こうして二日間に渡る学園祭も終了し、課外活動では反省会が行われる。
無論魔法音楽部も例外ではなかった。部集会に使った空き教室は他の課外活動が使っていたので、地下のライブステージに全員集合。
「むさくるしいのだわー!!」
「扉開けるか。というか狭いな、キャパなんぼだよ」
「この分だと二百がいい所かしら? 地下牢を改造したと聞いているのだわ!」
「リサイクルだから仕方ねえのもあるけど、流石に学園長に改築の申請出してみるのもありでしょ。この大盛況なら考えてくれるだろ」
とか話をしながら、反省会の様子を見守る顧問ストラム、外部から救援に来ていたボナリス。
「……」
「フライハルト? どうしたのだわ?」
「いや、僕はストラムだから」
「私の中ではずっとフライハルトなのだわー!!」
「ああはいそうですか……そうだ、ところでヴァーパウスにコンタクトは取れたの? 何かアルブリアにいるって話してくれたけど」
「今日のライブにトゥバキン名義で飛び入り参加しようって提案したのだわ!!」
「おう勝手に話進めんなよ。でも僕にまで話が回ってこなかったってことは、パーになったんだね?」
「『これは生徒の学園祭なんだから、大人が場を掻き乱すことはあまりやめよう』って……! 至極その通りなのだわ!」
「元々外部からの参加も想定しているレースとかとは違うからね」
この辺りで生徒達の感想が纏まった模様。
「……やっぱり魔法音楽は素晴らしいのだわ! そう思いませんこと?」
「ああ、実にそう思うよ。僕はまあ古典音楽の良さも知ってるけど、魔法音楽も最先端ならではの味があって好みだなあ――」
「つまり、音楽そのものが素晴らしいってことね!」
「それだ」
「……今回はまだまだ練習不足で、辞退させてもらいましたけど、来年は出れるように頑張りたいです!」
「先輩達の演奏が……かっこよくて……とても痺れました! ありがとうございます!」
「卒業間際にいい思い出ができました! ありがとう!」
バンドで集まって感想を言い合い、一纏めにしたものを代表者が発表していく。
「んじゃ~次~……紅蓮と閃光!」
はーい!!! とアデルがずりっと手を挙げずるっと立ち上がる。
「え~、初めての学園祭にも関わらず舞台に立たせてもらったこと、本当に光栄の極みです! 皆の心に響く演奏ができたかはわからないんですけど、でも自分達は、今回のライブ、とっても記憶に残りました! 忘れません!!!」
ぱちぱちと拍手を送られ彼は座っていく。
「んじゃ~……これで全部かな?」
「いやまだ一つ残っているが?」
「ええ、そんなだっけ?」
「……他に集中するあまり己のことを忘れたか。迅雷閃渦が残っているだろう」
ヴィクトールは冷静に視線を送る。
続け様にアーサー、ルシュド、ギネヴィアも笑みを浮かべながらイザークを見つめる。
「……えっ? そういう流れ?」
「あ~……まあ~……」
恥ずかしながらも壇上に立つ。
「……ボク、あまりこういうこと口にするのはガラじゃないってか、恥ずかしいんすけど……」
「……知ってる人も多いかもしれませんけど、魔法音楽ってまだまだ生まれたばかりで、広く受け入れられているとは到底言えない状況っす。だからボクはこの課外活動を作ったってのもあって……」
「今日のライブを通じて……少しでも魔法音楽の良さが、広まってくれたらいいのかなあ、なんて、願わくば魔法音楽の地位向上に資することができればいいかなあって……」
「そんなことを皆の活躍見てて思いましたぁぁぁぁぁぁーーーーーー以上!!!」
大喝采を背に顔を真っ赤にして戻ってくる。
「……地位向上に資する~♪」
「オマエ黙れ!!!」
「ははは!」
「これには全てのバンドが発表したわけだが、今日の所は解散でいいのか?」
「いいよ!! ヴィクトール言って!!」
「了解した」
彼が呼び掛けるとどんどん部員達は帰っていき――
気付けばライブステージには、迅雷閃渦の五人と、ストラムとボナリスだけが残された。
「いやぁ~おっかれちゃぁ~ん」
「気持ち悪いな」
「はいノルマ達成」
「そうなのだわ、皆他に掛け持ちしている課外活動とかはないのかしら? 反省会をやっている所もあるのかもしれないのだわ!」
「オレとルシュドは武術部だが……殆ど参加していなかったからな」
