こうして新しい楽器を購入した一同。イザーク的には楽器は安いのでもよくて、どちらかというと亜空間移送の方を重視していたらしい。
何故かと言うとこれができるから――
「どってんかいてん気分はハイテンショーーーーーン!!!!!」
「イエーイ!!! ヒューヒュー!!! ワーオ!!!」
未だに雪が降り続く中、今日は久々の晴れ模様。青空に向かって何かもうめちゃくちゃに歌ったりギター弾いたりするギネヴィア。
隣では他のメンバーもノリノリで楽器のチューニングを行っている。
「フッフゥー!! ボク新品の楽器じゃねーけどヒャッホーイ!!」
「あ~……あー。うむ、いい感じだ」
「スティック軽い、叩いても軽い、ペダルも軽い、最高!」
「悪くないな……」
ここは普段やってきている秘密の島。訓練場と森に挟まれた場所が何もない原っぱだった為、そこを迅雷閃渦で使おうということに。
現在は晴れなので勢いでセッションしているが、後で屋根でも取り付けようぜーという話にはなっている。しかし演奏が楽しいのでそれも忘れてしまいそうだ。
「おはよ~。何かうるさいなーって思ったら先に来てたんだね」
「うおおおお! 掃除掃除だぜー!」
「ちょっと、道具持っていきなさいよ!!」
「……せめて防音魔法は掛けろよくそが」
「よっと……」
「カタリナ、ほんと荷物が大変そう……」
他の面々も島に到着し、今日も今日とて何にもない日曜日が始まる。
「案山子がぐちょぐちょだぜー! 早く天候結界を張ってくれー!」
「それは掃除終わってからでしょうが。さっさとやりなさい」
「うおおおおおやるぜー!」
「サラ、結界、見たい。おれ、参考にする」
ルシュドがひょっこり顔を出し、サラはちょっぴり驚く。
「向こうの方はいいわけ?」
「おれは休憩。皆、まだやってる」
「そう……ちょっと! 泥を撒き散らさないようにしてよ!!」
「うっかりしてたぜ!! クラリスー!!」
「最初から呼んでくれよ、全く!」
狼二人が訓練場の片付けをしている傍ら、サラは結界の準備をする。
「天候結界は、魔法陣を展開した周辺において、雨や雪の影響を防ぐ結界。張った所に付着するとすーって溶けて実質的に屋根の役割を果たしてくれるわ」
「便利。でも知ってる、何か悪いこと、ある」
「察しがいいわねドラゴンさん。これ、凄く労力使うからなるべく使用は避けたいのよね――」
そう言って準備を終えたサラは、どこかしら疲れたような表情をしていた。
「うおおーい! 片付け終わったぜー! 結界を掛けてほしいぜー!」
「ああ待ちなさい、今確認するから。地面がぬかるんでいては魔法陣を張っても直ぐに消えちゃうのよ!」
「おれ、手伝う?」
「うーんそうね、余裕があるなら手伝ってほしいわ。微妙に濡れてる所を乾かして頂戴」
「わかった!」
森ではエリスが雪に濡れた木々を眺めながら、のんびり片付けを行っている。当然騎士も引き連れて。
「るんるんらーん……てへっ」
「……」
「あ、この花……春になったら咲くのかな。楽しみだな……」
「……」
「花壇も雪でぼろぼろになっちゃった……後でサラに……いや、もうすぐ五年生なんだし自分でやってみるか……」
「……」
「趣味はガーデニングを少々……やだぁ、かわいいんじゃない?」
「何やってもお前は可愛いよ」
それだけ言って顔を背けるアーサー。エリスが振り向く頃にはもう完全に目が合わない。
「……さっきからずっと無言でついてきてるけど。黙っちゃうほど何かあったの?」
「特にないぞ」
「そっか……」
まあそんなもんかと、興味なさげに首を傾げるエリス。
「可愛いな……」
「ん?」
「何でもない」
「……いや聞こえてるから。可愛いって言ったでしょ」
「言った……うん」
「もー、デートしてる時はいっぱい言ってきたじゃん」
立ち上がってぎゅーと抱き着く。
「今は他に聞かれてるかもしれないだろ……」
「そんなの今更だよ~」
「……」
「恋の歌……」
「……ん?」
「この気持ちを……歌にすればいいのか……!!」
「……」
「うおおおおおお! まだ前の作曲も終わってないのにもう次の作曲がしたーい!!」
<イザークゥゥゥーーーー!!!
