ナイトメア・アーサー

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第四百九十八話 貢献活動

公開日時: 2021年1月17日(日) 10:28
更新日時: 2022年7月10日(日) 11:16
文字数:2,364

 四月は基本的に、新生活に慣れる為に費やす月。慣れてきた頃には五月が始まる。


 そして慣れてきたら、ちょっと背伸びして色んな経験をしてみたくなる。




 貢献活動とは、学園側がいい感じの単語を選択しているだけで、要は短時間労働である。アルブリアに住む者であれば、金銭報酬を渡すことを条件に生徒達に仕事を依頼することができるのだ。






「失礼しまーす」

「おっ、アーサー達じゃないか」

「アレックスさんおはようございます」

「今日は寮長が担当っすか」

「まあな。今日担当の職員が急遽休みになっちまって」



 一階ロビーから続く活動室。ここには貢献活動の依頼が貼ってある掲示板があり、更に椅子と机が置かれ談話室の役割も果たしていた。



「何かギルドのロビーみたいっすね。行ったことないけど」

「似せて作っているからな。で……見るかい?」

「見ます見ます」






 部屋の半分を覆う巨大な掲示板。


 上から下まで、左から右まで、無造作に見えてちゃんと規則に則って依頼書が貼られている。






「四年生はこの辺から選ぶといいだろう。右に行けば行く程上級生向けになって、依頼の難易度や前提要求が高くなる」

「でも報酬も高くなる」

「そういうことだ。まっ、その辺は上級生になってから考えるといいさ」

「どれ……ふむ……」



 ヴィクトールは早速依頼書を読み漁り出す。他の四人もそれに続いた。






「……土木作業が多い」

「状況が状況だからな。それ抜きにしても、前提条件も大して必要なく、しかも即日手渡しで報酬が貰える。やることだって決まっている。受ける側も仲介する側も、勿論やる側も気楽にできるってわけだ」

「オレはこれにするかな。第一階層の建物の修繕作業、五時間勤務休憩一時間……」

「それで報酬は銀貨六枚! どうなんすかね?」

「普通に好条件だと思うぞ」

「おれもやるー。アーサー、一緒」

「じゃあ……ボクもこれにすっかな。活かせるような頭はないし」

「……」



 気が乗らない様子のヴィクトールとハンス。



「意地でも身体は動かしたくないか」

「断固として拒否する」

「ぼくはそもそも働くことが嫌なんだけど」

「そんな水臭いこと言うなよ!! 皆やってるだろ!!」

「あ~……」

「別に頭を使う仕事だってあるぞ。ほら、これなんかどうだ?」



 アレックスが見せてきた依頼書には、『学問を教えてくれる生徒募集』と書かれてある。



「教師だと?」

「入学前教育ってやつだ。裕福な所が家庭教師を雇ってっていうのが一般的だが、最近はこうして手が空いている生徒や大人を募って、軽めの報酬の下に教えてもらうっていうのも流行っているらしい」

「しかし必ずしも教えられるような者が来るとは限らないだろう」

「えーと……専用のテキストがあるので、それに沿って教えてあげればオッケー! だってさ」

「ほう、ほう……」



 非常に興味深そうにしているヴィクトール。気付けば申請書を取ってきて、記入事項をすらすら書いていた。



「で、結局ハンスはどうすんのさ」

「え~……働くにしても人と関わるのはやだなあ。面倒臭い」

「なら物作りの仕事があるぞ。これはどうだ」



 『フェルトを用いた人形を作ってます! ご一緒にいかがですか♪』と書かれている依頼書が、ハンスに手渡される。



「……男だぞ」

「いや、身体も頭も動かすの拒否したら最後は手しか残ってねえだろうが」

「因みにこれ女子の方にも依頼書出しているな。出会いがあるかもしれないぞ~?」

「はぁ……まあいいや。ぼくはこれにするよ。大体皆頑張ってるのにぼくだけサボるのもなんかね……」




 驚いた視線が四つ、彼に突き刺さる。




「……何だよ」

「……生徒会室を脱走しようとしていた奴の言う台詞ではないなと」

「……」


「三年前のことだなー!! いやー懐かしい!!」

「いいからてめえらも申請書書けよ!!」











 一方女子達も五人揃って、貢献活動の依頼書を見に来ていた。こちらは寧ろ談話室目的で来ている生徒が多いように思う。




「ビアンカさーん、こんにちはっ」

「こんにち……おおっ、エリスちゃん! お友達と一緒か!」

「一緒でーす。貢献活動やりたくて、依頼書見に来ました」

「そうかそうか! じゃあ今手が空いてるし、私が案内しよう!」

「お願いしまーす」






 基本的な構造は薔薇の塔の物と同一である。よって、四年生向けの依頼が貼ってある場所も大体同じ。






「色々あるわねえ」

「身体使う仕事はないのかー!?」

「あるよー絶賛募集中! これは第一階層の修繕作業!」



 ビアンカが持ってきた依頼書を手にし、数秒読んだ後すぐに申請書に書き込むクラリア。



「即決すぎない?」

「何事もやってみないと始まらないぜー! 大体どうにかなるぜー!」

「クラリアらしいなあ。さて、わたし達はどうしましょ」

「……ん? この依頼書、騎士団から来てる?」



 リーシャが剥がした依頼書には、『騎士団の雑務を将来有望な生徒達に手伝ってもらいたいです 大至急』と切羽詰まった文体で書かれている。



「詳しい内容を聞いたら、どうやら書類の振り分けや処分が主目的みたい。騎士団は色んな所に駆り出されてるからねえ、人手不足が深刻みたいよ」

「じゃあわたしこれにしようかな。騎士団には顔見知りの人もいるし」

「わたしエリスちゃんについてく~」

「私もそうする~、やりたいの他にないし~。カタリナは~?」

「あたしはこれ。フェルト人形作り」



 愛らしい装飾がされている依頼書である。



「うんうん、いいと思う。カタリナは手芸部だから、手先器用だしね」

「自分の能力を活かせるのも貢献活動の醍醐味! でサラちゃん、貴女は決まった?」

「ワタシはこれで。学問の教師」

「ああ、生徒とか募集して教えてもらうってやつ?」

「テキスト通りにやればいいっていうのが気になるのよねえ。あと頭が使う仕事をやりたいと思ったからね」






 こうしてやりたい仕事を見つけた彼女達もまた、申請書の記入を進めていくのであった。




 そして依頼にあった日付まで時は進む――

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