ナイトメア・アーサー

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第二百九十四話 魔術戦に向けて

公開日時: 2020年12月12日(土) 23:33
更新日時: 2022年5月24日(火) 23:55
文字数:4,430

「よし……貴様等全員集ったか」

「ばーっちりだよ!」

「別に関係ない奴もいるけどね」

「いーじゃんかよー別にさー! バラすなんて真似しねーから!」






 そんな八人は、現在例の島に集って、丸机を囲んでプリントを展開している。






「おーんアーサーアイツサボりか??? 放課後集合って言ったんだけどな???」

「エリスのお見舞い行ってから来るってさー。ついでに私達の分のお菓子も買ってくれるって!」

「やっだあああああああああ!!! アーサー様マジ神!!!」

「ルシュドいいか、こういうのを手のひら返しって言うんだぞ」

「……?」




 ルシュドがきょとんとしている所で、ヴィクトールの準備が完了した。






「さて……先ずは武術戦と比較して、変更のない所から確認しよう」

「戦闘エリアは二十キロの正三角形!」

「それを四つに分けて、真ん中がティンタジェル! 残り三つにランダム配属!」

「フラッグライトとトーチライトを駆使する陣取り合戦!」

「上出来だ」




 満足気に頷きながらヴィクトールが手を伸ばしたのは、一枚のプリント。




「次に変更点の確認をするぞ。授業でやったか?」

「やったかもしんなーい」

「おぼえてなーい」

「ギミック、って?」

「ルシュドが口を挟んでくれたお陰で命拾いしたな」




 武術戦でも使った戦場の地図に、ペンで線を引いていく。




「定義するなら、試合開始以前に第三者によって設置された魔術的仕掛け。端的に言うと、魔法を使わせるための工夫といった所だ。上手く使えば楽に状況を覆せるが、その逆も起こり得る」

