「エリス、こんにちは」
「おっはよーエリスゥ!」
「元気してるかエリスー!」
「コイツらが行くって言うから便乗してやったわよ」
ある日の放課後の時間にやってきたのは、顔馴染みの四人。カタリナ、リーシャ、クラリア、サラである。
ソラと庭の掃除をしている所に、小袋を携えてやってきた。早速見せびらかしてくる。
「聞いた話だと結構お菓子貰ってるようだからさー、ちょっと趣向を変えてみたんだ!」
「いい花の匂いがするんだぜー!」
「気分に合わせて使いなさいよ」
「はい、これだよ」
カタリナから渡されたのは、麻袋が数個。
それぞれ花の絵が貼り付けられている。その香りがするということだろう。
『ありがとみんな わたしも会えて嬉しい』
「ね~! お見舞いするぐらいには回復できたんでしょ? 本当に凄いよエリス!」
「聞いたわよ? 建国祭の時出歩いていたって話じゃない」
「で、それから回復が早くなっていったってね……」
「言ってものんびり屋の亀からやる気出した亀になったぐらいだけどな」
ローザも家から出てきて、四人に桃のタルトを渡す。
「これ昨日皆で作ったんだ。余ってたからやるよ」
「ありがとうございます!!」
「ん、意外と美味いのね」
「……」
「今日もあいつに振る舞うために頑張ったもんな?」
「……!」
「おやおやぁ~? あいつとは、ま・さ・かぁ~?」
そのまさかがご登場。
「ん、今日はお前達か」
「おおっ、やはり来た! 本命!」
「何の話だよ……」
また紙袋を携えて、アーサーがやってきたのである。
「……毎回思うけど、お前よく金あるよな。気遣うのはいいけど無理はすんなよ」
「実は臨時収入が入ったんです。それで、オレはエリスのために使おうと」
「へぇ……」
臨時収入とかどう思うかお前ら、と訊こうとしたら、
女子四人は何やら嬉しそうな表情でにやにやと。
「……その表情するのをやめろ」
「全力で断る」
「無理だわそんなの」
「エリスよかったなー! 幸せ者だなー!」
「ふふ……」
ぎゅるるるるるるうううううううう……
「……アーサーくぅ~ん?」
「……」
「はいはい、ご飯食べていく?」
「……ああ」
『みんなもおいでよ』
「えっ、逆に良いの!?」
『楽しいからいいよ』
「うーん……十人もいると流石に一部は立ち食いになると思うぞ」
「逆にお外で立ち食いできるものを作ればいいのではぁー!?」
走りながらやってきたソラがぶっ放して、それをローザがキャッチする。
「んあー、いいなそれ。じゃあそうすると……焼肉か!!!」
「肉!!! どこにあるんだ!!!」
「今から買いに行く!!! 折角だからグスゴー牛でも買うか!!!」
「最高級じゃん!!! 経費オーバー間違いなし!!!」
「安心しろ私の給料から出してやっよ!!!」
「みぎょー太っ腹!!!」
「ローザさんマジ神ですわー!!!」
こうしてローザの給料で食す焼肉が始まった!!!
そしてそれも終わって風呂に入った!!!
