ナイトメア・アーサー

Honest and bravely knight,Unleash from the night
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第六百四話 作曲日和

公開日時: 2021年5月8日(土) 18:27
文字数:3,878

 こうして新しい楽器を購入した一同。イザーク的には楽器は安いのでもよくて、どちらかというと亜空間移送の方を重視していたらしい。


 何故かと言うとこれができるから――






「どってんかいてん気分はハイテンショーーーーーン!!!!!」


「イエーイ!!! ヒューヒュー!!! ワーオ!!!」



 未だに雪が降り続く中、今日は久々の晴れ模様。青空に向かって何かもうめちゃくちゃに歌ったりギター弾いたりするギネヴィア。


 隣では他のメンバーもノリノリで楽器のチューニングを行っている。



「フッフゥー!! ボク新品の楽器じゃねーけどヒャッホーイ!!」

「あ~……あー。うむ、いい感じだ」

「スティック軽い、叩いても軽い、ペダルも軽い、最高!」

「悪くないな……」



 ここは普段やってきている秘密の島。訓練場と森に挟まれた場所が何もない原っぱだった為、そこを迅雷閃渦ライトニングボルテックスで使おうということに。


 現在は晴れなので勢いでセッションしているが、後で屋根でも取り付けようぜーという話にはなっている。しかし演奏が楽しいのでそれも忘れてしまいそうだ。







「おはよ~。何かうるさいなーって思ったら先に来てたんだね」

「うおおおお! 掃除掃除だぜー!」

「ちょっと、道具持っていきなさいよ!!」

「……せめて防音魔法は掛けろよくそが」

「よっと……」

「カタリナ、ほんと荷物が大変そう……」



 他の面々も島に到着し、今日も今日とて何にもない日曜日が始まる。






「案山子がぐちょぐちょだぜー! 早く天候結界を張ってくれー!」

「それは掃除終わってからでしょうが。さっさとやりなさい」

「うおおおおおやるぜー!」

「サラ、結界、見たい。おれ、参考にする」



 ルシュドがひょっこり顔を出し、サラはちょっぴり驚く。



「向こうの方はいいわけ?」

「おれは休憩。皆、まだやってる」

「そう……ちょっと! 泥を撒き散らさないようにしてよ!!」

「うっかりしてたぜ!! クラリスー!!」

「最初から呼んでくれよ、全く!」



 狼二人が訓練場の片付けをしている傍ら、サラは結界の準備をする。



「天候結界は、魔法陣を展開した周辺において、雨や雪の影響を防ぐ結界。張った所に付着するとすーって溶けて実質的に屋根の役割を果たしてくれるわ」

「便利。でも知ってる、何か悪いこと、ある」

「察しがいいわねドラゴンさん。これ、凄く労力使うからなるべく使用は避けたいのよね――」



 そう言って準備を終えたサラは、どこかしら疲れたような表情をしていた。



「うおおーい! 片付け終わったぜー! 結界を掛けてほしいぜー!」

「ああ待ちなさい、今確認するから。地面がぬかるんでいては魔法陣を張っても直ぐに消えちゃうのよ!」

「おれ、手伝う?」

「うーんそうね、余裕があるなら手伝ってほしいわ。微妙に濡れてる所を乾かして頂戴」

「わかった!」








 森ではエリスが雪に濡れた木々を眺めながら、のんびり片付けを行っている。当然騎士も引き連れて。



「るんるんらーん……てへっ」

「……」

「あ、この花……春になったら咲くのかな。楽しみだな……」

「……」

「花壇も雪でぼろぼろになっちゃった……後でサラに……いや、もうすぐ五年生なんだし自分でやってみるか……」

「……」

「趣味はガーデニングを少々……やだぁ、かわいいんじゃない?」

「何やってもお前は可愛いよ」



 それだけ言って顔を背けるアーサー。エリスが振り向く頃にはもう完全に目が合わない。



「……さっきからずっと無言でついてきてるけど。黙っちゃうほど何かあったの?」

「特にないぞ」

「そっか……」



 まあそんなもんかと、興味なさげに首を傾げるエリス。



「可愛いな……」

「ん?」

「何でもない」

「……いや聞こえてるから。可愛いって言ったでしょ」

「言った……うん」

「もー、デートしてる時はいっぱい言ってきたじゃん」



 立ち上がってぎゅーと抱き着く。



「今は他に聞かれてるかもしれないだろ……」

「そんなの今更だよ~」

「……」




「恋の歌……」




「……ん?」

「この気持ちを……歌にすればいいのか……!!」

「……」

「うおおおおおお! まだ前の作曲も終わってないのにもう次の作曲がしたーい!!」




<イザークゥゥゥーーーー!!!





