離れでの生活を推奨していたバックスの失脚、本人達が力を制御することができるという信頼、徐々に見え隠れしてきた男女での性差問題――
様々な理由の元に、遂にエリスとアーサーは塔での生活を許可された。
その際、生徒数の減少を理由にして、生活班も再編成されている。
「えーと箪笥箪笥……」
「それボクのだぞ、オマエは隣!」
「ああそうか……ネームプレートでも貼らないか」
「言い出しっぺが作れーよー」
「くぅ……」
アーサー、イザーク、ルシュド、ハンス、ヴィクトールの男子五人。
「入浴時間……四年生は……」
「今全体で生徒少なくなっているから、それ撤廃されてるよー」
「じゃあ好きな時間に入っていいの!?」
「そう! ご飯食べたらゆったり浸かろうねっ♪」
「うん!」
エリス、カタリナ、リーシャ、クラリア、サラ、転入扱いでギネヴィアも加わった女子六人。
今まで親しくしてきた、加えて事情も知っている友達と共に。
勉学だけではなく、寝食も共にすることになる。
「こ、これが食堂か」
「でっけーだろー!?」
「並んでる、皆。早い」
大勢の男子生徒がパンを山盛り持っていき、惣菜も受け取って各自席に着く。因みに今日のメニューはシチュー。
「席確保、最初。取られる、食べられない、しょぼん」
「言っても今はそんなに混んでないんじゃないか?」
「そもそもの人数が減少しているからな……」
「えーでも一応取っておこうぜ!」
席を取る際にはナイトメアを待たせるのが基本。
その間に食事を受け取りに行く。
「……こんばんは」
「あいよー!!」
「っ!?」
「食堂の職員さんっていつもこのテンションだぜ?」
「そうなのか……」
「ちょっと兄ちゃん! ここに並べてあるんだから、さっさと持ってってちょーだいなっ! 後ろ詰まるから!」
「ああ、すみません!」
シチューとサラダとデザートが乗った皿を受け取った後、
流れていくのは主食のコーナーである。
「で、ここにあるパンを好きなだけ持ってくって寸法さぁ」
「バターロールにクロワッサン……食パンだけじゃないんだな」
「おれ、先行くー」
「ルシュド!? 何だそのパンの山は!?」
「流石武術部はめっちゃ食うなあ」
「俺は……今日はレーズンパンにするか」
「ぼくはミルクパン~」
「あと調味料もここにあるぞ。好きなだけスパイスを入れてお好みの味に!」
「迷うな……」
迷っている所に話しかけてくる影が。
「……こんばんは皆さん。よければ私と一緒に食べませんか?」
「あ……」
「ハインリヒ先生! ばんわっす!」
「俺は構いませんよ」
「ぼくもだ」
「……案内しますので、一緒に食べましょう」
案内して席について
ついでに挨拶もした
「……」
「アーサー」
「は、はい」
「その節は申し訳ありませんでした」
食事に手を付けず、すぐ立ち上がり陳謝するハインリヒ。
「それは……あの時は。先生もただならぬ事情があったってわかりますよ。だって普段優しい先生が……って」
「……心が休まる思いです」
「今はこうして二人揃って復帰できましたし、オレは気にしていませんよ。そうだ、エリスとアザーリア先輩にも話されましたか?」
「はい、お二人には先に話して参りました。二人共貴方と同じ言葉をかけてくださいました……」
「でしょうね。ならもういいじゃないですか。この話はお終いで」
「……」
「それよりもほら、ご飯冷めちゃいます。食べましょう」
「……ええ、そうですね」
再び座りシチューに手を伸ばす。他の友人はとっくに食事を始めていた。