「ぐぅ……すぅ……」
「ウェンディ、貴女この香りに負けてどうするのよ……」
「はうわあ!? 寝落ちなんてうちしてないよ!?」
『してましたよ』
「だってさ♪」
「ぷぎゃぁ……」
現在はエリスの部屋に五人で集まって、のんべんだらりとしている。ラベンダーのアロマの香りがほんわかと満ちていく。
「にしても調香ができる友達がいるだなんて、本当に顔が広いのね?」
『大切な友達です』
「そっかそっか……」
レベッカとローザは今日の分の書類を書きながら口を動かしている。
「……」
「ん、これはね、記録書。貴女の状態を事細かく書いてるの。見る?」
「……」
「そうね……血中濃度はまた少し下がったわ。でも依然として危険域にいることには変わりない……」
「……」
「だけど、これを続けていれば改善はするはずよ。ただ……十一月中旬には、厳しいかも」
それはつまり、
魔術戦に間に合わないということ。
「……お前は頑張ってるさ。だが、それ以上に敵が強大だった。それだけだ」
「……」
「……よし! 話題を変えよう!」
ソラが手を叩き、それに続けとブレイヴも吠える。
「ねえねえ、折角おなごがこんなに集ってるんだよ。恋バナの一つや二つしようよしようよ」
「女子って歳じゃないけど、それはさておき採れ立て新鮮の話題があるわねぇ」
「……」
「素知らぬ振りしてんじゃないわよぉ、エリスちゃん!」
レベッカがエリスをちょんちょん小突く。
「毎日毎日まーーーいにちここに来て……お菓子も買ってご飯食べて、エリスちゃんに声かけて!」
「いいよねぇ、あそこまで想ってくれるの……」
「今日の焼肉だって、まーったくお肉食べなかったもんねえ。エリスちゃんに付きっ切りで肉取ったりお米とかパンとか持ってきたり……」
「「何の話よ!?」」
ウェンディとレベッカが目の色を変える。
「「焼肉したの!? したのー!?」」
「やっば、内緒にしとくの忘れてた」
「いねえ方が悪い、以上だ」
「しょうがないでしょー!? レーラ先輩とユンネ先輩に、特別任務どんな感じって呼び出されたんだもん!」
「ウェンディ、終わったことは仕方ないわ……」
「な、やけに冷静だね……?」
「私達は……アルベルト先輩に奢ってもらえばいいだけの話!!!」
「その手があったか!!!」
「あの狐の騎士様、どんな扱い受けてるんだ……」
二人が意気投合している隣で、
カヴァスをぎゅっと抱き締め縮こまるエリス。
「あらまごめんなさい! 話題逸らしちゃったわね☆」
「……!」
「いいよねぇ~アーサー君。いいよねぇ~!!」
「見てるこっちが恥ずかしくなるぐらいにべっとりだもん!!」
「ハッハッハッ……ワオン!」
「~~~~~」
思わずぷいと顔を背けてしまう。
「……やっぱり、気になってる?」
「……」
「でもぶっちゃけ、あの顔と言動で嫌いになるなって方が無理あると思うな~。私もエリスちゃんの立場だったら惚れると思う!」
「……」
彼は騎士様、ナイトメア。
同年代の男の子で、クラスメイトで、
裸もそれなりに――
(……)
……ハハハハハハハ!!!!!!!
(……!!)
「ん……こんな時にか」
「よしよし落ち着いてー。ネムリンちょっと来てー」
「ネム~」
頭を抱えて、呼吸が荒くなったエリスを、レベッカとネムリンの二人がかりで支える。
「……どうだろうか。突然来たなら人差し指、連想したなら親指で」
「……」
「連想……何から結び付いたかは言えるか?」
「……」
「……よし。無理なら仕方ない」
「……」
裸か、それとも臨海遠征か。
あるいは両方かもしれない――
「これは別の恋バナを投入して気分転換するしかないねぇ」
「……」
「記録を言い訳に逃げないでよロザリン? アルシェス先輩とは最近どうなのさ~」
がばっと顔を上げ、
羽ペン片手に殴りかかる。
「てめえ!!! あいつのことは話題に――」
しかしエリスからの眩いばかりの視線に気付き、
あっという間に観念した。
「……うがああああああああ……」
「……!、!!」
「はいはい、ホワイトボード」
『アルシェスさんとどういう関係なんですか!』
