ナイトメア・アーサー

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第五百五十一話 七年生、最後の学園祭

公開日時: 2021年3月26日(金) 08:09
文字数:2,945

 こうして時は過ぎ、時刻は午後一時半ぐらい。



「むむっ」

「どうしたんノーラ」

「何だか向こうでパーシーがやらかした臭いがします」

「はは、いつものことだべ」



 温室で駄弁るヒルメとノーラの二人。ノーラは園芸部で種の販売中。ヒルメは午前のシフトを頑張ったので、現在はのんびりと学園祭を見て回っている。



「今回のレース運営、辞退して本当に良かった。あっち回ってたらこんなゆっくり学園祭を楽しめないですもの」

「ウチはパーシー同様出場すればよかったかなって思ってる」

「しないんですか?」

「何かねー、最近バチバチしてさ。暴発しそうだなって」



 彼女の黄色い髪を撫でると、静電気の影響か不自然に浮き立つ。



「そりゃあ卒業研究でストレス溜まってんですよ。発散してください」

「そうするわー。んみゃー」

「チーズカレーパン私にもください」

「園芸部の販売だろってワラ」



 これも生徒会から横流しされたカマンベールで作っている。



「そういや知ってる? カーセラムの新メニュー」

「ああ、カレーライス。大きめの皿にカレーと米を盛るっていう」

「このカレーパンに入ってるやつより水っぽいらしいぜ。それが米とよく合うんだとか」

「想像つきませんねぇ」

「学園祭終わったら行ってみる?」

「そうですねぇ……」




 そこに見慣れた顔が入ってくるのが目に入る。






「サラァ~チーズカレーパン奢ってよぉ~」

「自分で買いやがれエリスさんよぉ」

「わたしにも奢ってよぉ~」

「お前は何でいるんだギネヴィアさんよぉ」

「わたしは明日働きづめだから~今日はだらだらするの~」


「フォルスさん、どうですか温室は。心安らぐでしょう?」

「……ああ」

「どうぞ気持ちが落ち着くまで、ゆったりしていってくださいね」


「いやあやっぱり植物は気持ちいいですねえ」

「セシルはそういうの感じるのか?」

「まっ緑豊かなウィーエルで育ちましたから。ルドベックはどうです?」

「俺はまあ……そこそこ、かな」

「あれサネットは何処に行きました?」

「こっちでーす!! 先ずはお腹を満たしていってくださーい!!」






 

 慣れ親しんだ後輩が、友人を連れてぞろぞろやってくる。



 思えば彼等とこうして過ごす日々も残り少なくなってきた。






「おっすエリっちにぎぃちゃん」

「ヒルメ先輩こんにちは!」

「いや~うめ~ぞこのカレーパン。食え!」

「あふぅ!」



 熱々カレーパンを口に突っ込まれて、口を必死に動かすエリス。



「……おいひいです!」

「おっほっほそうじゃろ!」

「何でヒルメが偉そうなんですか」

「ノーラ先輩お疲れ様です」

「うむ、ジャミルも息災で何よりです」



 労わろうと思い肩に向かって手を伸ばす。が、届かずぴょこぴょこ。



「……」

「はいどうぞ」

「むみぃ~……!!」



 屈んでやるジャミル、自身の身長の低さにぷりぷりしているノーラの隣で、フォルスは温室で栽培している植物を眺めている。



「ジャミル、君が連れてきた連れてきたこの生徒は何者です?」

「知り合いって感じですね。彼が親しくしている友人がいるんですけど、彼女今チーズ転がしレースの方に行ってしまっているので、僕が付き添っているんです」

「成程成程ぉ~」



 そういやリリアンがそれらしき生徒の話をしていたなと思い出す。



「ジャミル、向こうにリフレッシュハーブを栽培している区画があったはずです。ちょっと採ってきては?」

「それ、ハーブの中でも高級品じゃないか……いいのか?」

「ハーブはちゃんと使ってあげてこそです。最も試験栽培中で上手く育ったかどうかはわかりませんので、テストって名目でなら採ってもいいと思います」

「仮に怒られたらノーラ先輩に責任擦り付けますね」

「身体は弱いのに口だけは達者になっちゃって」



 こうして二人は指示された方向に向かっていく。


 