「……何だか見違えましたね」
「ええ。オレはもう……迷いませんから」
「……」
「……先生?」
アーサーには、ハインリヒが言いたいことを言い出せずに迷っているように見えた。
「何かありましたか……?」
「……食べる順番を考えていたのです」
「そうでしたか……」
「むっふっふー! わたしはこれぐらい食うぜ!」
「アタシの方がもっと食うぜー!!」
「何だとぉ!? じゃあわたしはこれぐらいだ!!」
「はいはい馬鹿やらないで頂戴ねー」
「「にゃああああああ……!!!」」
サラとサリアにずるずる引っ張られていくクラリアとギネヴィア。
そんなわけで女子達も同様に、食事をよそって席に着いていた。因みにメニューは薔薇の塔と同一である。つまりあったかシチューだ。
「お邪魔しまー……す」
「何他人行儀になってんのー。うける」
「だってぇ……」
「……ねえ、隣見てみてよ」
「ん?」
カタリナに言われた通り振り向くエリス。
そこには愛らしい、けれどもどこか成長した少女が。
「ファルネアちゃん! ばんは!」
「ひゃっ……!?」
「……大丈夫?」
「……」
「まさか塔で先輩に会えるとは思ってもなくて、固まっちゃったわ」
「えっと、先輩も寮に入ったんですか?」
きゅうと声を上げて倒れるファルネア、介抱するはナイトメアの妖精リップル。更に隣に座っていたキアラが声をかけてきた。
「うん。色々あったけど、遂に」
「よかったですね……ちょっと。どうしたのシャラ」
「……見慣れない顔がいると思ってねぇ」
「見慣れない? んー……」
「おねえ……ギネヴィア! 挨拶しようよ!」
「んみゃあ!?」
名前を呼ばれてすっ飛んでくるギネヴィア。白い液体が口元についている。
「もう、落ち着いて食べてよね。美味しいのはわかるけどさ」
「はいはいはーい! で、何用かしら!」
「知ってると思うけど、改めて挨拶してね。ファルネアちゃんとリップル、キアラちゃんとシャラだよ」
「ファルネアです!」「リップルよ!」
「キアラです」「シャラという名前だわ~ん」
「「よろしくお願いしま「不肖ながらこのギネヴィア! 今後とも皆様とよろしくさせていく所存でございますっ!」
頭をずばーんと下げるギネヴィア。
「……え、えっと……」
「よ、よろしくです……その、先輩?」
「……先輩!?」
「うん、ギネヴィアはわたしと同じ四年生。だから先輩だよ」
「そうだったんですね! ギネヴィアせんぱい、改めてよろしくお願いします!」
「……せんぱい」
「これからご一緒することも多くなると思います。その時はよろしくお願いします、ギネヴィア先輩!」
「先輩……!!!」
うひょーーーーーーーーー!!!!!
「……ぴょんぴょん跳ねながら戻っていった」
「ねえテンション乱高下しすぎじゃないのアイツ」
「ま、まあ……色々あったからね、うん」
そんな彼女は席に着き、またクラリアと大食い競争を再開していたのだった。
こうして食事を終えた後は、各自の部屋に戻っていく。
しかしただ戻るだけでは味気がない。小遣いを使って何かしら、夜のお供を買って戻るのがある種のお決まりだ。
「ガレアさんねえ、暫くの間聖教会とかキャメロットとかいうウルトラスーパーアルティメットクソな連中に酷使されてたわけだけど……」
「その過程で思った!!! 面倒臭いコーヒーの一手間を連中に全部放り投げたいってね!!!」
「そんなあくどくない発想から生まれた、大体ジャネット様が何とかしてくれた魔法具が、これだぁーーーー!!!!」
ばばーん!!!
