ナイトメア・アーサー

Honest and bravely knight,Unleash from the night
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第五百五十九話 商業都市ブルック

公開日時: 2021年4月2日(金) 07:12
文字数:3,910

 というわけで今日は、十一月の中程水曜日。月日が経つのは早いもので、あっという間に合同授業の初日となった。




 例にもよって専用の魔法陣を通る。四年生は慣れたものだが初体験の三年生、彼等の中には酔ってしまった生徒もいた。




「うぼえ~……」

「サネットテメエ、大丈夫か……?」

「うえ~……」



 もう完全に三半規管が狂ってしまった様子のサネットの、背中をさするメルセデス。


 そこに後ろから、四年生も魔法陣を通ってくる。



「メーチェー!!! 無事かー!!!」

「あ、クラリア先輩っ。私はいいんですけどサネットちゃんが……」

「どぉれ、『慰めと癒し』」



 追い付いたサラがささっと回復魔法を唱える。



「楽になったぞー!!!」

「凄いです、先輩! 今のどうやったらできるんですか?」

「それはヒミツよぉぉぉぉ~~~ん」

「えーずるいですー!」

「教えちゃったらワタシの立つ瀬がなくなっちゃうものぉぉぉ~~~ん」



 あの紙束に書かれていた呪文を、彼女は特に気に入っているようで、偶にこうして使っている。



「で、今後の予定はどうするんだっけ?」

「流石に数が多いから全員で移動するって話だったぜ!」

「おおーそういえばそうよ。いつもフィールドワークのノリで自由行動始めるところだったわ。では脇にはけて待っていましょうか」

「はぁーい!」

「あ゛ーい゛!!!」








 今回の合同授業においては、三年生と四年生が混ざった班をそれぞれ編成されており、先輩と後輩が絡む機会が非常に多くなっている。





「あ……ああ……」

「いやあルドベック君、こんにちは。確か総合戦の時に何かしたぐらいだよね」

「うああ……」

「そうですね、聖教会に呼ばれて何かした時以来ですね、リーシャ先輩。カタリナ先輩に続いて同じ班だったとは」

「んひい……」

「あ、あまり語りたくないみたいだね……まあそれもそうか」

「おほお……」

「ねえネヴィル君、本当に大丈夫? 酔ったの?」



 近付いてくるリーシャに心臓が跳ね上がる。



「どどどどどどきーん!!!」

「うわっ! ……元気そうだね? よかった!」

「もももも勿論この通りー!!!」



 変な方向に四肢を動かし出すネヴィル。



「あ゛っ」

「グギッてやったね今……」

「ネヴィル、本当に落ち着かないなら魔法薬を申請するが……」

「いやいや大丈夫そこまでする程じゃないしっ!?!?」

「でも辛い時は無理せずに言ってね。私班長じゃないけど、先輩だから」

「はいっ!!!」



 敬礼をするネヴィルの後ろから、釣り目の生徒がてくてく歩いてくる。



「あ、ミーナ……も、こんにちは」

「後輩なので呼び捨てタメ口で構いません。カタリナ先輩、よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」



