけども! ところで兄さん今何してるんすか?」

「ウィンチェスター遺跡調査の拠点管理――かな。ついでにこっちに来た物好きな旅行客の対応」



 ローブを着用している人間は全員、遺跡を調査している考古学者なのだと教えてくれた。


 それを確認できたイザークは、待機していた十人を手招きで誘導する。






「わーっ団体客だぁ!! ……すみません久々なもので。取り乱してしまった」

「いっすよ別に。で、観光客の対応してるってお話でしたけど」

「そうそう……一応ね。見所の案内とかやってるわけよ。無料で。金を取り立てたいけど逆に人来なくなりそうだしさ……」


「ウィンチェスター遺跡って、散々何もない何もないって言われているじゃないですか。でも本当に何もないんだったら、遺跡なんて呼ばれはしませんよねぇ?」

「あのね、あるにはあるんだよ。聖杯時代近辺の建造物とか家屋とか。でもそれらはぜーんぶティンタジェルにあるから、そっちでいいのさ!!! 保存状態もこっちに比べりゃ遥かに良好だし!!!」

「なーるほど、ウィンチェスター特有の何かがないって意味なんすねえ」




 仮にも聖杯のある町と交流して栄えたというのに、些か不自然な気もしないでないが。




「だーれもがそう言ってんの。歴史だけあって遺物がないのは絶対おかしいって。俺もそう思ったけど、発掘すればする程何もないことだけが証明されてってよぉ~……」




「……ま、そういう遺跡さここは。そんなウィンチェスターに君達は如何程な用事で来たのかな。絶対宿題だとは思うんだけど」

「そうです、学園の課題でウィンチェスター遺跡について調べることになりまして」

「物好きな課題を出す教師もいるもんだ……それとも自由研究? どのみち風変わりなことには変わらないや。折角の縁だし俺が案内してやるよ、勿論タダでな!」











 遺跡に突入する前、多数の天幕や一般人を見かけたが、彼らは旅の途中等で偶々立ち寄っただけであり、遺跡観光が主目的ではないとのこと。出来心で観光しても、ものの数分で直ぐに飽きて帰っていく。



「あと昔は考古学者じゃなくて魔術師もいたりしたんだけどね。グレイスウィルからキャメロットまで。でも今は全部撤退して誰もいないかな」

「今はですか」

「そうそう。ふとした時にやってきて、適当やって帰っていくんだよ。今は丁度その帰っている段階だ。これがずーっと帝国時代の初期から続けられてるんってだから、驚きだよな~。まっ、こそこそやられていたら流石にお手上げだけど……」




 とりわけ十年前、カムラン魔術協会が駐在していた時が、一番生きた心地がしなかったという。




「何でカムランがここに来たんすかねえ?」

「俺が知りたいよそれは。とにかく連中は数ヶ月かな、他の人間には知られないような独自調査しててさ。それが終わったんだがさっさと帰っちまった。後にも先にも来たのはそれっきりだけどな」

