というわけでやってきましたホラーハウス。ここは五階の右側、生徒会出店の隣である。
「先輩、どうぞ! レモネードです!」
「ありがとー。ごくごく」
「……美味しい、ですか?」
「うん、とっても」
「えへへ……」
にやにや にやにや
「……ジャバウォック。おまえ、何?」
「シャラもだよ。そんな気持ち悪い顔やめて」
「いや~ぬぁんでも?」
「ぬぁんでもぬぁいわよぉ?」
「おれ、わかる。何かある」
「先輩といい雰囲気なのにこれじゃあ……」
「「いい雰囲気かぁ~~~っ」」
そこにどったんばったん
わらわら出てきて悲鳴が木霊する
「んぎょおおおおおおおおおおおおお!!! ごわがっだあああああああああああ!!!」
「ちびったかもしんねえええええええ!!! おまたがひえひえだよおおおおおおお!!!」
「「――」」
「サイリィィィィ!!! 無言で殴るな!!!」
「デネボラァァァァ!!! 無言でつつくな!!!」
「はいはいこれ受け取ってねー。お疲れ様ー」
「「あざまーーーーーーす!!!」
ニースから景品を受け取るや否や、すぐにその場に倒れ込むイザークとアデルのコンビ。
だが迷惑になることに気付いて、休憩室になっている空き教室に入っていく理性は残っていた。
「イザーク。ホラーハウス、行った?」
「めっちょ怖かったぜルシュドォ!!!」
「な、何でアデル君も一緒なの……?」
「おっしゃらーこんなん屁でもねーぜうぇーいっつって野郎二人で突撃したんだよ!!! ちびった!!!」
「二度も言うな!!!」
「あだーっ!!!」
~それから粗方叫んで正気を取り戻した~
「ルシュドもホラーハウス行ったの?」
「行った。キアラ、むぎゅー」
「へっ!?」
「「……」」
「キアラ、怖い怖い。おれ、ぎゅーした。安心安心」
「そ、そうでした……確かに……ぎゅーされました……」
~現在イザークとアデルが取っているのは
「『どうして友人はこうも惜しげもなく
イチャコラムーブをしているのに
我々にはそのチャンスすら与えられないのか』
という事実を嘆くポーズ」
である~
そんなことしてたせいで腰がそろそろ逝きそうになる直前、
「……ん!!! あの影は!!!」
「アーサー……あ、待って」
「おっとそうだ、エリスはどうなんだろう。一度訊いてこないとな」
「先輩やけに冷静っすね!? ていうかエリス先輩!? 最近姿見かけてませんでしたけど来てるんすか!?」
「来てるけどオマエ絶対に姿見せんじゃねーぞ」
「……へ?」
イザークは部屋から顔だけを出し、
アーサーだけを手招きする。
そしてそれは成功した。
「何だ、二人共ここにいたのか」
「キアラ、アデル、一緒」
「そうか、オレがいない分後輩と一緒にいたんだな」
「大体ボクはその通り。でもルシュドは違うかもよ?」
「武術部、シフト、お終い。キアラ、いた。一緒、行った」
「理解した。それで……」
「ボクらエリスに会えそうですかね?」
「……やってみないことにはわからない」
「んー……」
すると向こうの方に動きが。
『イザーク、ルシュド』
「っと、こっち来たか」
『気になったの』
「エリ……ス! よーしボク思いとどまったぞー! 近付くの我慢したぞー!!」
「久しぶり。おれ、ルシュド。覚えてる?」
『当然 久しぶり』
「これはホワイトボードだ。魔法具の一種で、繰り返し文字を書ける」
「へースッゲー」
そこにいつの間にかいなくなっていたキアラが、レモネード片手に戻ってきた。
「エリス先輩、これどうぞ。レモネードです」
『ありがと』
「えへへ……最近めっきり会えなくなっちゃいましたから。私も嬉しいです」
『忙しいの』
「その、最近は料理にハマってまして……あと、魔術研究部にも入ってみようかなって」
『やる気があるのはいいこと』
「うう……ありがとうございます」
その間もイザークはちょろちょろ動き、アデルの壁になるようにしている。
「ちょっとー!? 何でオレが先輩に話しかけようとするの邪魔するんですー!?」
「静かにしろバカタレ!! オマエは何が起こるかわかったもんじゃねーんだよ!!」
「だー、かー、らー、それについて説明してくれなきゃ納得できないっすよぉ~!!」
「……」
『大丈夫 やってみる』
