こうして寮で過ごす夜。戻ってきても魔法音楽の熱はまだ収まっていないようで。
女子達が六人リビングでのんびりしている所に、ギネヴィアがそうだそうだと立ち上がる。
「ねーねーエリスちゃん! 聞いて!」
「何をー?」
「歌! 作ったの!」
「……作った?」
「それではお聞きください、ぎぃちゃんの歌!」
『ぎぃちゃんは可愛いぞっ 可愛いぞっ 可愛いぞっ』
『何よりも可愛いぞっ 可愛いーんだぞーっ』
『ぎぃちゃんは偉いぞっ 偉いぞっ 偉いぞっ』
『いっつも元気で偉いぞっ 偉いんだぞーっ』
『ぎぃちゃんは強いぞっ 強いぞっ 強いぞっ』
『とっても強くていいんだぞっ いいんだぞーっ』
『ぎぃちゃんは凄いぞっ 凄いぞっ 凄いぞっ』
『とにかく色々凄いぞっ 凄いんだぞーっ えっへん!』
「……可愛い歌♪」
「上達したね~!」
「歌って結構簡単に作れるものなんだね……」
「上手だったぜー!」
「歌詞の自尊心が強すぎない?」
まあまあ褒められて大層満足。ソファーに座ってタピオカを飲む。
「ストラムさんに練習付き合ってもらって、音階通りに歌えるようになったの!」
「進歩だ、素晴らしい進歩だ」
「環境が整ってるとここまで変わるもんなのねえ」
「はぁー!」
足をばたばたさせる姿は、好奇心に満ち溢れた、無邪気な子供そのものだ。
「わたし、もっと曲を作りたいな! 今度は色んな人がライブで歌ってくれるような、ちゃんとしたやつ!」
「おおっ、何たる野望だ!」
「でも曲を作るのは難しそうだぜ!」
「そこんとこはイザーク君に教えてもらう!」
「だとしてもある程度テーマは固めておかないと」
「うーん、テーマか」
「こういう歌を歌ってみたいっての、何かある?」
「むむむ……」
頭を抱えた数秒後に答えは出た。
「聞いてる人も、歌う人も、元気になれる歌! それでいて、わたしらしさ全開の歌がいいな!」
「その二つは結び付けることが簡単そうね」
「ギネヴィアらしさっていうと、さっきの歌みたいに、自信もりもりな所だよね」
「そういうの歌詞に入れたいよね~~~。だって唯一無二じゃん! 絶対誰かの心に引っ掛かるよ!」
リーシャは立ち上がり、白紙とペンを持ってきた。
「じゃあ何かアイデアでも書いておこうぜぃ。何かある?」
「元気って言ったら虹! カラフル!」
「確かに虹は見ると元気が出るぜー!」
「ギネヴィアのイメージ……力強い、逞しい、元気、パワフル」
「『パワフルカラフル』? ……語感がいいわね」
「それ気に入ったー!! パワフルー!! カラフルー!!」
『東の空を見上げよう 焼け付くような太陽だ』
『西の空には舌出そう 日陰者の時代は終わりだ』
『南の空は出迎えて 旅立ちの時は今ここに』
『北の空の道標 頼りに向かう未来に、さあ――』
『百年後、二百年後、三百年後 世界はどんな風になっているか
な』
『素敵な物で溢れているかな 笑顔が沢山生まれているのかな――so!』
鼻歌と歌詞を交えながら、イザークは楽譜に加筆を進めていく。かなり癖のある字で綴っているので、細かい内容は書いた本人でないと理解できない。
「完成したんだな、遂に。作詞作曲編曲イザークだ」
「よせやい照れるわ。でも完成したのはいいんだけどさー、曲名が決まってないんだわ」
「そうなのか?」
「候補は色々思い浮かぶんだけど、こう、ぱっとこないっていうかしっくりこないっていうか。つーわけで何かないかな?」
「んー……」
イザークに渡された楽譜を四人で眺める。
「『可能性はゼロじゃない』はどうだ。印象的な歌詞を抜き出すパターンだ」
「『未来』。曲のイメージ、おれ、思った」
「『響け僕らの第一歩』とかでいいだろ」
「『蒼穹のアルペジオ』……なんて、どうだ」
割と真面目でいい雰囲気の案が四つも出された。
「ん~……」
「……よし!」
「『カノウセイミライ~響け僕らのアルペジオ~』で行こう!」
「……全部盛りかよっ」