「クラリア、ハンス、いる。教えてもらえる、大丈夫」
「それもそうか。ギネヴィアは料理部、ヴィクトールは生徒会、いいのか?」
「わたしもエリスちゃんとリーシャちゃんに教えてもらう~」
「俺もまあ……後で内容を確認するし、例年通りだと思うから問題はない」
「そっか、じゃあ全員特に切羽詰まってないのだわ!」
「何かあるんですか?」
「いえ訊いただけなのだわ! でも何となーく、余韻に浸ってたくなる時ってあるじゃない?」
「ああ~」
何となく場を離れたくない気持ちの正体はそれかと気付く。
「でもやることつったら帰るだけなんだよな……」
「ん~……まだ時間あるならちょっくら付き合わない?」
「何に?」
「これにさ――」
ストラムは背に掛けていたバイオリンを取り出す。
ぶぅんと音がしたかと思うと、それは白地に水色のラインが入ったギターに早変わり。
「ボナリスゥー、ちょっとやろうぜ。今日参加できなくて実は悔しがってんだろ?」
「ん! フライハルトがそのつもりなら私もやるのだわ! あと演奏する時、私のことはリベラと呼びなさい!」
「いいじゃねえか細かいこたぁ」
そんな話をしながらも、二人はステージに昇る。五人は降りて全体が見える位置まで下がった。
「残り者には福がある。最後まで残った諸君らに、特別に聴かせてあげよう――」
「トゥバキン三分の二のライブなのだわー!!」
ぱちぱちと五人分の拍手が送られる。
それから間もなくして、痛烈なギターの演奏と爽快なボーカル、軽やかで迫力のあるドラムが響き渡る。
「……イザーク」
「んだよ」
「これからも楽しみだな、色々と!」
「ああ……マジでそうだな!」
~以下おまけ~
「イアン様、こちらが例の物になります」
「……ん、ああ、オレリアか。何だって?」
「先に話していた魔法音楽で用いられる魔法具……『レコード』を入手して参りました」
「……ご苦労だった」
「早速お聴きになられますか?」
「頼むよ」
がちゃがちゃがっちゃん
がちゃがったん
がたがたがたがた
「また大仰な魔法具だな……」
「確かに再生するに準備は要りますが、実際に音楽が保存されているのはこの薄っぺらい輪っかだって話です。驚きですよね」
「全くだ……さて」
「魔法音楽を聴くのにそこまで背筋を伸ばさなくても」
「……あいつのことを理解できる、その一歩が隠されているのだ。しっかりと聴いておかなければ」
ざざざざざざーーーーー……
ざざっ
じーーーーーーーーー
『「「「「あ~んでっど・うえいとれ~す♡♡♡」」」」』
「」
「」
『今日もー、彼女は忙しい♡ 料理に洗濯お掃除接待♡』
『そうよー、死んでも忙しい♡ 昇っていくこと許されない♡』
『でもでもとっても嬉しいの♡ まだまだ必要されている♡』
『だーかーらー、今日も頑張って働くぞー!!!』
『「大変ですぅ~! ご主人様が目を覚ましませ~ん!」』
『「そんな! 今日は皇帝陛下が屋敷にいらっしゃるというのに!」』
『「このまま寝坊してしまったら、領地を取り上げられちゃうかもしれないわ!」』
『「何とかして起きてもらわなきゃ! 作戦決行、あ~んでっど・うえいとれ~す!」』
『「腐った臭いで、鼻から刺激~!」』
『「四肢をもいで投げつけて、衝撃も与えましょう!」』
『「纏わりつくようにね~っとり抱き締めて……♪」』
『「う゛え゛え゛え゛え゛と耳元で呻きましょう!」』
『「ぶわああああああ……!!!」』
『「ぶぅん!!! ぶぅん!!! ぶぅん!!!」』
『「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!!!」』
『「う゛え゛え゛え゛え゛……!!!」』
うっぶおっはああああああああああーーーーーー!!!!
『「「「「目を、覚ましたぞぉぉぉぉーーーー!!!!」」」」』
ガンッ
「……」
「イ、イアン様……」
「……はぁ~……」
「えっと……偶々渡されたレコードがこれで……その……」
「いい、オレリア、君は悪くない……」
「……申し上げておきますと、レコードを再生する魔法具、借り物ですので……」
「……はぁ」
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