 名簿が事前に配布されていたので名前は把握済み。堂々とした立ち振る舞いから来る威圧感に、ちょっと押されそうになる。



「そしてリーシャ先輩」

「ん、そうだね。まさかこっちでも同じになるなんて」

「私、曲芸体操には自信ありなんですけど、実は魔法の方はそんなに……」

「……へえー、意外かも」

「あ、付け加えておきますけど戦闘を想定とした魔法ですからね。曲芸体操に用いる魔術については、もう一級品で」

「何でネヴィルが補足するの?」

「カタリナには言ってなかったっけ? ネヴィル君は曲芸体操部でマネージャーやってくれてるんだ」

「あ、そうだったんだね」

「ミーナはあれだろう。戦闘において命が掛かると足が竦むとか、そういった感じだろう」

「はい、まさにそうなんですよルドベック君」



 はぁと溜息が出てしまう。



「リーシャ先輩の魔法は素晴らしいって魔術戦で認識してますから。色々と教わりたいと思います」

「ちょ、ちょっとそこまで言われると緊張するな~!?」

「あ、他の班も続々来ていますね。移動しましょう!」

「うん、班員が揃っているかどうか確認してからね」










 憧れの先輩と絡んだり、初対面の後輩に優しくしてみたり。





「せんぱぁぁぁーーーーい!!! まさかイザーク先輩とハンス先輩と同じ班だったなんてぇー!!!」

「抱き着くなきんもー☆」

「……」



 目の前でじゃれだす友人と後輩達に、もう目も当てられないハンス。



「いやあ賑やかですねえ」

「賑やかで済ませるな……」



 にこやかに微笑みながらやってきたセシル。因みにこの班には女子がいない。女子っぽい生徒はいるが。



「ったく」

「あだっ!!」

「イザーク、きみはせめてまともでいてくれよ。ぼくの知り合いきみしかいないんだから」

「……おんやぁ~~~~~!?!?」

「だからなぁ……」

「んだっ!!」

「いいかアデル、きみもあまりふざけが過ぎるとこうだからな」

「肝に銘じまーーーーす!!!」

「さあて点呼を取りにいきましょうねっ、先輩っ♪」

「キモッ!!!」












 そして、最後の班が到着した。




「……ぷはあ! やってきました!」

「商業都市ブルックー! リネスの次に規模の大きい商業都市なのですー!」

「いえー!」



 きゃぴきゃぴ騒ぐエリス、ギネヴィア、そしてリティカの三人。



 彼女達の後ろからアーサーとリュッケルトが、やれやれといった面持ちでやってくる。



「はしゃぐのはいいがオレ達は先輩なんだぞ。三年生の確認をしないと」

「うむ! そうですな!」

「リティカもリティカで何生徒に絡みに行ってるんだ……僕達はこの後直ぐ合流しろって言われてるじゃん」

「え~それでもせめて生徒の皆とは話しておきたいの~」

「ほれー行くぞー君達は訓練頑張ってねー」

「きゃあー!」



 リュッケルトにずるずる引っ張られていくリティカ。二人を立ち尽くしたまま見送る。





「……調査とか言ってましたけど、上手くいくといいな」

「さて、オレ達は言われた通り訓練を頑張らないといけないわけだが」

「おおーい!」



 後ろで三年生達を見ていた生徒が一人手を振ってくるので、近付いていく。



 それはルシュドであった。今回は髪を整髪料で整えて、キャスケット帽を被っている。



「お疲れ! 点呼、終わった、三年生!」

「ん? お前がやったのか?」

「うん!」

「すごーい、帝国語マスターだ!」

「えへへ……」



 班の人数は基本十名。四年生と三年生はそれぞれ五名ずつ配属されている。一部は人数が合わず九になっている所もあるが。


 この班はその九人班の一つで、四年生全員が顔見知り。エリス、アーサー、ギネヴィア、ルシュドの四人だ。


 そして三年生も、一部ではあるが見知った顔がいる。



「エリスせんぱい! お疲れ様です!」

「お疲れ様です」

「お、お疲れ様ですっ」




 ファルネア、アサイア、キアラの三人。加えて後ろから追い付いてきた、初めて会う女子生徒が二人である。



「何という女子率だ」

「へ?」

「いや、オレとルシュドしか男が……」



 すぱーんとアサイアの平手打ちが飛ぶ。因みに服装は男装の物、金髪赤目である。



「……あの二人はボクの正体知らないんで。いいですね?」

「はい……」





 そして何事もなかったかのように、二人にエリス達を説明する。



「この先輩方が前から言っていた人だよ。エリス先輩、ギネヴィア先輩。アーサー先輩にルシュド先輩だ」

「キアラの彼女っすね! よろしくっす!」

「ううっ、よ、よろしく……?」

「……私のこと、三年生全体にバレているみたいで……」

「そ、そっか……」

「四年生も話題にしないだけで知ってるんじゃな~い?」

「えっ!」

「エリスちゃん、いじわる言っちゃだめだよ」

「はーい」



 二人の生徒は舐め回すようにエリス達を見る。



「……お似合いっすねえ……」

「何が?」

「エリス先輩とアーサー先輩が!」

「だから何がだ?」

「カップルとしてお似合いだなあって!」



 ばっとファルネアの方を振り向くエリス、アサイアを睨むアーサー。



「人の噂は七十五年……」

「わたし達は無実です!」

「あれじゃない? 週末デートの現場見られてたんじゃない?」

「ギネヴィア!!」

「週末デートって何ですかぁ!?」






 という風にてんやわんやしていると。



 エリス達より一つ前に到着した班の生徒が、何事かと話し掛けてくる。




「……貴様等。嗚呼、誰かと思ったら貴様等だったか」

「楽しそうで何よりだです。三年生は酔っている生徒が多くて、こちらも対応に追われてしまっただですよ~」




 ヴィクトールとマイク、生徒会の先輩後輩コンビであった。





「おーヴィクトール! ねえ生徒会権限で何か言って! 不本意な噂を広めるの止めてって言って!」

「マイク! 生徒会権限で何か言ってくだせえよ! 後輩のあれこれぐらい先輩は許容すべきだって!」

「え、ええ~……!?」

「……はぁ」



 慌てるマイクを横目に、軽くエリスを殴るヴィクトール。



「いてっ」

「おい」

「生徒会が知り合いにいるからと言って思い上がるな……噂についても把握できる程生徒会はできた組織ではない」

「む~!」

「だが何かはできるだろう。例えば余計に付け回すのを止めるように言うとか」

「それは考えられるがこの状況で検討することではないだろう」



 前方を指差すヴィクトール。



「さっさと移動しろ。今回は普段以上に集団行動が求められる。一人一班行方不明になると何時間も潰えるのだ。心して置け」

「ええと、ここだと邪魔になるってことで、宿の方に移動するみたいだです! 引率の先生が立っているので道には迷わないと思うだです!」

「それでは俺達は先に向かうぞ、また後程」

「ばいばいだです!」



 こうして生徒会二人は去っていった。





「……めちゃコワじゃないっすかヴィクトール先輩」

「でもねー、優しい所はあるよ? 今だって手加減して殴ったし」

「それはそれとして彼女に手を出されるのは気に食わないな」

「今彼女って!?」

「……もう否定しようがないぐらいに追い込まれたからな……!!」

「アーサー、怒らない怒らない。おれ達、行く」

「そうだね、早くしないと本格的に怒られちゃう! 行こう!」

「ギネヴィアせんぱいそっちじゃないです!」

「んえー!?」

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