「だってセンスありすぎて一つに決められねーんだもん!」
「センスって、即興で考えたんだけどなこれ」
「イメージを言葉にできるってある種の才能よ? やっぱハンスも魔法音楽部入ろうぜ!!」
「五月蠅いから無理だって言っただろうが……」
曲名を最初の頁に書いた後、満足気に完成した楽譜を見つめるイザーク。
「新入生歓迎会が終わって……学園祭辺りか? 披露するの」
「いや、来年は対抗戦がある! そこで応援歌代わりにするのはどうよ!」
「おれ、賛成!」
「ふむ、それは盛り上がりそうだな……貴様が許可を出すなら生徒会ぐるみで採用したい所だ」
「え゛っ待って!? それは待って!? それは流石に一旦発表して様子見てからにしたいよ!?」
「妙な所で怖気付くな……まあ、無理強いはしない。もっと完成度を高めてからでも構わないしな」
「さらっと採用することを前提にしてやがる……」
イザークが一旦楽譜を机に置いたので、アーサーはすかさずそれを手に取る。
「ん? 何だ?」
「……」
音の運び方、使用する楽器、コード進行、曲の構成。
全てをくまなく観察し、自分の物にしようとする。
「アーサー! まさか!」
「……」
「オマエも曲作りてーのか!」
「んぐっ!?」
図星を突かれて変な声が出てしまう。
「……そ、そうだ。オレも、曲を作りたいって……色んな演奏に触れて、自然とそう思った」
「うんうん……!!」
「でも、まだベース齧って一年も経ってないのに、傲慢かなって……」
「音楽に時間も傲慢も関係ねー!!!」
アーサーの背中を喜ばしそうに叩くイザーク。
「ぐっ、おおっ!?」
「はあっ!! いいかアーサー、曲は作りたいと思ったそん時に作れ!! つーわけで今から作ろうぜ!!」
「こ、細かい所は教えてくれよ!?」
「モッチーのロッンーさあ!!」
サイリが素早くベッドルームに向かい、白紙の楽譜を持って戻ってくる。
「先ずは主要な所を決めちまおう! テーマとか曲名とか候補あるか!」
「え、え~……」
「ないならボク決めちゃうぞ~!?」
「待て、今言葉にしようとしてるんだ、待ってくれ」
「イザーク、勢い、凄い」
「ここまでビビってるアーサーは初めて見たかもなぁ……けけっ」
「俺達が関与する余地がないな」
「……オレって騎士王じゃないか」
「知ってる☆」
「まあ騎士王伝説に纏わる曲って、大体が竪琴だったり、バイオリンだったり、ピアノに乗せられて、ゆったりと奏でられるじゃないか」
「確かになあ。古典音楽の代表格な所あるよな」
「そう、まさにそうだ。だけど実際のオレは、そんなゆったりと語られるような存在じゃない。わかるよな?」
「十二分に!」
「だから……本当の騎士王を聴いてほしい、見てほしいんだ。他でもないオレ自身が、新しい騎士王伝説を奏でるんだ」
「……素晴らしいッ!!!」
「古典音楽みたいにバイオリンとかピアノとか入れてさ! でもその中にもギターとか入れて、こう、新しいんだけど伝統に沿ってるみたいな! そんな感じだ!!!」
「最ッ高のコンセプトダァ~~~~~ッ!!!」
別に真っ白な紙を取り出し、迸るままにペンを走らせる。イメージできる単語やコンセプトが軒並み連なっている。
「となるとジャンルはポップスが主体で、そこにシックネスを加えていく感じがいいな!」
「シックネスってなんだ!?」
「病気って意味の古代語! そこから転じて、まるで重い病気に罹ったように難しい言葉を並べたり、意味深な言い回しをしたり、壮麗で荘厳な雰囲気である曲をそう呼んでる! 魔法音楽の痺れる感じを保ちながらも古典音楽の壮大さも取り入れた、要はいいとこどりってわけだ!」
「素晴らしいな、オレの好みだ!」
「んだろぉー!?」
こうして突発的な作曲会議は、日付が変わるギリギリまで続けられたのであった。
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