訓練をしているとあっという間に時は過ぎる。時計を確認するより先に腹が大きく鳴り出して、飯を食えよと催促してくる。
というわけで昼食も催促することに。
「お待たせしましたぁーこちらカツレツヴェントーになりまぁーす!!!」
うひょーと声を上げるイザークにアデル、その他の面々。ヴェントー屋の店員にお礼を言いながら、箱の中身をいざオープン。
「おお~……」
「美味しそうですね先輩♪」
「ぼく、揚げ物はそこまで好みじゃないんだけどなあ」
とか言いつつも口に入れると――
サクサクという衣の食感、肉からは美味しい汁が噛む度ぶわり。それでいてしつこくない。
「……美味いな」
「ご馳走様だぜー!!!」
「もっと食いてー!!!」
「早すぎないか!?」
「お代わりもぉーありまぁーす!!!」
「「「やっふうーーー!!!」」
ハンスとセシル以外の班員全員が、次々とカツレツヴェントーを平らげていく。
「ぼく達はぼく達のペースで食べていけばいいんですよ。平常心平常心」
「それ、自分にも言い聞かせてないか?」
こうして各々が満足いくまで食事を行った後は、身体を休ませる。食後の運動は身体に悪いからね。
「んひぃー美味かったぁー……」
「街にある店だったんすかね? いやぁー昨日チェックしてけば良かったなあ!!」
「また機会を見つけて、街を訪れればいいですよ」
「……」
ハンスとセシルの二人で何とも言えぬ時間を過ごしていた所に、構って来たイザークとアデル。結果四人で固まって話をしている状況。
「ああ……そういえばそうか」
「どしたんハンスチャァン」
「止めろ……いや、きみ達二人は魔法音楽部だなって」
「確かにそうですね」
「んにゃーそうだなぁー」
訓練場は中央に共用の区画が用意され、周囲を班の総数と同じ三十四の区画が囲む。
ここには昼寝ができるスペースも用意されていたので、そこに寝っ転がるイザーク。
「今だからぶっちゃけると、ボクまさかオマエが入ってくるとは思わなかったなあ」
「お袋が魔法音楽に嵌ってまして、楽器も買ってきてくれたんすよ! その流れで最近オレも聴き始めたんです!」
「ええ、結構なガチ勢じゃん」
「んでも先輩には敵わないと思うっすよ?」
「いやいや、そういうのは程度の問題じゃないよ。ハマっている本人がめたくそに楽しんでるかってことが大事だ」
「めっちゃノリノリで魔法音楽聴いてるっす!」
「よーしそれならいい」
他にも昼寝をしたり、本を読んだり仲間と話をしたり、デザートを頼んで食べたりと、思い思いの方法で休憩を挟む面々。
だからこそふと空を見上げたくなってしまう。
「外に出るとめっちゃ暑いんだよな~……」
「あー確かそういう話になってましたっすね」
「結界って見える奴には見えるのかな」
「先生方は見えたりするんじゃない?」
「何かこう、オレ達だけこう、快適にしてもらっていいんでしょうかね!?」
「そう思うんなら訓練で礼をするんだぞ」
「おお、珍しくハンスが人徳に則ったことを」
「殺すぞ……」
そうして体力と集中力を回復したら、午後の訓練に臨んでいくのだ。
「では……特定の属性か系統について見聞を深めるということだが」
班員全員を見回しながらそう呼び掛けるヴィクトール。
「何にするのだ」
「ええっ」
他の生徒が思わず委縮してしまう中、見知った仲のマイクだけが素っ頓狂な声を出せる。
「先輩のことだからこれこれこういう理由でこの属性やら系統がいいと提案してくるもんだと」
「それは授業の目的に反するだろう。皆で考え検討しなければ、異学年合同で行っている意味がない」
「そういうもんですかねえ。しかし、ふうむ」
どの班員も明確に決められてない中――
「あ、あの、提案なんすけど」
一人がおずおずと手を挙げる。
「何だ」
「えっと、あの……マイク、ヴィクトール先輩が戦ってみて、それで比較しながら纏めるってのはどうっすか」
「……ほう?」
「中々凄い提案をしてきただですね」
と言いながらも杖の準備をするマイク。
「いやだってお前聞いたぞ。昔先輩に稽古つけてもらったことあるって」
「ああー、そんなこともあっただです」
「お前は知らないだろうけど話題だったんだぞ当時。あのヴィクトール先輩にわざわざ頼み込みにいくなんて、頭おかしいって」
「あれは先輩を元気付けようと思ってやったんだです。それと、先輩が化け物みたいな言い方は止すだです。先輩傷付いちゃうだですよ」
「……」
勝手に言っていろとは内心思う。
「まあ……その提案には賛成だ。実践を行うと得られる見地もあるだろう」
「でも同じ属性の魔法で戦わないと駄目だですね! 系統だと下手したら回復魔法で戦うってことになるんで、属性だです!」
「そうだな」
シャドウを呼び出し、杖を持ってきてもらう。
「ではマイク、貴様の属性に合わせるとしよう。土だったな?」
「はいだです! よろしくお願いするだです!」
「……だからそういう所ですよぉ……」
その声も聞こえずに二人は向き合う。
「……さて、あの時と比べてどれ程成長しているのか」
「先輩に追い付けるように訓練してきただですよ!」
「ぴぃぴぃ!」
「?」
やる気満々な様子で桃色の小鳥が出てくる。訝しつつも取り敢えず変身してみるシャドウ。
「ぴぃ!?」
「~~~」
「何をしているんだ……その小鳥、貴様のナイトメアだったな」
「シュガーだです。でもってシャドウに変身させられてびびっちまってるだです」
「久々に姿を見た気がするな」
「こいつには文鳥の仕事頼んでまして、ジハールの方まで行ってもらってるんだです。ログレスやアルブリアで色々あってからは更に頻度が増えちまって」
「こちらに顔を出せる機会が少なくなったと。成程」
主君とナイトメアが離れて何かしている、という状況はそこまで珍しいことではない。役割分担は合理的な考えの一つだ。
「今回は偶にはいいじゃねえかって、休みも兼ねて連れてきたんだです~」
「ぴぃぴぃ!?」
「~」
「非常に好戦的だなと言っている。まあ戦わんぞ、今は」
「そうだです、ナイトメアとの訓練は明後日から! だから横で見ているだです~」
「びぃ~」
「♪」
「!?」
元々座っていた場所に小鳥が二羽飛んでいく。
「会話の間に緊張は解れたか?」
「ばっちりだです!」
「ならば始めよう」
「押忍!!」
燃える地面から突き上がる尖った岩、身を守りながら殴打に徹する丸みを帯びた巨岩。
実に性格のよく出ている土魔法が二つ、ぶつかり合っていく。
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