「魔術戦って、武術戦に比べて頭を使うってお話あったけど……」

「まさにその通りだ。八属性の領域が各地に展開され、それを活かせるように配置を行わなければならない」




 そうして四つに分かれた正三角形が、線を引かれ、更にそれぞれ四つに分けれられていた。




「めっちゃ細かい」

「大体の目安として、この三角形に一つずつ属性が展開される。真ん中は司令本部があるから存在しないが」

「一歩外に出れば焼け野原?」

「そこから別の場所行けば氷の平原?」

「大体その通りだ」

「「んへぇ……」」




 ヴィクトールは程良くリアクションをするリーシャとイザークを見ながら頷いて、




 ハンスの腹に一発。




「いだあ!?」

「貴様は魔術戦への参加なんだぞ。話を聞く体勢に入れ」

「そんなの――」


「おれ、聞く。ハンス、聞く、一緒」

「あ……はいはい……」

「言っとくけど逃げようもんならワタシが拘束してあげるわよ」

「くそがよ!!」








「これさー、領域魔法の展開って解釈でいいの?」

「その通りだ。先生方や宮廷魔術師の方が魔力を注いでいるから、学生が束になっても打ち消しは原則不可能」

「原則ってことは例外もあるということで?」

「それについて考えている時間があるなら基本規定を頭に叩き込め」

「へぇい」




「属性領域の影響の程は?」

「普通程度。少々肌に刺激を感じ、その属性の魔法を行使すれば威力が強化される。フラッグライトの光と違って、体調に影響を及ぼすことは早々ない」

「へえ……」


「そして三十分毎に、属性がランダムで変更されるぞ」

「焼け野原から水辺に?」

「可能性としてはあるだろう」

「んんー……」






 ここでヴィクトールは八属性のシンボルマークを描き、二つずつを線にして繋ぐ。






「重要になってくるのが、属性の相殺関係についてだ。これは先月の授業で行った気がするが?」

「……」

「……」


「カタリナ」

「あっ、はい! えー……火と水、土と風、雷と氷、光と闇は、お互いの属性を相殺する傾向があります!」

「よろしい」




 胸ポケットから飴玉を出し、カタリナに放り投げる。




「まあ適当に合成魔法を使えば体感で理解できるがな。合成魔法でこれらの属性を混ぜようとすると、普段より負荷がかかる」

「そういや、前にやったひやひやしびれびれ領域も、何かめっちゃやりにくい感じしたなあ」

「雷と氷は混ぜにくいからな。だが混ぜにくいだけであって、混ぜられないことはない。寧ろ上手く混ぜられれば少ない魔力で高い威力の魔法を行使できる」


「じゃあそれを目指して訓練すればいいのか!?」

「四年生以上の魔法学で訓練開始、七年生でやっと行える程度の技術だぞ。今の段階で取得しようと思うな。現段階で重要なのは、互いの属性を相殺するという点だ。これが先程のギミックとどう連動してくるか、少し頭を捻ってみろ」