「二度と来ないでほしいっすねえ。黒魔法なんて使われちゃ溜まったもんじゃない」




 カムランは既にその一端に触れている――いつかの覚書の一文が、アーサーの脳裏に想起される。



 彼らにまつわる何かも眠っているのだろうか――懸念事項は尽きない。






 そうして話に一区切りつく頃には、とっくに遺跡の中に入っていた。




 大通りと思われる道を行き、広場と思われる場所に到着。この遺跡の丁度中央であるとのこと。




「こっから東西南北~って感じだな。でもどっちに行ったって何も見所ないよ。まあ、暑いから体調に気を付けてな……」



 これで自分の仕事は終わり、とでも言うように考古学者はふらふら去っていく。






「……大丈夫なんだろかあの兄さん」

「わたし達の知ったことではない」

「ずばっと言うねえエリスちゃん。さーとにもかくにも……探索の時間だ」




 先程ついでに貰った地図を広げる。これでどこに何があるのかは一目瞭然だが、だからといって全てが解決するわけでは一切ない。




「それっぽい施設! どこぞ!?」

「一見した感じではなさそうなんだが」

「となるとやっぱし……手探りで調べていくしかないか?」

「どこもかしこも同じのばっかで、見当がつかない!」

「口を滑らせている暇があるなら……動いた方がいいだろう」



 ヴィクトールは先導するように、一軒の建物に入っていく。




 早速探すぞーというよりは暑さに耐えられなかったのだろうと全員が思った。




「まあ、見当が付けられないなら片っ端から……だよな」

「ではでは行ってみよーやってみよー!」











 こうしてヴィクトールに続いていった一同だが、特に女子六名は入って即座に痛烈な物を目撃することになる。




「おえ~、男性の用足し所~!!!」

「え!? こんな広間のど真ん中にお便所があるんですかぁ!?」

「家や建物に一つは設置されている現在が進歩しただけだぞ……昔は殆どが公衆だ」



 ヴィクトールが仕切りの影から顔を出す。



「ちょっ、先生よぉ。まさかしてたんじゃなかろうな!?」

「度の過ぎた冗談は自らを滅ぼすことになるぞ」

「貴方様の尊厳を侵害してしまい誠に申し訳ありませんでした」

「イザークはさておき、他の貴様等。こちらに道を発見した。行ってみよう」




 一番奥の壁際にヴィクトールは誘導する。そこには確かに道が続いていた。建物の壁が白なのに対し、道は灰色なので不自然だ。




「おトイレから向かう先って……?」

「掘削が最近のものだ。発掘作業の中で道が封鎖されてしまい、代わりの道が作られたのだろう」

「そういうね。だからといってこっちから繋げるか? フツー」











 固い石に覆われ、火魔法の明かりのみを頼りに進む。



 いざ暗闇から解放され、見えてきたものはというと、






「……何あれ?」

「でっかい建物……みたいだな」




 構造だけは立派に、しかし壁は所々崩れ落ちて保存状態が良好とはいえない。




 この建物に続く道は四本。だがそのいずれもが、目に見える距離で土嚢や魔法陣によって、物理的にも魔術的にも封鎖されていた。




 周囲を覆う石壁はどの建物よりも高く。空は見えるのにこの空間だけ隔離されている、そんな奇妙な違和感すら覚えてくる。






「土嚢はまあわからなくもないけど、魔法を使ってまで封鎖……?」

「ってことは知られたくない何かがあるってことだな! 行くぜ!」




 クラリアは真っ先に建物に向かって走る。




 そして扉が壊されたであろう入り口から、中を睨み付けて数十秒後。




「ヴィクトールー! サラー! どっちでもいいから来てくれー!」

「早速何か見つけたのかしらー?」

「ああー! 古代文字だー! 解読を任せたいぜー!」

「いいわよー、今行くわー!」




 サラに続いて残りの面々もついていく。




 数十秒もしないうちに、全員が入り口に差しかかった。




「真昼なのに暗いね……明かりはまだまだ必須かな」

「持っててよかったランタン。おれ、火を点ける」

「火属性魔法はルシュドの十八番だもんな。よっし、任せ……埃臭えな!! シルフィ!!」<……


「おおー、それいいな。ジャバウォック、お前も出てこい」

    <あいよー!


「二人共気を付けてね。何があるかわからないから……」



 カタリナ、ルシュド、ハンスの三人が建物の奥に向かっていく。そして解読を任せることにしたのだろう、クラリアも遅れてついていった。

 



 リーシャとエリスもそれに続こうとしたが、直前になって立ち止まり足元を見る。





「……ちょっとこれ、何だろう」

「ん? ……侵入者撃退トラップじゃないの?」



 入り口の隣に取り付けられていた四角い箱の残骸を確認する。



 かなりぼろぼろな見た目、手に持つと予想通りのざらざらした質感。塗装が剥がれまくっているのだ。



「んー……魔力回路が残ってるね。魔力流したら何か反応あるかな?」

「おい、迂闊に弄るのは……」



 危険だ、とアーサーが言う前にそれは動き出す。




 徐々に霧が散布されるような音が鳴り、それと共に謎の淡い光線が放出され、満遍なくアーサーを包み込んだのだ。




「ぎゃーっ! アーサー、大丈夫!?」

「……ああ、平気だ。特に何も起こらない……」



 異変が起こったのは魔力を流した残骸であった。






『……』   ピー   

        ガガガ……

               ジー




「あっこれ……音声が再生される!? ちょっと静かに……」






『……魔力探知完了。結果を報告……報告……ホウコク……』




『お客様のムラムラパーセント……ジャジャジャーン!!! 16473573!!! 今すぐムラムラを発散させるベシ!!! ドーゾドーゾウェルカム!!!』

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