ナイトメア・アーサー

Honest and bravely knight,Unleash from the night
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第五百八十一話 事の顛末

公開日時: 2021年4月24日(土) 07:16
更新日時: 2021年4月24日(土) 07:17
文字数:2,893

「以上がログレス平原西部で発生した――」

「……云々の全てだよ畜生が」



 丁寧に資料を差し出すブルーノ、雑に置き捨てるフィルロッテ。


 アドルフとルドミリアの二人は何も言わずそれを受け取る。


 そこにはブルックの街の近辺の状況の、事後調査の結果が細かく記述されてあった。



「やばかったぜ現場。草も木も燃えて真っ黒焦げだ――加えて火属性に傾いてるから、ちょっとのことで引火する危険性がある」

「こいつ葉巻吸おうとして危うく爆発する所でしたよ」

「……反省してまーす」


「……戸棚に茶菓子があるから、好きなのを食っていいぞ」

「わーい」



 慣れた手付きで戸棚を開くブルーノ、後に続くフィルロッテ。





「……被害が出たのはログレスの三分の一と推測……環境の復元にも数ヶ月は掛かる見込み……」

「アラクネの時より酷いな……これも、恐るべき八の巨人の力だと言うのか……」



 無力を噛み締めるルドミリア。



「恐るべき八の巨人。全部蘇ると思うか?」

「全部は蘇らない。何故なら二体は既に討伐されているから」

「ああ……そういやそうか」

「サイクロプスとネフィリムでしたっけ? でもって今回討伐されたスルト。それを抜いてもあと五体も……あんなのが五体も……」



 場に沈黙が訪れる。



「……三騎士勢力は何としてでも蘇らせてくるだろう。操れるかどうかは別にしても、敵対勢力の規模を削ごうとしてな。最悪の事態は想定すべきだ……」

「じゃあ、調べないといけないことでも整理しますか」

「アタシ紅茶でも淹れてくるよ」



 ルドミリアは紙とペンを用意し、机に広げる。








「ヘカトンケイル、フルングニル、ヨトゥン、コキュートス、ギリメカラ。残る巨人はこの五体」

「ヘカトンケイルはマーシイ神が海の底に沈めたという話だが……」

「同時にそれでもなお這い上がってきたって話もあります。誰かが何かしてやれば……可能性は、まあ」

「何処に沈められたかを漁ってみるか……」



 次に移る前に、頭を抱えるルドミリア。



「……石の遺跡には調査に行こうとしてたのだがな」

「ああ、フルングニルの身体を構成していた石が、そこら中に転がっているっていう……」

「場所はログレスの結構西の方……スルトの炎で焼かれた可能性が高いな……」

「くそ……今回の件でどれ程の遺跡が燃え尽きたのか……っと!」



 何かを思い出し、表情が明るくなる。



「どうした?」

「話を思い出した。銃らしき物を持ってきた傭兵と、アーサーから聞いた――」



 タキトス盗賊団において、『親方』と呼ばれる人物がフルングニルの力を得ていること、総合戦の際にアーサーが交戦した男が岩を身に纏っていたこと、である。



「……纏めるとこうか? スーツ着ている小汚い男が、タキトス盗賊団のボスで、フルングニルに強く関わっている」

「じゃあタキトスを追ってみるしかないですね……幸いにも連中が起こした事件は山程ある」



 ここでフィルロッテが紅茶が四つ乗った皿を持って戻ってくる。



「お待た~。で? どこまで進んだ?」

「フルングニルについてはタキトスを追おうということで結論付いて次に移る」

「じゃあ次はヨトゥン? それは……ロビン・フッド関連を頑張って漁るしかなくね?」

「……」



 ヨトゥンは古のエルフの英雄、ロビン・フッドが討伐したと伝えられている。


 しかし彼に纏わる資料は寛雅たる女神の血族ルミナスクランが悉く処分してしまっているのが現状。