と両手を広げて見せびらかす魔法具には、『お好みテイスティングコーヒー作っちゃうよマシン』とデカい看板が立てかけてある。
「……好きな味にできるってことですか?」
「そうよ!! 砂糖ミルククリームのバランスも、豆の種類もぜーんぶこれで一括で選択できます!! チカチカ輝いてるボタンをぺっぺと押すだけ!!!」
「でも魔法具を使ってる以上お高いんでしょう?」
「ちっちっちー、甘い甘い! その分こちらの手間が省けているんだ!! 人件費削減でスモールは銅貨二枚、ミドルは銅貨四枚、ラージは銅貨五枚で作れちゃうよん!」
「へえ、それはいいな! よしアーサーこれにしようぜ!」
「セイロン……」
「偶にはコーヒーもいいだろー!?」
と、イザークによって強引に魔法具の前に引っ張られるアーサー。
「すっとこらっぺっちょろーん!!!」
「すっとこ!?」
「ルシュド反応すんな」
ばーんとカフェの扉を開け放ち、入ってきたのはジャネット。
真っ直ぐ魔法具の前に向かい、アーサー達やガレアに混ざってくる。
「ヘーイ学生ボーイズ!! これ使ってる!?」 バシバシ
「今使おうとしていた所っす!」
「終わったぞ」
「ヴィクトール早いな!?」
「それなら結構! どう? 動作不良とか起こしてない? 僕ちゃんその確認に来たんだけど!」
「今の所は特に。それなりに稼働もしているので、元も案外取れそうです」
「幾らしたの?」
「金貨三百五十枚!」
「やばっ!!!」
「いいから貴様等さっさと買え」
「あーい!!!」
「これ紅茶版も造ってくださいよ」
「検討しておこうっ!!!」
そんなこんなで各自飲み物を買う。
ヴィクトールはブラックコーヒー、ハンスは砂糖とミルクを多めに、ルシュドはクリーム多め、イザークはカフェオレ、そしてアーサーは結局セイロンを購入して部屋に戻ったのだった。
一方の女子達。こちらはカフェではなく、購買部に立ち寄っていた。
「ふわあ……いい香り……」
「オレンジピールにカモミールを和えたお香ですよー」
「ねえねえ、ラベンダーも捨て難いよぉ」
「どうぞゆっくり見て行ってくださいねー」
城下町にあるような雑貨屋と謙遜ない品揃え。部屋でくつろぐ為のアイテム、身体の手入れのグッズ、文房具等幅広く取り揃えている。手描きのポップアップが可愛らしい。
「店員さんこれ何ですかー!」
「それは最新の魔法具、保温瓶ですー」
「保温瓶ー?」
「魔力回路を通した特殊な金属を使っておりまして。これに入れた液体はずっと温かいままなんです。お茶とか持ち運ぶのにおすすめですよ!」
「あったかいのじゃないと駄目なのかー!?」
「勿論冷たいのもいいですよ!」
「買うぜー!! 買いだぜー!!」
「待てクラリア、お前既に水筒持っていただろう」
「あ、そうだったぜ! ぐぬぬ……」
「わたしは買っちゃうもんねー! おいくらですか!」
「銅貨九枚です!」
「よーし買ったー!」
と言いながら、会計口にエリスを引っ張ってくるギネヴィア。
「ちょっともう……」
「だって今のわたしの財布エリスちゃんが握ってるでしょー!」
「そうだけど……そうだってわかってるけどぉ」
「そのうちわたしの分もちょうだいね! お小遣い!」
「検討しておきまーす。はい、銀貨一枚です」
「ありがとうございます。お釣りの銅貨一枚でーす」
「よし……次はわたしのお買い物。このお香くださーい」
「はーい、銅貨六枚でーす」
「ありがとうございまーす」
エリスが品物を受け取ると、後ろにリーシャとサラが並んでいたことに気が付いた。
「な、何それ……」
「化粧水! 切れちゃってたから!」
「軟膏。切れてたから」
「買いすぎじゃない……?」
「だって購買部のは安いんだもーん!」
「安いし効能が広いから、研究の材料にうってつけなのよね」
「片方の理由が吹っ飛んでた」
「アタシも買うぜー! 塩レモン飴!」
「だから買いすぎじゃないの……それが普通なの……」
「ならわたしもお菓子買ってく!」
「ギネヴィアはわたしが破産しそうになるまで買うからまだだめです!!」
「うわーんエリスちゃんのけちー!!!」
「そうやってすぐに食べ物買おうとするから、軽々しくお金を与えられないのよーっ! もうーっ!」
「……えっと、プレッツェルのメイプル味?」
「そう、それだよカタリナちゃん!!!」
「じゃああたしのお金で買うね」
「やっだあああああああ!!!」
「カタリナァー!!! 甘やかすのもほどほどにしてよぉー!!!」
こうして各自で買い物を終えて、自室に撤収していく。
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