「ジョンソン様……」
「うふふ……ご機嫌如何かしら……」
――そんなの最高に決まっている。
「ではジョンソン様、隣に行きますわ~」
「まあ、湯気がこんなにもわもわと~……」
そうしてレオナはジョンソンの隣にやってきて、
逞しい腕を軽く握る――
(……んっひょおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!)
触れ合う肌と肌、密接する心と心。すべすべとごつごつの質感の違いが、今は直接感じられる。
加えて今は下半身が猛烈に温まっている。緊張度合いが熱烈上昇。
そう、このアルフ温泉――
最新の魔法具を駆使して、人類長年の夢であった『混浴』を実現させたのである!!!
「まさかジョンソン様と一緒に温泉に入れる機会があるだなんて……ふふっ」
恵まれている。まっことそうだとすっごく思う。
「最近忙しくて温泉に入る機会すらなかったもの~……アルブリアにいると中々、ねえ」
初めて見るレオナ殿の身体も中々恵まれている。
「そういえばアドルフ様が新しい観光名所みたいなことを言っていましたけど……温泉でも提案してみようかしら?」
何だかレオナ殿が今重大なことを言っている気がするが、背筋を伸ばすのに集中している為頭に入ってこない。
「……ジョンソン様? お考え事ですの?」
「ああっはいまあ色々と考えていました!!!」
主に邪念と邪念とあとこの状況で言うべき台詞について。
「確かに聖教会のことは心配ですけれど……折角部下の皆さんが用意してくださった機会。堪能しましょう?」
「そっそうですね……部下達が……」
聖教会は見張っておくんでレオナ様といちゃこらしてきなさいよと送り出されたのだ。
「さて……そろそろあの、マッサージ器という物を試してみようかしら~」
「あっそれなら私もお供しまっ」
ジョンソンより先に湯より上がるレオナ。彼女のすらっとした身体のラインが、ぐさっとジョンソンの脳髄にまで直撃してくる。
「んぐおっ!!!」
「きゃあーっ!」
「ああっー!! ふぅんっ!!」
今何が起こったかを説明すると、とても強い突風が吹いて、レオナが巻いていたタオルがそのまま地面までずるずると。それを見て瞬時に湯から上がり、彼女の前方に仁王立ちして壁になるジョンソン。
幸いにも対応が早かった為、誰もレオナの裸を目撃していない――そもそもこの混浴露天風呂には二人しか人がいないのだから、最初から赤の他人に裸を見られる心配なんてないのだが。
ともかくその代償として、ジョンソンは自分の腰辺りに嫌な感覚が走ったのを感じた。
「ジョンソン様? 冷や汗を掻いておりますわよ……?」
「……ぎっくり……」
「え……?」
「腰がぎっくり、行きましたねえ……!!!」
仁王立ちの態勢から足を元に戻そうとすると、付随して腰も動くのでもうバキバキ悲鳴を上げる。平然を装うにしても顔は嘘をつけないので鬼神のような形相になる。
「まあ大変ですわ~……もう上がりましょうか?」
「いえ!!! 折角のレオナ様と一緒に二人きりになれる機会!!! このジョンソン最後までお供いたしますぞ!!!」
筋が通ってそうで通っていないことを言った後、さあさあこちらへと、足を思いっ切り動かして先に進んみ、膝を曲げて道案内する。
当然足も膝も支える腰は過労でくたばった。
「……温泉って疲労を癒す為の場所じゃないんですかあ」
「何でスケルトンみたいな顔して出てくるんですか……」
「だって腰をやったから……いっだぁーい!!!」
温泉のロビーまで戻ってきたジョンソンは、丁度終わる時間だろうと待機していた部下達に迎えられる。
が、非常に腰を痛くしていたので、哀れに思ったのかカイルが治療を試みると言い出して現在その途中。
「カイルさん!? 私今何されているか訊いてもいいかい!?」
「物理療法と魔術療法の二つを同時に実践しています。腰の痛みを和らげるツボを押しながら同時に血管も刺激し、魔力が全身の疲れを巡らせるように細工しています」
「丁寧な説明ありがとうだけど威圧感を感じるぅ!! てかいい匂いするんだけどこれ何!?」
「私が丁度持ってきていたハーブです。現在団長の腰に塗りたくってます。イズエルト固有の植物を配合している物で、疲労回復によく効くんですってぇー!!!」
「レベッカァー!!! 何で私の腕蹴るのぉー!!!」
「貴重な研究材料が団長のヘマのせいで使い潰されているからですー!!!」
医療班全体の恨み辛みが籠っているであろう蹴りを続けるレベッカ。こんなすったもんだが一般人も通っていくロビーで行われているので、誰もかもが何だあのサムシングはと唖然としながら通り過ぎる。
「うふふ~。お待たせですわ~」
「おおーレオナ様。湯上りでも相変わらずお美しい」
「ドキッ!!!」
「動かないでください」
「あだぁ!!!」
髪を一つに纏め、首からタオルを掛け、スキナーにティーシャツと完全にさっぱりした服装のレオナ。ジョンソンは色めき立つが施術を行っているカイルがそれを許さない。
なので特に下心とかないダグラスが会話を続ける。
「ダグラス様、あなたは重装部隊でしたわよね~」
「そうですけど……あっわかりました、打ち合いですね?」
「その通り~。温泉に入って血の巡りがよくなったら、身体を動かしたい気分になりましたの!」
「そういうことでしたらお付き合い……どこでやります?」
「向こうにお酒に酔った人が暴れ回る用の場所があるらしくて~。そこをちょいとお借りしましょう~」
「借りれるんですかねそれ……」
ここでわーわーと飛び入ってくるのは、大量の包装を抱えたウェンディ。
「お待たせ! 買ってきたよ! 温泉スフレ!」
「へえ、スフレか。饅頭じゃねえんだな。おっされーだぜ」
「ダグラス君手が伸びるのが早いね……」
「わたくしもいただきますわ~」
「はいカイル。団長の分もここに置いておきますからね」
「三つ取っていったのは何故かなレベッカ???」
「べ、別に私も食べたいって思ったわけじゃないんだし……!」
「ツンデレ頂きました~」
「方向性が不明だがな」
「カイルさん!? ダグラスさんはいいとしていいとしてカイルさんがそんな突っ込みをあっだあ!!!」
これがかの大国グレイスウィルの、赤薔薇を背負う誇り高き騎士達であると、伝えられてもきっと俄かには信じられないだろう。
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