「……無名のロビンフッドファンが資料を掻き集めてるって話もあるぜ。アタシ、コンタクト取ろうか?」

「何だお前……妙にやる気だな?この事後調査だって自分から志願したし」

「リティカのあんな姿見たらねえ……」



 宮廷魔術師と同等かそれ以上の鍛錬を積み、知識があるとは言えど、やはり巨人の前では矮小な存在だ。


 二人はアルブリアに戻って直ぐに治療を受け、それから泥のように深い眠りに落ち、現在も休養中だ。




「アタシも何かしなきゃ治まらないっていうか……」

「……」

「……ヨトゥンについてはお前に任せるとしよう。逐一報告を頼む」

「あいよ」

「では次だ……コキュートス。正直、こいつが一番黒いぞ」



 ウェルギリウス島のアエネイス大監獄、その地下に幽閉されているとの噂は、イングレンスで育った者であるならば誰でも聞いたことがある。



「アエネイス大監獄を管理してるのは……」

「ダンテ家というイズエルトの貴族。中立を謳ってはいるが、聖教会の人間が最近多く接触しているとも言われている」

「うーん……微妙な所ですね……」

「情報仕入れてみないと何とも言えんだろ。女王に訊いてみたら?」

「そうだな、聖教会がどう動いているのかも不透明だし……案外宴会の誘いだったりしてな」

「寧ろそうであったらどれだけ幸せか……」





 気付けば巨人の話題は五人目に。闇の巨人ギリメカラだ。



「さらさらさら~」

「うおっ、キモッ……」

「お前こういうことは上手いよな……」



 フィルロッテが議論を書き連ねていた紙の片隅に、一つ目で細長い鼻に大きい耳を持つ巨人がちまっこく描く。一般的に知られているギリメカラの姿だ。



「この見た目で物理攻撃をまるっと反射してきたらしいぜ。キモいのに戦いにくいとか嫌だなあ……」

「でも蘇る可能性はあるんだよなあ。エクスバート神が肉体と魂を分離させて、前者をバラバラにした後に後者を石に封じ込めたって話だが」

「……」



 強く関わっていると思われるのはクロンダインの王族、ヘルヴォーダン家。


 ルドミリアは制圧戦後の心理療法において、ある部下が言っていたことを思い出していた。



「象の姿……」

「ん? 確かにギリメカラは、象の特徴を持っていますが」

「いや、先の制圧戦においてな……象の姿を見たと言っていた者がいたんだ」

「あー……そういや団長とデューイの奴も言ってたな。城に攻め込んで暫し方、象の姿を見たって。そいつは数秒もせずに悶えて爆発したそうだ。ただ象の特徴を持っていたってことしかわからなかったそうだが……」

「んー、それ以上詳しい情報ないわけ? ガネーシャだって象の神なんだし、そこで出てきたのがギリメカラって確証はないじゃん」

「ぐうの音も出ない。しかし私が話を聞いた魔術師は、大半が怯えている様子だった」

「一般人殺した影響かもしれないじゃん。いや、従姉様の考えにケチつけるわけじゃないんだけど、確実に動いて確実に止めないといけないでしょ。でないとまた蘇った際に、人が何人死ぬかわかんないよ」

「……」



 自分とは違った考えを持つ者が、一人はいてくれると冷静さを保つ要因になってくれる。



「……とにかくこちらも調べないといけないな。タンザナイアにはまだアスクレピオス……ヘンゼル殿が駐在していたはずだ。話を伺ってみよう」

「まあ結局そうなるよね……何か、こうなってみると、如何に自分達が無知であったかを思い知らされるよ」

「考古学者として面目ない……」

「そういう話じゃなくってさ。昔の人が未来に伝えてくれた、それ以上の脅威になってるなあって」

「千年以上の歴史もあっという間に吹き飛ばされるんだもんな……只の人とでっかい人だ。力の差なんて一目瞭然だな」

「……恐れていても仕方ないさ。人である以上歴史を作り、歩んでいかねばならない……できることを少しでもやっていこう」

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