オレが百合してどーすんの!? ――百合好き中年悪魔、転生しロリ魔王となる

ガチ百合ギャラクシー 大百合厨バトル
光陽亭 暁ユウ
光陽亭 暁ユウ

花三輪 ヒミツミテマス

公開日時: 2020年11月24日(火) 17:05
更新日時: 2021年1月12日(火) 09:47
文字数:3,386


 花三輪 ヒミツミテマス


「……あ、食事前にトイレ行きたいなオレ」

「そうなの? トイレはここを右に行った所よ」

「そっか、ありがとう委員長さん」


 食堂へ向かう途中、ふと尿意を感じて朝子は立ち止まる。

 どうやらトイレは食堂の近くに存在するらしい。

 朝子は急ぎ足でそちらへ向かうが……しかし、ふとトイレの前でその足を止めた。

 ……この世界のトイレは男女別に分かれている。

 病院や公園のトイレは共用かつ一つの個室だったのだが、学校はそうはいかない。

 それを見て疑問に思ってしまったのだ。


「……オレ、どっちに入れば良いんだ……? オレは肉体的に女の子だけど……中身は男なんだよな……」


 正直、女子トイレというものがどうなっているのかはよく知らないのだが……。

 しかし、中に入ってもし女性の下半身など見てしまおうものなら……なんというか、いたたまれない。

 そんな状況には絶対になりたくないのだ。

 かといって男のトイレに入るのもまた……それはそれで問題があるだろう。

 肉体的には女なのだ、そんな人物が入ってこようものなら……中に人がいれば大混乱だ。


「ふうん……やっぱそういうことか」

「ひっ!?」

「そんな驚くなよ、漏らすぞ?」


 後ろから峰楼に声をかけられ、朝子は想わず飛び跳ねる。

 正直、峰楼の言うとおり若干漏らしかけてしまった……。

 だが、なんとか堪えて歯を食いしばる。

 そんな彼女へと峰楼は笑みを向けた。

 不敵で意味深……腹に一物も二物も有りそうな顔だ。


「ま……俺はあんたの味方だよ、だからアドバイスをしてあげる」

「アドバイス……?」

「そこの大きいトイレ、多目的トイレの中は個室でさ……しかも男女両方使えるんだよ、そこを使いな」


 ウインクを行い、歩いて行く峰楼。

 その背中に朝子は思わず手を伸ばす。

 そして彼を引き留めた。


「な、なあ……助言は嬉しいけど、お前……」

「分かってる、誰にも言わないって……俺も似た悩みを持ってるからさ、それじゃまた後で」


 軽く言うと、峰楼はそのまま歩き去って行く。

 そうではなく、なんで自分の事情を察することができたのか。

 もしかすると峰楼も自分と同じように男の魂を宿した女なのか……。

 そう考えたところで、尿意が限界に達したため朝子は多目的トイレに突撃する。

 そして、ズボンを下ろすと息を吐きながら排尿を行った。


「ああ……スッキリする……」


 神魔といえど、人間のイメージが元である以上排尿は行う。

 悪魔アスセナエルだった頃の朝子は、それはもう……立派なモノがついていた、山羊故に人間離れしたモノが。

 その頃は特に気にしたことも無かったが、見下ろした際にかつて慣れ親しんだモノが無いというのはなんだか寂しく思える。

 去勢された動物はこんな気分なのだろうか……などと考えつつ、朝子は手を洗って息を吐いた。

 排尿を行うだけでこの苦労……。

 今後、体が女の子になってしまったことで苦労することは増えていくのだろうか。

 そう考えると中々に気が重いが、いつまでもうじうじしてはいられないだろう。


「よし……頑張ろう」


 誓いを立て、朝子はトイレの外に出る。

 そして食堂へゆっくりと向かった。

 どうやら峰楼達はもう並んでいるらしい。

 朝子も引換券を片手に並ぶと、壁に掛けられた今日のメニューを閲覧する。

 今日のメニューはラーメンライス、カレーライス、シチューセットの選択制だ。

 道中話していたラーメンライス以外はよく分からないので、ここはラーメンで良いだろう。


「ラーメンライス一つ」

「はいよ、ラーメンの選択はどうする?」

「えっと……チャーシュー麺で」


 峰楼に勧められたメニューを頼みつつ、朝子は息を吐く。

 道のメニューを食べるというのはいつだって冒険だ。

 病院や麗蘭家で食べたことがあるメニューがあればいいのだが……。

 そう考えながら、ラーメンライスを受け取り峰楼達を探す。

 すると……テーブルから手を振る春乃が目に入った。


(顔は同じ、なんだよなあ……)


