ナイトメア・アーサー

Honest and bravely knight,Unleash from the night
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第二百二十八話 おセンチエリスちゃん

公開日時: 2020年12月7日(月) 03:14
更新日時: 2022年4月28日(木) 13:01
文字数:2,759

 ……ごめんね




 ごめんね……!




 本当に、ごめんね……!






 わたし、わたしっ……約束、したのに……×××××に誓って、何があってもあなたの力になるって……




 でも、何も、できなくて……毎日、いたいことばかりで……わたし、見ていることしかできなくて……




 本当に、馬鹿だよね……!! ×××××に選ばれたのに、わたし、何もできていない……!!




 ごめんね、ごめん……






 え……








 ……






 ……うん






 わたしは、そうだよ






 わたしはぐにゃぐにゃなんかにならない。ぐにゃぐにゃに生きるなんて、わたしにはできない。ただ目の前のことを、まっすぐにこなしていくだけ




 今までも、今も、これからも、ずっとわたしはそうして生きていく。×××××様みたいに、人を惹き付ける魅力もないし、××××様みたいに、人に指示を出せるカリスマもないし、××××××様みたいに、武術も魔法もできるわけじゃない。だけど――




 誰かの話を聞いて、誰かの気持ちになって考えて、誰かのために行動することだけは……できるから




 ……




 ありがとう、エリスちゃん……











(……)




(お姉ちゃん……?)











「……」




 目を開くと、視界には木で作られた天井が目に入る。



 それから即座に、




「エリス!! 大丈夫か!?」




 アーサーの心配そうな顔が入ってきた。








 それから自分が、今寝かせられている体勢であることに、気付くのはそう遅くはなかった。






「……」






「……あれ。わたし、お城に……」

「そうだ、お前はティンタジェルの遺跡に行ってたんだ。でも城に入った時から様子がおかしくて、謁見の間に入ったら熱出して倒れて――」

「わんわん!」

「――カタリナとリーシャが一緒じゃなかったら、危なかったんだ。もしも二人がいなかったら……」



 項垂れながら、アーサーはエリスの左手を掴む。



「済まなかった……オレも一緒に行けばよかったんだ……!」



 彼の手は小刻みに震えていて。






「……」



 その手を握り返す。すると彼は、はっとしたように顔を上げた。



「……ううん。アーサーは悪くないよ。わたしもお城で倒れるなんて、思ってもなかったから」

「……」




「変な話だよね……何か特別な魔力でも満ちているのかな……」






 窓の外に目を遣る。見えるのは複数の天幕と、やや曇り気味の空。位置と角度が悪いのか、あの城は視界に入らない。






「ねえ、アーサー」

「……何だ」

「あのお城に……聖杯があったんだよね」




 ぽつり、ぽつりと話し出す。感じたことをそのままに。




「聖杯があって、多くの人がそれによって幸せに生活していたんだ。ティンタジェルは、名実共に世界の中心だった」

「……だがそんな力を、求めた人物がいた」

「ギネヴィア……」




 エリスは視線を窓から離す。




「ギネヴィアは……聖杯の力を手に入れて、何がしたかったんだろう」

「さあな。だがどうせ碌でもないことだろう」

「……本当にそうかなあ」




 アーサーから手を離し、指を組んで臍の辺りに置いた。






「普通、昔の人ってさ。悪いことも良いことも、どっちも書かれるものじゃん」

「……」


「暴君と呼ばれる人でも、身内には優しかったとか。聖人と呼ばれる人でも、虐殺を繰り返していた過去があったとか。でも……ギネヴィアはそうじゃないんだよ」

「……」


「どの歴史書も、戯曲も、今までに呼んできた本みんな、ギネヴィアのことを悪い人だって言ってる。聖杯の力を得ようとしたってだけで……理由とか人となりとか、何にも伝わってない」






「――もしかして、誰かがわざと悪評を広めようとしたんじゃないかなって」


「ううん……もしかしてじゃない。絶対そうだと思うの」






 後者の一言は、どうして口から出てきたのか、どうしてそう感じたのか、自分でもわからなかった。








「……」




「仮に、ギネヴィアが悪人じゃなかったとしても」




「オレは彼女と相容れることは決してできないだろう」






 それが存在意義だ。


 彼の姿はそうとでも言いたそうで。








「……ごめんね。わたしの気持ち、聞いてもらっちゃって」

「いや……お前もお前で思う所はあるだろうから……」



                  うおおおおおおお



「……」

「……」



 それから暫く互いに無言の時間が続く。


         ふおおおおおおおおお






「おおおおおおおおおおわああああああああ!!」






 淀んだ空気を打ち砕く、扉の開閉音。






「エリス!! ……エリス、エリス!! 大丈夫か!!」




 そこにいたのは馴染んだ顔――






「お、お父さん……!」

「ユーリスさん……」

「って君もいたのかアーサー!! いやそんなことよりエリスだ!!」



 ユーリスはベッドに駆け寄り、手すりを掴んで、エリスの顔を見つめる。



「運営の人に訊いたらエリスは寝込んでるって聞いてさ!! それで来たんだ!!」

「えっと……」

「試合、観に来てくれたんですか」



 アーサーの問いに対して、彼は一瞬眉を吊り上げたが、



「うん――そうだよ! 今まで興味なかったけど、エリスも――アーサーも、入学していることだし!? アヴァロン村から近いし、折角だからって思ってね!」

「……はぁ」


「二年生の試合が延期になったこと、聞いてるよ。残念だったかもしれないけど、実はその時僕は行商に出かけててね! だからあまり大きな声では言えないけど、延期になってラッキー!!! だぜ!!!」

「そこだけ大きな声で言うんだ……あ、お母さんは?」

「広場の方にいるよ。今運営本部に屋台の申請出してる。ペンドラゴンさんが手塩にかけて育てた苺を布教するチャンスだ!」

「苺……あっ、そうだ!!」



 エリスは急に起き上がると部屋を見回し、カレンダーを探す。



「ねえアーサー、最終戦ってまだだよね? 明日が最終戦とか、そんなことはないよね!?」

「あ、ああ。今日は二十六日目、お前が倒れてからそんなに日は立っていないぞ」

「よかった~……!!」



 ほっと胸を撫で下ろす姿には、先程あった城への郷愁は見られなくなっていた。






「アーサー、わたしもう大丈夫だよ。ありがとう。だから訓練戻っていいよ」

「しかし、まだ不調があるんじゃないか?」

「だいじょーぶ! さあさあ、あと二日なんだから、時間は残されてないよ! あとお父さんは残って!」

「お、おおう?」

「……」




 アーサーはユーリスの目をちらっと見た後、頭を下げた。




「……よろしくお願いします」

「まあ頼まれなくても、勝手によろしくするつもりだったよ?」


「……では、オレはこれで。エリス、まだ養生しろよ」

「うん、わかった!」

「ワンワン!」




 カヴァスを連れて、アーサーは保健室を後にする。








「……何考えてるんだい。エリス?」

「えへへ~。アーサーと二年生のみんなにサプライズ!」

「それはお父さんにも手伝えることかい?」

「むしろお父さんの力が必要! あのね……」






「……うんうん、成程。よーし、それならお父さんも頑張るぞ~」

「ありがとう! 後はカタリナとリーシャ、ファルネアちゃん達も誘おうかな……? 他にも色んな人に声かけてこなくっちゃ!」

「ははっ、熱心だなあエリス。積極的なエリスを見られてお父さん嬉しいぞ!」

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