 うーんとわかりやすい声を上げるイザークとリーシャ。




 そんな二人よりも先に、手を挙げた人物が。




「土魔法使ってる所にいきなり風属性の領域になっちまったら、急に魔法が弱くなってアタシ困るぜ」

「そうだな、それで?」

「だから属性が変わる前に魔法を止めておくこと。属性に対応した魔法を使えるようにすること。それが重要だぜ!」

「及第点だ。よくぞ俺が言いたいことを簡潔に纏めてくれた」


「「……!?」」

「コイツ魔法についても詳しいのよ」




 ふんすと鼻を鳴らすサラ、それに気付いて誇らしげなクラリア。




 その通りだと満足気に言うヴィクトール。呆気に取られるその他。






「生徒を動かす側としては、最低でも二属性以上はまともに行使できるようにしてもらいたい。単属性だけだとどこに動かすべきか悩むからな」

「一点特化は駄目?」

「ハンス程度なら許可されるだろう」


「……私、厳しいかなあ」

「まあ先輩方の話を聞く限り、基本は二属性以上がマナーになっているようだ。一点特化ばかり集まって来られても生徒会に負担がかかるだけだ、当然だな」

「それとアナタ風以外に訓練する気ないでしょ」

「そうだけど? 誇り高き純血のエルフが風魔法以外を操るとでも?」

「嫌な所で寛雅たる女神ルミナスるのウザいわね」

「はぁ!?」


「ハンス、ハンス」




 激昂するハンスを、ルシュドが引っ張って落ち着かせる。




「おれ、火属性」

「そうだね」

「おれ、教える、できる」

「……」


「ハンス、訓練、一緒、おれ、武術戦。だから、おれ、ハンス、訓練、一緒。したい」

「……」






 考え込むハンスをよそに解説が再開される。






「でもボク、魔法も得意ってわけじゃないからなあ……」

「何言ってんの?」

「え、マジトーンで何だよリーシャ」

「貴方、武術戦出たから魔術戦は出ないでしょ?」

「……」






「そうだったあああああああーーーーーーー!!!!」






 そこに――






「……何故イザークの叫びが聞こえてきたんだ」

「おお!! お菓子大臣!! 待ってた!!」

「変な渾名を付けるな」




 アーサーは持っていた紙袋をの中央に置く。




「……貴様」

「何だ」

「ここにプリント広げていて……」

「っと……」


「少し滲んだわね」

「まーまーいいじゃん! それより甘い物食おうぜ! 何買ってきた!? 買ってきたんですかー!?」

「バターカップを少々だ」






       \箱を取り出しぱっかーん/






「……緑?」

「グリーンティーとやらを使っているそうだ。エリスが薦めてくれてな」

「エリス……そうか、エリスが」

「エリス、元気? おれ、気になる」

「ああ、今日も張り切って畑の手入れをしてたよ」




 そう言うアーサーはほんのりと土臭い。




「……手伝ってきたのね?」

「もう慣れたけどな」

「何で心的外傷の治療に土を……?」

「そういうもんよ、自然に触れると心が落ち着く。さあさっさと食うわよ」








 ~そしてそれぞれ食った~








「ごっそさんした!!」

「いいさいいさ。で、今はどこまで話したんだ」

「ハンスとルシュドが魔法の訓練を取り付けた所まで」

「既成事実を作るな!!」


「……」

「……やるよ!? いやまあやるけどね!?」


「具体的に何をするんだ?」

「ハンスの風魔法とルシュドの火魔法が合わさって最強になる!」

「……」

「流石のアーサーもこれは理解できないようだ」




     ~かくかくしかじか~




「成程……今後は剣の訓練に加えて、魔術の訓練も……」

「貴様は武術戦に出場したから、魔術戦には出んぞ」

「……」




「……やっぱりさ!! 参加する意識を持って話聞くのって大事じゃん!?」

「屈辱ではあるが認めよう」

「屈辱って何ー!?」






 バターカップのまろやかさを口に残しながら、ヴィクトールはペンを走らせる。






「もう一個属性を鍛えるとしたら、私の場合だと雷以外がいいんだよね?」

「そうなるな。氷属性は風属性と組み合わせるのが流行しているようだ」

「だったらハンスに教えを乞うかー」

「……」


「で、私はルシュドに氷魔法を教える。うーん、完璧!」

「どこがだ!?」


「綺麗に三角になってるでしょー!? ていうか、後で魔法教えてって約束したじゃん!」

「あ゛……」




 ハンスも思い出してしまった。よってリーシャはにんまりと笑う。




「いつの間にそんな関係に……まあいいけどね」

「あたし闇属性だけど、何にしようかなあ」

「光と闇は様々な属性に合わせられるぞ。選択肢が広い分迷いやすいとも言うがな」

「うーん……」

「色々組み合わせてみて、模索するといい。何なら石柱の前でも行える」

「じゃあ……あたし、今からそれやってもいいかな」




 愛用の杖を撫でながら言う。




「そうだな……本当に行使できる魔法を増やしてほしい、としか言えん。細かい戦術は生徒会の方で考えるからな。貴様等はそれに対応できる程度の力を身に着ければいい」

「ん、わかった。じゃあ行ってくるね」

「オレが付き合おう。他人の視点もあった方が考察し易いだろう」

「ありがとう」






 アーサーとカタリナはそれぞれ洞を出ていく。それから、リーシャが口を開いた。






「あ、そうだそうだ」

「どうした」

「研鑽大会あるじゃん。あれって魔術バージョンもあるって聞いたんだけど?」

「あるぞ。武術研鑽大会は日曜日だが、魔術研鑽大会は土曜日だ」

「うっわ練習日程とかと被ってる……」

「研鑽大会の申請を出せば公認欠席になるぞ」

「おっし! 私、腕試しも兼ねてそれに出たいな!」




 その場にいる全員の眉が吊り上がる。




「へえ……上昇志向ね」

「そりゃああんなの体験したらねえ」

「……」


「そうじゃなくても、学生は強くなるのが仕事! 今週末のに申請出してくるわ!」

「だったら皆で応援に行くか~!」

「勝手にしてろ」

「おれ、行く。ハンス、来る。いい?」

「……わーったよ」

「エリスも誘えればいいんだけどなあ……」




 彼女の名前を出せば、全員が悩まし気に溜息をつく。






「……本来ならば、彼奴も出場するはずだった」

「あんだけ気合入った応援したんだから、めっちゃ訓練したいだろうなあ……恩返しとか何とか言って、気合入れてくるに違いない」

「……仕方ないよ。もしものことなんて話したって!」




 ぱんっ、ぱんっと、リーシャが自分の頬を叩く音がした。




「ねえ皆、今回も絶対に勝とう。ここにいないエリスの分まで頑張ろう!」






「……まあ、そうだねえ」

「うん!」

「アタシも応援頑張るぜー!」

「ワタシの本領発揮してやるわ」

「……武術戦とは違った意味で負けられないな」




 全員の言葉を確認した後、




 リーシャは森の外に向かって叫ぶ。






「ねえアーサー! カタリナー!!」


「次の魔術戦、エリスのためにも絶対勝とうねー!!」






 すると返事が返ってくる。






「――うん!! あたし、頑張るね――!!」

「オレも何だって手伝うよ――!!」








 ぞわぞわと吹き立つ風は、武者震いにも似ていて。

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