「……行ってしまわれた」
抱き着いているエリスを振りほどいて行ってしまわれた。
「むぅー、エリスちゃんの勘が誘っても戻らないぞと言っている。しょうがないからリーシャを連れ回そう」
大盛況なのはティンタジェルの洞。机を取り囲んで、紙を取り出し作業を行っている。
「そーれっ」
「~」
「ぎゃはは、面白え。こっちつついたらどうなんだろ」
「~!」
「ハンス、好き勝手叩くのは止めてくれないか……」
シャドウが変身しているのは机にも置ける小さいピアノ。指示を受ければオクターブも上げ下げできるし、メトロノームらしくテンポも刻める。一音ずつ鳴らしながら、ヴィクトールは作曲を行っていた。
「オマエそれめっちゃ便利だなあ!!」
「貴様等はギターにベースにあるだろう……キーボードはここに入れられないから、シャドウの力を借りているだけだ」
イザークはアーサーと向かい合いながら、ギターとベースを鳴らして曲を作っている最中だ。
「おいアーサー、今別の楽譜に曲書こうとしてたろ!」
「何のことかな!」
「とぼけんじゃねーぞバカがぁー!! 何々、『とにかく恋の歌を歌ってみたい』!!」
「お前、首伸ばしてきた挙句、そこまで読み上げるんじゃねえよ!! 言っとくけど仮称だからな!! 変更するからな!!」
「いーじゃんいーじゃん仮称だってぇー!! アイデアが浮かんでくるのは絶好調である証拠ぉー! 何なら同時並行でもいいぞ!! 作曲ってのは自由だ!!」
「そ……そうか!! じゃあ!! どんな感じで恋の歌を作ればいいかな!!」
「んなもんオマエが考えろや!! オマエの歌なんだから!!」
等々男子特有の騒ぎようで作曲を行う二人を、恨めしそうに見つめるギネヴィア。
「……イザーク君次わたしにもやってよぉ~。わたしと一緒に作曲してよぉ~」
「オマエもギターあるんだからそれで頑張れや」
「ヴィクトール君! シャドウ貸して!」
「頷くと思っているのか貴様」
「んがー!! 曲作りたいのに楽器が弾けないんじゃー!!」
頭をわしゃわしゃ抱えるギネヴィア。彼女の楽器の腕前はというと、二ヶ月ぐらい前からストラムと共にギターの練習を始め、現在楽譜を見ながら超ゆっくりで弾ける程度。練習すれば伸びると言われてはいるが、勿論当分先のこと。
「なら歌詞から先に作っちまえば? そのあとで合うメロディ作ればいい」
「そんなことしていいのか!」
「いいんだよ作曲なんてのは自由なんだから。別にそうやって作曲してるヤツもいるぞ~?」
「よし!! じゃあそうする!!」
鞄から紙とペンを引っ張り出すギネヴィア。
勢いが余りすぎて、隣で作業していたカタリナに若干命中。
「あっごめんね!? 痛かったかな!?」
「ん、大丈夫。ギネヴィアこそ平気?」
「もっちーのろっんーだぜー!」
「よかった……あっ!」
「へぇ~カタリナこんなの描いてたんだな!」
ギネヴィアに気を取られている間に、カタリナが加筆していた紙を手に取るアーサー。
そこに描かれていたのは服。正面だけではなく横や背中から見た構図、更に素材の指定やスリーサイズの想定まできちんと描かれてあった。
「……まあ、それならいいや。今服を作ってるんだ」
「そうかそうか、完成したらまた見せてくれよ。エリスやリーシャあたりは着せてって言うかもしれないな」
「うーん……二人がお気に召すかは、微妙。そこにも書いてあるけど暗い色が主体だから」
「それでもあの二人なら喜んで着るさ。他でもない友達の製作なんだから」
その言葉に目を真ん丸にしている所、噂の二人がやってきた。
「何かわたし達の名前呼ばれた気がする~」
「……服作ってるんだ」
「うん。イザークが頑張ってるから、あたしも頑張りたいって思って」
「そっかそっか~」
そのイザークはというと、アーサーが作ってきた主旋律に合わせて、黙々とコードを合わせ伴奏を書き連ねていっている。
「どうしたイザーク、静かだな」
「ん? 集中してただけだけど」
「確かにこういう場面において、率先して相手を弄るのは貴様である印象だ」
「今回はアーサーの方が早かっただけだよ」
「そういうもんか?」
その間にエリスとリーシャは、歌詞を考えてうんうん唸っているギネヴィアの所に向かう。
「ギネヴィアらしい曲! だっけ」
「そうそうそうそう~~~。ねえエリスちゃん、リーシャちゃんも一緒に考えてよ!」
「考えるよ。でも、うーん」
「ギネヴィアって、ただ明るいってわけじゃないよね。何ていうか……底抜けの明るさ、みたいな」
「そうか!! わたしの明るさは底がないのか!! で!!」
「どうやって言葉にするかだよね~」
ギネヴィアが出してきた紙に、適当に単語を書いて連想ゲーム。
それもある程度散発的に出てきた所で、口を開いたのはハンス。
「……まあ、作詞のヒントになるかどうかは知らないけどさ」
「ん? 何々ハンス君?」
「ギネヴィア……きみは『名も無き騎士の唄』って知っているかい」
「……」
ヴィクトールを無言で凝視し出すギネヴィア。圧の強さに彼は溜息を零す。
「ティンタジェルの街で活躍した、ある騎士をについて書かれた散文……っ」
「何だヴィクトール君。わたしの顔を見て爆笑するとは」
「……そういうことか? ハンス、貴様そういうことを言いたいのか……!?」
ハンスがにっと笑い、ヴィクトールがもうどうにでもなれと言わんばかりに机を叩く姿に、益々置いてけぼりの一同。
「……音痴で白痴で絵も微妙。でも全身全霊で人々に尽くす騎士……もしかしなくても、これはきみのことについて書かれるんじゃないかな?」
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