「どうですどうです二人共、こちらの植物の種は! 園芸部の品種改良の成果ですよ!!」

「ぬぅ。種類が多くて迷うな」

「ぼくはこの……紫陽花の種でも買いましょうかね」




「おやサネット、営業ですか。結構結構」



 よっこいせっとサネットの隣に並ぶノーラ。



「他に作物とかはないかな」

「大根とかどうです? 今が植え時ですよ!」

「大根……を使った美味い料理とは」

「巷では大根ステーキなるレシピが流行っているようですよ?」

「それは気になるな」




「ほれ、そこの四年生さん。サラのお友達ですよね?」

「エリスです」

「ギネヴィアです」

「ウチの後輩でもある~」

「ほうほうそうですか。お二人は種は買わないんです?」

「え~どうしましょ~」



 陳列されてある机に近付く二人。今年は種の販売量を少なくした分、値段と質をちょこっと上げている。



(だって活動の維持費が足りませんからね~)





「これでかぼちゃ育ててポタージュでも作ろ~」

「さんせ~」

「それは品種改良を行ってプランターでも育つようにしたやつですね。まっ、そのプランターもかなり大きめのが必要になっちゃうんですけど」

「それでも土地を取らないってのは大きいですよ~。三つくださ~い」

「はい、毎度」



 サラが銅貨を受け取り、釣銭を返す。



「あとは花の種でも買おうかな。どこに植えるかは考えてないけど」

「保存は利くからゆっくり考えなさいな。ほい会計」

「どうもどうも~」



 粗方買い物も済んだので、椅子に座ってのんびりとする。







「……いやあ、今年もたくさん買っちゃったねえ」

「エリスちゃんこれ~。手芸部で買ったポシェット~」

「わたしもブローチ買ったの~。カタリナのお手製だって~」



 学園祭の成果を見せ合う二人。サラは介入せず、成り行きを見守っている。



「……サラ。今笑ってましたよ」

「は?」

「あの二人見て微笑ましそうにしてました」

「……チッ」

「反論しないってことはそういうことですね」



 ノーラはポケットからパイプを取り出す。それは先端が丸くなっていて、穴が空いている。反対方向から息を吸って扱うようだ。



「何それ」

「誕生日に両親から貰ったんです。大人になるんだから、葉巻の一つでも嗜めって」

「え、マジでやんのそれワラ」

「さあ、それは味を確かめてみてからですねぇ……」



 あまり見られない道具に興味を示す、三年生の後輩三人。



「ノーラ先輩それって魔法具か何かですかぁ?」

「いえ、魔力回路は通ってないんですよ。ちゃんと機構が成立していて、手を汚さずに葉巻を吸えるんだそうで」

「それは便利。俺の父も葉巻を吸っていましたが、よく手が汚れて洗うのに苦労していました……」

「ぼくは葉巻ってそんなに好きじゃないんですよねえ。臭いがより感じられちゃうんですよ」

「エルフって辛いですねえ」

「ドワーフの言う台詞かいっ」



 ここでふと時計を見るヒルメ。



 時刻は午後一時五十分を指していた。



「ヤバ。曲芸体操部の発表、もう直ぐ始まるやん」

「何ですってー!!」

「エリっちとぎぃちゃんも行くん?」

「リーシャが出ますので!!」

「そりゃあ重大だ。ウチと一緒に行くべ行くべ」

「待ちなさい、私も行きます。どうせ彼もいるでしょうから会いに行きます」

「おういいぞいいぞ~。ってウチが言う台詞でねえわ、いいのか園芸部さん?」

「ワタシが受け持ちましょう」

「先輩は最後の学園祭、楽しんできてくださいね!」




「……いい後輩ジャン♪」

「貴女も大概だと思いますよ、ヒルメ。ふふっ」





 サラとサネットに見送られ温室を後にするノーラと、エリスとギネヴィアと共に講堂に向かうヒルメであった。

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