そうして互いに様々な情報を得て、最初に集った島に帰還。
情報共有をしながら適当に調達した食料をつまむ。
「ショゴンとウィンシュマーズ……」
「どうやら巨人だけではないようだ……オレ達が敵と見做さないといけない対象は、イングレンスのあちこちにいる」
「三騎士勢力とかその筆頭だもんねえ」
「でも巨人が蘇れば、どこの勢力も致命的な打撃を受けることは間違いないわ」
「じゃあやっぱり警戒すべきは巨人?」
「かもな~……」
第二階層で売っていたスイートポテトチップスを、十袋ぐらい買ってきてぼりぼり貪る。
(……慟哭はやがて懐疑に、懐疑はやがて憤怒に)
(憤怒は身を突き動かし、そして顕現――したんだ、実際に)
(あの声は、本当に何なんだ――)
(……あの声の眷属? スルトが? どういうことだ……?)
「どうしたアーサー?」
「あ……いや、何でも。暖かいものだからぽけーとしていた」
「そうか……」
木の幹に穴を空けて、魔法で補強した簡素な窓から、雪がちらつくのが見える。
「本格的に降る前でよかったな……」
「よくねえよ帰りが大変だろうが」
「島の掃除もしたいと思ったけど、これから降るなら無理そうねえ」
「そうだぜ! 雪が降ったせいで訓練区画がぐちゃぐちゃだぜ!」
「大変だ!」
「この寒さで修繕作業とか私は無理~~~!!!」
「ていうか午前復元魔法やったろ……今日はもう休もう」
「「……ぐぬぅ」」
ぺっこりへこんだクラリアとルシュド、立ち上がったかと思いきや二階に昇って横になる。
「そこ快適ー?」
「快適だぜー! 足を伸ばして横になれるのはやっぱりいいぜー!」
「次来た時私も横になろうかなー」
「……」
そろそろ小腹を満たす菓子も尽きてきた。包装の袋だけになって物寂しくなったそれを見つめる。
「……なあ」
「……秩序が覆されるって、どういうことだと思う?」
アーサーの問いに皆が沈黙する。
「……うーん、火属性が水属性になるとか?」
「強い者は強く、弱い者が弱く?」
「美味しい物が不味くなるぜー!」
「全世界が魔法音楽を絶賛する!!」
「人間、異種族、なる?」
「貴様等は単純な思考をしているな……」
「悪かったなぁ!!」
「……」
アーサーは間を置いて、その間に改めて考えを纏めていく。
「例の『ヒント』サマによると、巨人の額には魔石が埋め込まれているのよね?」
「そうそう、それが八つ集まったら秩序を覆せるよーんって話」
「……そして、スルトの額には穴が空いていたのよね?」
「ああ……」
ここまで聞いて他の面々も気付く。
「……誰かがスルトの魔石を引っこ抜いた?」
「え、じゃあ……魔石を集めようとしているのか? それこそ、秩序を覆す為に?」
「……可能性は高いと思っている。三騎士勢力なら間違いなくそうして、自分達に都合の良い世界を作るつもりだろう」
「うーん、秩序ねえ……今の秩序で、連中に対して不都合な何か……」
「秩序ってことは今のイングレンスを成り立たせているってことだろ。それは……」
「……ナイトメア?」
ここにいる全員の考えが、一致していた。
己自身に向かって問い掛けられた騎士達は、揃って出てきたり主君の方を向いたり。
「……ナイトメアに何か行い、存在を書き換えようということでございますか?」
「――」
「そのようにする利点……あるわ。目下の課題としてあったよ」
「ならくのもの、なのです……」
「ああ、確か連中はナイトメアでしか攻撃できないんだったな……」
「ということはカムランか? 巨人を復活させてどうにかしようとしているのは」
「……別にカムランじゃなくても、キャメロットも聖教会もナイトメアをどうにかしたいと思っているんじゃないかしら」
「単純に戦力二倍だもんな……連中からすれば、戦いにくいことこの上ないだろう」
「一つの勢力じゃなくって、三つの勢力がそれぞれ違う理由で目論んでいるのかもね」
段々と洞の中が寒くなってくる。火魔法の効果が薄れてきたのだ。
「そーれっ」
「サラ先生ありがと~」
「どうってことはないわ……この先はきっと戦うことになるんでしょうね。三騎士勢力、巨人、ウィンシュマーズにその他聖杯を狙う者共……」
「勉学に益々身が入るものだ」
「ぼくもなー、そろそろ真面目に訓練してやっかー」
「アタシも負けねえぜ! 世界で一番斧を振り回す、最強の戦士になってやるぜ!」
「ワタシも沢山回復魔法を覚えなくっちゃ……ふふ」
意気込みを話す四人に、ふっと変な笑みが零れるアーサー。
「……怖くないのか? 相手はどう考えても、自分達の実力を遥かに上回っているのに」
「上回っているとはいえ、前線で戦うのは騎士王達だ。俺は後方に回って、死なない位置から貴様等を導くのに務める。とはいえ怖いと言ったら嘘になるから、その分だけ勉学に励む」
「流石生徒会役員は違うな。ハンスはどうだ?」
「寛雅たる女神の血族のエルフ舐めるんじゃねえぞ」
「今はその言葉、頼もしい限りだな。クラリア、お前も前線で戦うことになると思うが?」
