<魔法学園対抗戦・総合戦
九日目 宮廷魔術師天幕区>
「従姉様~相談なんですけどぉ~」
「何だフィル~」
「流石に文字を読みっ放しってのも疲れるんで、休息をですね……」
「食事と風呂の時間以外何処にも行っちゃ駄目だぞ~」
「……」
半年の休暇と牛肉に釣られた結果がこれである。
フィルロッテは、ただいまルドミリアに絶賛拘束され中。一日中神秘文字の解読を行っているので、目がしぱしぱしている。
「いやあでもぉ、流石にこれはぁ、人使いが荒いっていうかぁ……」
「普段の行いだぞ~。お前に隙を与えたら逃げていくだろぉ~?」
「この神秘文字はぁ、アタシの目から見ても興味深いからぁ、真面目にやるって言ってるじゃないですかぁ」
「普段の行いだぞ~。さあ、口を動かして休憩は終わっただろ~。手を動かせ頭を動かせ~」
「……」
心の中で白目を剥き、作業に戻ろうとしたその時――
「ルードミリアさまーっ!!」
非常に汚れて派手な配色になったローブを着た男を、その視界に捉えた。
「ん、あれは……ジャネットじゃないか!」
「おお、ジャネット。こんな所で会うとは奇遇ですねえ」
「私はちょっと挨拶をしてくる」
「そうですね挨拶をしてきた方が!!!「キャメロン、こいつの監視を任せた」「御意」
ばたん
「……」
「監視代理を任されたキャメロンにございます。さて、後は何も言いませんぞ」
「クソがぁ……!!」
「お久しぶりですねえルドミリア様! 半年ぐらい経つのでしょうか? 時間の流れはあっという間ですねぇ~」
「ああ、ついこの間カムランがやらかしてくれたと思ったら、もう総合戦だよ……ほら、ホットサンドだ」
「んひょーチーズがとろーり!! ありがとうございます!!」
購買部まで歩き、軽食を買って語り合う二人。
そこに更なる客人が合流する。
「ジャネット殿、こちらにいらしていましたか」
「あっ!! マットにイーサン!! チミタチ何で迷子になってんだよー!!」
「あんたの歩くスピードが早すぎるんですよ!」
「だってルドミリア様にお会いできるんですもんー!!」
「……」
突然の来訪に多少戸惑っているルドミリア、それに傭兵二人は気付いて会釈をする。
「初めまして、ルドミリア様。私はマット、しがない傭兵でございます。ナイトメアは猿のリズ、今は身体に入れております」
「俺はイーサンと申します。ナイトメアはこの鞘、エルマーです。マットの弟でもあります」
「ふむ……傭兵か。まあ名乗られたのだから、私も返そう。ルドミリア・ロイス・ウィングレー、グレイスウィル四貴族の一人だ……」
「君達はジャネットの知り合いか?」
そう、そうなんですよ! と割り込むジャネット。
「そしてですね、今回わざわざ我々が総合戦に赴いたのはですね、貴女様に重要且つ秘密の話をしたいと思ったからなんですよ!」
「……仕事の途中で不味い物でも見たか?」
「私じゃなくってこの傭兵兄弟がね~~~っ。で、そん時見つけた物を私が解析して、その結果を貴女様にも共有してもらいたくて……」
「キャメロン……は、フィルの所だな。では暫し買い物に付き合え」
「何の買い物でしょう」
「軽食と菓子だ。ここから先は、移動して話をしよう」
「……その移動先が何でアタシの天幕……」
「お前の監視も同時にできる。ワンストーンナンタカとやらだ」
「いやでも、その重要な話がアタシの耳に入っちゃうでしょ!!」
「お前がそれを知った所で悪用はしないだろうし、意地でもさせない」
「……解読してま~す」
けばけばしいピンク色の天幕に集まる、男三人と女二人と骨。薔薇の香りがむさくるしい臭いに上書きされていく。
「ホットサンドうまー!」
「美味いですよルドミリア様ー!」
「学園祭の時もそうでしたけど、グレイスウィル魔法学園の購買部ってクオリティ高いですよね」
「店長のガレア殿がな、色んな所に顔が効くんだ。それでいい食材が入るのもそうだが、彼自身の腕も相当だ。教えられればすぐに料理が上達するぞ」
「それはそれは会ってみたいですねえ! まあ先ずはこの話ですけど……」
ジャネットは脇に下げていた鞄から、丁寧に梱包した物体を取り出す。その次に紙をばらばら数枚。
「……開けてもいいか?」
「ええ、大丈夫です」
「……」
一枚ずつ、梱包に用いていた紙を捲る。
そこには何かの部品と思われる物が、大小関係なく一纏めにされていた。
特に特徴的なのは、滑らかな直角に曲がった、一番大きい部品。