「……行ってしまわれた」



 抱き着いているエリスを振りほどいて行ってしまわれた。



「むぅー、エリスちゃんの勘が誘っても戻らないぞと言っている。しょうがないからリーシャを連れ回そう」








 大盛況なのはティンタジェルの洞。机を取り囲んで、紙を取り出し作業を行っている。



「そーれっ」

「~」

「ぎゃはは、面白え。こっちつついたらどうなんだろ」

「~!」

「ハンス、好き勝手叩くのは止めてくれないか……」



 シャドウが変身しているのは机にも置ける小さいピアノ。指示を受ければオクターブも上げ下げできるし、メトロノームらしくテンポも刻める。一音ずつ鳴らしながら、ヴィクトールは作曲を行っていた。



「オマエそれめっちゃ便利だなあ!!」

「貴様等はギターにベースにあるだろう……キーボードはここに入れられないから、シャドウの力を借りているだけだ」



 イザークはアーサーと向かい合いながら、ギターとベースを鳴らして曲を作っている最中だ。



「おいアーサー、今別の楽譜に曲書こうとしてたろ!」

「何のことかな!」

「とぼけんじゃねーぞバカがぁー!! 何々、『とにかく恋の歌を歌ってみたい』!!」

「お前、首伸ばしてきた挙句、そこまで読み上げるんじゃねえよ!! 言っとくけど仮称だからな!! 変更するからな!!」

「いーじゃんいーじゃん仮称だってぇー!! アイデアが浮かんでくるのは絶好調である証拠ぉー! 何なら同時並行でもいいぞ!! 作曲ってのは自由だ!!」

「そ……そうか!! じゃあ!! どんな感じで恋の歌を作ればいいかな!!」

「んなもんオマエが考えろや!! オマエの歌なんだから!!」



 等々男子特有の騒ぎようで作曲を行う二人を、恨めしそうに見つめるギネヴィア。



「……イザーク君次わたしにもやってよぉ~。わたしと一緒に作曲してよぉ~」

「オマエもギターあるんだからそれで頑張れや」

「ヴィクトール君! シャドウ貸して!」

「頷くと思っているのか貴様」

「んがー!! 曲作りたいのに楽器が弾けないんじゃー!!」



 頭をわしゃわしゃ抱えるギネヴィア。彼女の楽器の腕前はというと、二ヶ月ぐらい前からストラムと共にギターの練習を始め、現在楽譜を見ながら超ゆっくりで弾ける程度。練習すれば伸びると言われてはいるが、勿論当分先のこと。



「なら歌詞から先に作っちまえば? そのあとで合うメロディ作ればいい」

「そんなことしていいのか!」

「いいんだよ作曲なんてのは自由なんだから。別にそうやって作曲してるヤツもいるぞ~?」

「よし!! じゃあそうする!!」



 鞄から紙とペンを引っ張り出すギネヴィア。


 勢いが余りすぎて、隣で作業していたカタリナに若干命中。



「あっごめんね!? 痛かったかな!?」

「ん、大丈夫。ギネヴィアこそ平気?」

「もっちーのろっんーだぜー!」

「よかった……あっ!」

「へぇ~カタリナこんなの描いてたんだな!」



 ギネヴィアに気を取られている間に、カタリナが加筆していた紙を手に取るアーサー。


 そこに描かれていたのは服。正面だけではなく横や背中から見た構図、更に素材の指定やスリーサイズの想定まできちんと描かれてあった。



「……まあ、それならいいや。今服を作ってるんだ」

「そうかそうか、完成したらまた見せてくれよ。エリスやリーシャあたりは着せてって言うかもしれないな」

「うーん……二人がお気に召すかは、微妙。そこにも書いてあるけど暗い色が主体だから」

「それでもあの二人なら喜んで着るさ。他でもない友達の製作なんだから」



 その言葉に目を真ん丸にしている所、噂の二人がやってきた。





「何かわたし達の名前呼ばれた気がする~」

「……服作ってるんだ」

「うん。イザークが頑張ってるから、あたしも頑張りたいって思って」

「そっかそっか~」



 そのイザークはというと、アーサーが作ってきた主旋律に合わせて、黙々とコードを合わせ伴奏を書き連ねていっている。



「どうしたイザーク、静かだな」

「ん? 集中してただけだけど」

「確かにこういう場面において、率先して相手を弄るのは貴様である印象だ」

「今回はアーサーの方が早かっただけだよ」

「そういうもんか?」



 その間にエリスとリーシャは、歌詞を考えてうんうん唸っているギネヴィアの所に向かう。





「ギネヴィアらしい曲! だっけ」

「そうそうそうそう~~~。ねえエリスちゃん、リーシャちゃんも一緒に考えてよ!」

「考えるよ。でも、うーん」

「ギネヴィアって、ただ明るいってわけじゃないよね。何ていうか……底抜けの明るさ、みたいな」

「そうか!! わたしの明るさは底がないのか!! で!!」

「どうやって言葉にするかだよね~」



 ギネヴィアが出してきた紙に、適当に単語を書いて連想ゲーム。




 それもある程度散発的に出てきた所で、口を開いたのはハンス。



「……まあ、作詞のヒントになるかどうかは知らないけどさ」

「ん? 何々ハンス君?」

「ギネヴィア……きみは『名も無き騎士の唄』って知っているかい」

「……」



 ヴィクトールを無言で凝視し出すギネヴィア。圧の強さに彼は溜息を零す。



「ティンタジェルの街で活躍した、ある騎士をについて書かれた散文……っ」

「何だヴィクトール君。わたしの顔を見て爆笑するとは」

「……そういうことか? ハンス、貴様そういうことを言いたいのか……!?」



 ハンスがにっと笑い、ヴィクトールがもうどうにでもなれと言わんばかりに机を叩く姿に、益々置いてけぼりの一同。





「……音痴で白痴で絵も微妙。でも全身全霊で人々に尽くす騎士……もしかしなくても、これはきみのことについて書かれるんじゃないかな?」

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