「……私は何も答えん」
なのでソラがべらべら答える。
「三つ年上の先輩だよ~。それも魔法学園の!」
「あいつリネス近郊の出身なのにどうしてグレイスウィル入学したんだが!!!」
「内気だったロザリンのこと、何かと気にかけてくれてねぇ。魔術研究部に勧誘してくれたのも先輩なんだ」
「チョリーッスとか声かけて連行していくのを勧誘とは認めん!!!」
「生徒会にも所属していて成績はいい方。将来は医術師になるとか言ってて、すっごい回復魔法に詳しくて。訓練中のロザリンの怪我もぱっぱと治してくれたんだよ~」
「なのにあいつ何で宮廷魔術師になったんだよ!!! 何でアスクレピオスに行かなかったんだよ!!! 行けただろ!!!」
「宮廷魔術師の方がランク高いからモテるっていうのは本人談。でも本当はロザリンと話がしたいだけって……」
「だーーーーーっ!!! 死ね!!! あいつなんて死んじまえええええええ!!!」
ばんばん机を叩くローザを、にやにやしながら眺める他四人。
「お前ら!? いいか私はあいつ嫌いだからな!! 人が望んでもいねえのに突っかかってきてうぜえんだよ!!!」
「いやー、最初に何も答えないって言った割にはさー、結構言うんじゃん!?」
「それは違う!!! 断じて違う!!!」
「好きの反対は無関心なんだよ~!!」
「うっせ!!! うっせええええええ!!!」
「ネム~」
無理くり体毛に顔を埋めさせるネムリン。その中で嗚咽を漏らすローザ。
エリスはほんのり嬉しそう。そのままウェンディに話を振る。
『ウェンディさん』
「はいはい! 何でしょ!」
『ローザさんとっても恥ずかしそうです』
「そうだね! でもこれが恋バナの醍醐味醍醐味♪」
『わたしも恥ずかしくなりました』
「良い顔してたよね~!」
『だからウェンディさんも話してくれないと割に合いません』
「……」
「……んへぇぇぇぇぇぇ????」
『ちょっと カイルさんとはどうなんですか あれから』
ホワイドボードを顔に近付けていくことで、圧力をかける。
「おいエリス何の話をしている見せろ」
「あ゛ーっ!!! ま゛っで!!!」
「何!? カイル!? あの丸刈りイケメンか!?!?」
「知ってるんかい!!!」
「ブルーノのあん畜生が度々口にしてたよ!!!」
「……」
恥ずかしいのか、怒ってるのか。何とも言えない顔で目をひくひくさせるレベッカ。
『レベッカさんもお話してください』
「わ、私はね? そ、その~……そういう話はね?」
「色恋沙汰になんなくてもいいのは世界中飛び回ってる僕だけだよ~」
「あのね!!! この八重歯衛生兵もカイル君のことが好きなんですよ!!!」
「ぎゃーーーーー!!! 道連れにすんなーーーーー!!!」
奥にすっこんでいくレベッカを、ゲラゲラと笑うローザが無理くり引っ張ってくる。
「んじゃあ……あれか? ライヴァルってやつかお前ら???」
「……そ、そうね?」
「そうなっちゃうんだよね!!!」
「ぶっちゃけ訊くけどどっちの方が勝ってそう?」
「「とんとんだと思う!!!」」
そこだけはタイミングが同時だった。
「表情が硬いから何考えてるのかどうにも……!」
「上手く声かけてるかどうかもわかんにゃい!」
「「でも、絶対にこいつだけには負けない!!」」
互いに互いを指差し、そう宣言。
「はぁ……はぁ……」
「な、何で恋バナで叫ばないといけないのかしら……」
「恥ずかしいからだろ……」
「うんうん皆いい笑顔だったねー。おっと、僕にはそういう話は一切ないよ?」
「こ、この、あっけらかんな顔が……」
ふとエリスの方を向くと、
彼女は椅子に座ってうとうと、うとうと。
「おっと、いい感じにエネルギー使ったかな?」
「……」
「時間は……二十二時か。そろそろ寝るか?」
「……」 こくり
「よーし。お香はこのままでいいとして、寝具の準備だなー……」
暦が一枚剥がれた、十月の上旬。そんな夜は今日も今日とて過ぎていく。
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