「……君達が何故これを」
「え?」
「はい?」
「実は私も、これと全く同じ物体を見たことがあってな」
「……どういう経路でございます?」
「知り合い……の部下、かな。彼が持って帰ってきたんだよ」
ナーシル火山での一件を思い出す二人。
あの時、三つあったこれを持って帰ったのは――
「……そういうことでしたか」
「おおっ、今度はこっちがどうした」
「いや、単に記憶が合点行っただけです。お気になさらず」
「オーケイオーケイ。じゃあ……多分情報量では、ルドミリア様の方が勝ってると思うんですよねえ。先に意見を窺っても?」
「ああ。君達もこれを持っているのなら、説明は必要だろう……」
ルドミリアも机の上にあるファイルを漁り、数枚の紙を取り出す。
「これは一応『銃』とされている。先程の部下の発言からな」
「ええ、自分達もこれは『銃』であると認識しています」
「だが、今世界に認識されている『銃』は、このような形態をしていない」
「身長と同じぐらいの長さで、背負って持ち歩く物。またその使用形態も、遠距離から数メートルかけて敵を射抜く、或いは陽動に用いる」
「その通りです。このような手に収まるサイズで、しかも近距離で用いることは有り得ないんですよね。ましてや味方に撃つなんて……」
火口での光景を思い出す。碌に訓練を受けてないような連中でも、これを手にすれば傭兵達と渡り合えていたのだ。
「『カードリッジ』とも聞こえてきたらしいな」
「はい。で、一人がその『カードリッジ』を探している間に、そこから戦線が崩れて自滅していきました」
「この辺りはまあ、盗賊ですので……」
「そしてこの四角いのが『カードリッジ』か?」
透明な物体をつまみながらルドミリアが訊く。
「実は私が見せてもらった『銃』には、これが入っていなかったんだ」
「じゃあ間違いないでしょうねえ。そしてその中に何かを入れておいて、それが弾の代わりになってるんでしょう」
「それは何だと思う、ジャネット」
「まあ魔力でしょうねえ。液状にした魔力をここに入れてたんですよ。それを弾という形でばーんと」
「魔力を用いているのなら、味方に撃っても問題ない……魔法を行使するのと同じように、頭の中で回復するのをイメージすればいい。ジャネット殿にそう教わりました」
「つまりこれは、銃という形で魔法を使っているっていう解釈でよろしいんでしょうか?」
「ああ、そうだな……」
腕を組んで考えるルドミリア。他の面々も彼女に倣ってそのようにする。フィルロッテは休憩が欲しくて白目を剥いている。
「……銃と言えば?」
「「「エレナージュ」」」
「まあ常識だよな」
「……これもエレナージュの連中が造ったんでしょうかねえ?」
「その可能性はありますよ。『魔法がすっげ奴』です」
「ああ、そういえばそうだったな」
「何でそんなことまで知ってるんですか」
「先程の部下が教えてくれたんだよ」
これはあくまでも噂だが、と前置きしてルドミリアは話を続ける。
「エレナージュは新兵器として、銃の開発を行っているという話だ」
「……試作品?」
「別に死んでも構わない盗賊を利用して、試作品のデータを集めていた。こう考えると筋が合う」
「……」
眉を顰めて難しそうな表情をするルドミリア。
「そんなことをするようには思えない、でしょうか」
「……当たりだよ、マット殿。私は立場柄ベルジュ殿下ともクラジュ殿下とも、そして父上のオージュ陛下とも面識がある。どの方も温厚で平和を重んじる素晴らしい方だ。特にクラジュ殿下については、痛ましい所はある……」
「病弱ですからねえあのお方。それもあってか人一倍平和路線を推し進めている印象があります」
「じゃあ反王政みたいな勢力があって、そこが造ってるんでしょうか。しかしこのジャネットのネットワークを駆使しても、そんな話は聞いたことがございやせんよぉ」
「魔力を用いた銃ねえ……」
イーサンは部品をまじまじと眺める。他の全員もそれに続いて観察を続けた。
「エレナージュって魔術研究で名高いですからねえ。その一環だったりするんでしょうか……」
「だったらとんだ迷惑だし、本当に目的はそれだけなのか? っていう」
「いずれにしても――」
「何か、とんでもないことが裏で進行してるみたいですねえ――」
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