「……えっ、いいのか?」
『わかんないけど』
「お、おおう……久しぶりです、エリス先輩?」
アデルの眼前に立ち、じっと瞳を見つめる。
「……」
「――」
眩暈が襲う。足が震え、立つことが難しくなる。
「……っ。アデル程度になると、まだ早いか」
「えっ? えっ!? オレ何かやっちゃいましたか状態なんすけどオレ!?」
「お前は何も悪くない。だから気に病むなよ」
「どういうことっすか!?」
「……ボクから話していい?」
「ああ、頼む」
イザークがアデルに説明を行う。終わった後彼は、普段の様子からは想像もできない、しんみりとした表情を見せた。
「……そうだったんすか」
「もう一度言うが、お前は何も悪くないんだ。これは病気に近いものだからな」
「……」こくこく
「学園祭に来たのだって、元の生活に戻る訓練も兼ねてる。前は僅かでも視界に入るだけでも発作を起こしてたんだ」
「じゃあ……治療は進んでいるんですね」
「その通りだ」
エリスを座らせ、カヴァスを抱かせて落ち着かせるアーサー。
『ねえアーサー』
「何だ?」
『ファルネアちゃん アサイアちゃん 大丈夫かな』
「ん……そろそろ戻ってくる頃合いか」
「えっファルネアもここに来てるんですか!?」
「そういえばさっきからきゃーきゃー聞こえるような……」
どたどたばったん
「びえええええええええええええ!!!」
「にゅわあああああああああああ!!!」
「はーいお疲れ様でしたー、こちら景品のステッカーだよー」
ニースから景品を受け取り、転がり込むように入り込んでくる二人。
涙が伝った跡が残っているファルネアと、汗びっしょりのアサイアだ。
「せ、せせせ、せんぱい……!!! うわああああああん!!!」
「……! ……、……」
ファルネアを抱き締め、ぽんぽんと背中を叩くエリス。
「ふえええええええ怖かったよおおおおおおおお!!!」
「アーサー……!?」
「アーサー君……!?」
「……って言うのは建前!!! ま、まあ、適度に怖くて、楽しめたかな!!!」
「そんなこと言って!!! アーサー君だってぴーぴー泣いてたもん!!!」
「ファルネアー!?!?」
友人の謎の裏切りに驚く間もなく、肩をとんとん叩いてきた男のアーサー。
「……どうだった」
「はい!!! めっちゃ怖かったです!!! やっぱり先生方が本気でやってるのは違います!!!」
「あああああの、せ、せんぱい、地面が、ぐにゃーって……! ぐにゃーってなるのが怖かったです!!!」
「……」
「語彙力が足りないと突っ込まないんだな、リップル」
「わたしも怖かったんですー!!」
突如始まった感想会に、何だ何だと集ってくる他の面々。
「あー、何々ホラーハウス? ボクらも行ったぜ?」
「そうなのか」
「ちびるぐらいには怖かったっす!! 特にあの、上から冷たい空気がぞーわぞわ、ぞーわぞわって!!」
「おれ、びっくり、いっぱい。腰、抜かした。地面、ふわふわ」
「わ、私も、ルシュド先輩にくっつき放しで……時計の音が、色んな所から聞こえてくるんですよ!」
「……」
エリスは紙とペンを取り出し、全員の話を聴く体勢に入る。
「……え? 何これ?」
「エリスは今年ホラーハウスに行きたかったんだ。だがこの症状だから、何があるかわかったものではない」
「それでわたし達の感想を聞いて雰囲気だけでも味わおうと、そういうことだったんです!」
「なーるほど! それなら数は多い方がいいだろ! ボクらも話すよ!」
「オレはこの場にいて大丈夫ですかね!?」
『視界に入らなければ 多分』
「よし!! ならば隅の方から大声で話しますね!!」
「逆にビビるわ!!」
「私とアーサー君で壁を作る感じでいいかな?」
「ん、それいいな。じゃあボクはキアラと配置につくよ」
アサイアが移動する隣で、アーサーは時計に目を遣る。
「曲芸体操部の発表が二時からあるんだ。それに間に合うようにしてくれ」
「となると一時間か! まだまだ時間あるし、いっぱい話してやるぜー!」
「ご飯、お菓子、いる?」
『レモネードあるから ブラウニーもあるから いいかな』
「わかった。じゃあ話すぞー!」
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