「肩を並べられるように訓練するのみだ! だからアーサー、今度鍛えてくれよな!」
「その意気だ、オレもできることはしよう。サラはどんな心境だ?」
「ワタシもヴィクトールと大体同じ意見。後方支援は性に合ってるから、任せなさいよ」
「ははは! オレ達には最高峰の支援部隊がついている。この先負けることは有り得ないな!」
愛犬カヴァスを膝の上に乗せ、爽やかに笑うアーサー。
「……今のめっちゃ騎士王って感じがしたぞ!!」
「王様、導く、部下、鼓舞する。うーむいい感じいい感じ」
「かっこよかったよアーサー。あとでエリスに言うね」
「頼むから脚色してくれよ?」
「数秒目を離した隙にこーの色ボケ男だよ。というかさあ、支援部隊の中にボクも入ってんだから忘れんなよ!?」
「その割にはギターで敵殴ってないか……」
「ギターぶっ壊すのはパフォーマンスの一種としてあるからアリ!」
「あたしも糸の使い方をもっと訓練しなくっちゃ。ね、セバスン」
「糸は様々な用途に使えますからな。これから一緒に考えていきましょうぞ」
「ジャバウォック、火吹く、頑張る!」
「おめーもだぞ相棒! ははっ!」
「だーっ!! 負っけらんねー!! ボクらも音を極めてやるぞサイリー!!」
「~!」
それぞれが有り得ない敵に対して、思わぬ意気込みを見せる中で――
「……皆、凄いね」
「なのです」
リーシャとスノウは、何も言わず隅で縮こまっていた。
「むっふっふ~……余は満足、満足じゃ……」
「妾の菓子要求ゲージは消費し切ったのじゃ……」
「「お~っほっほっほ!」」
もう完全に貴族ごっこをしながら、百合の塔までの道を進むエリスとギネヴィア。アザーリアはドレスを返すべくフェリス商会の支部に向かった為、二人だけの帰り道である。
「お土産もいっぱいゲットして!」
「お菓子もたらふく食べて!」
「作戦も立てた!」
「あとはもっと詳細に……おおっ!?」
丁度前方に集団を発見。
袋をばっさばっさ鳴らしながら追い掛け、そして追い付いた。
「アーサー! おはわん!」
「ぐはあっ!」
不意打ち抱き着きが炸裂。その場にいた全員が驚き振り向く。
「ぎゅむ~! ぎゅむぎゅむ~!」
「エ、エリス……お前も今から戻る所だったのか」
「そうなの~! お土産たっぷり貰ったから、それで時間掛かっちゃった!」
「お土産って、その、如何にも高級そうな袋を指して言ってる?」
「その通りじゃ~!」
にへにへ~と笑いながら持ち上げて見せるギネヴィア。
「プランタージ家の財力に物を言わせて買ってきたんだ~。食べよう!」
「それは楽しみだ……エリス、まだ離してはくれないのか」
「今日はアーサー不足してるから……あとちょっとだけ……」
そんなエリスにギネヴィアが耳打ち。
(この我々が所持する手駒、騎士王と茶髪をどう使うかもカギよね!!)
(そうだね!! アデル君に結構近いから、極めて自然に気持ちを訊けるもんね!! 斥候だよ斥候!!)
「ギネヴィア? オレのことを何だって?」
「あと茶髪ってボクのことでよろしいか?」
「何でもございませーん!!」
その隙に待ち切れず、袋を勝手に漁るクラリアにルシュド。
「おおー! 『猫の舌』だぜー! サクサクで美味いぜー!」
「ラスク! 苺ジャムサンドイッチ! パンだ! 美味い!」
「こっちは何だ! ……水か!?」
「水は水でも化粧水だよ~。高級品でお肌ぴちぴち!」
「値段が高いと言っても肌に合うわけじゃないのだけどねぇ」
「揚げ足取らないでよサラー!! ちょっとそれはどいひーだと思わないかリーシャ!!」
「……リーシャ?」
エリスと趣味興味が大体似ている彼女が、美味しそうなお菓子にも高い化粧水にも食いつかない。
会話の輪から外れ、雪がちらちらと降る空を見上げていた。
「もしもーし? 話聞いてるー?」
「……んあ」
「すっごく高くて効能もやばい化粧水買ってきたからさー、一緒に使お!」
「語彙が貧相な時点で猫に白金貨だわ」
「そもそもそれもプランタージ家が融通を利かせて購入できた物だろうに、さも自分の力で購入できたような物言いは……」
「どりゃー!!」
「ぐはっ!?」
ヴィクトールの脛を蹴り飛ばし、執拗にぐりぐり拳をねじ込むエリス。
「サラが揚げ足取るのはいいけど、ヴィクトールに取られるのはやだー!!」
「女の子の化粧事情何も知らない癖にー!!」
「きっ、貴様等っ……!!」
「そうだそうだーっと!」
「ハンス!! 便乗してくるな貴様は!!」
「ギャハハハハ!!」
「ほらほら、お前達」
「アーサー、この事態を静めてくれるのか?」
「道の真ん中で邪魔だから、ぐりぐりするなら脇にはけろ」
「「「はーい!!」」」
「貴様……!!」
ヴィクトールが非常に痛そうにしている姿に、腹を抱えて笑う一同。
だがリーシャだけは、それに混ざらずぼんやりと空を見上げていた。
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