 使命感と決意、他者を殺す覚悟……それに満ちた表情で剣を振るっていた勇者。

 それと同じ顔をしている春乃……。

 だが表情は彼女と全然違う、穏やかで朗らかな顔つきだ。


(やっぱり、他人の空似なのかなあ……)


 考えながらテーブルへトレーを置く朝子。

 そんな彼女に峰楼が割り箸を渡す。

 それを受け取りながら、朝子は両手に力を込めた。

 割り箸自体は病院で扱っているので使い方が分かる。

 問題は……上手く折れるかだ。


「……ふんっ!」

「おっ、見事なΓ字型」

「うぐっ……!」


 どうやら力のいれ具合を間違ってしまったらしい。

 悔しさを感じながら朝子はラーメンへ箸を向ける……。

 だが、上手く麺が掴めないようだ。


「ぐ、ぐぬぬ……!」


 朝食べた鶏肉のような的が大きいものは上手く掴めるようになってきた。

 だが、こういった細いもの……しかも湿っているタイプは難しいようだ。

 半ばキレながら、朝子は顔を突っ込み直接食べ始める。


「おいおい……犬食いはやめなって、行儀悪いぞ」

「だ、だって……」

「そっか、六道さんは記憶が無いんだものね、じゃあ上手い食べ方を教えてあげるわ、箸はそうやって握るんじゃなくて……」

「う、うん……こう……?」


 春乃に教えられながら食事をする朝子。

 そんな彼女を見ながら峰楼は目を細める。

 仲が良くなったようで何より、とでも思っているのだろうか?

 仲が良くなったかと言われるとまだ微妙だが、確かに距離は少し縮まったかもしれない。

 朝子の中では、少し春乃への警戒心が薄れていた。

 ……だからこそなのだろうか。

 つい、朝子は気を抜いてしまったのだ。


 ……時間は少し流れて、夕方。

 一日の授業を終えた朝子は机に倒れ込む。

 その隣で、峰楼はかんらかんらと笑った。


「お疲れさん、ほんとに記憶無いんだな、でも数学や国語、それに理科のうち植物や自然現象に関してはしっかりできてる……それでいて社会や歴史はてんでだめ……なるほどね、エピソード記憶だけないわけだ……」

「……よく分からないけど、納得してくれたなら何よりだよ……」


 脱力しながら息を吐く朝子。

 ……しかし、いつまでも脱力してはいられないだろう。

 この後、自分の力が現状何分持つのか部下達と確認する約束をしているのだ。

 重い腰を上げて立ち上がると、朝子は伸びをした。


「この後どうする? 良ければ買い物でもいかないか?」

「あー……オレ用事、また今度行くよ」

「そっか、じゃあまたな」


 手を振り、二人は別れる。

 だが……峰楼はじっと朝子の後ろ姿を見つめていた。

 そして……彼もまた立ち上がる。

 鞄を背負うと、帰宅するのかゆっくりと歩き出すのだった。



「……さて、ここなら良いよな」


 諸星学園は校庭の隅に部室棟がある。

 その後ろに回ると、朝子は通信装置にアクセスしてネビュラ号へ通信を飛ばした。

 トラクタービームを展開するよう指示したのだ。


「さて……力の確認だな……倒れないくらいに頑張るとしよう」


 ネビュラ号には優秀な技術班がいる。

 その作り上げたダミーを用い、力の持続時間について確認をするのだ。

 ここまで凄まじい技術を作れるのだから、自分のイマジネーションも大したもの……。

 そう思わずにはいられない。


「ベリアード様、お帰りなさいませ!」

「ああ、ただいま……ん? ローザ、顔が赤いけど」

「……え、ええと……いえ、なんでもございません……!」


 まさか、あなたの薔薇妄想を書いていたものを読まれました、などとは言えないだろう。

 そのため言い出せないローザに対し、朝子は「ううん……女の子を好くように作ったからなあ、でもオレは百合の間に挟まりたくないんだよなあ」と思い悩む。

 どうやら……二人の間にはどうしようもないすれ違いがあるらしい。

 果たして、それが合致する日が来るのかはまだ分からない。

 それはさておき、今は確認を行おう。

 そう考えながら二人は歩いて行く……。

 そうして彼らが去った後、ネビュラ号内の何もない場所に、一つの影が現れた。


「おいおい……こいつは……マジかよ?」


 現れた人物……峰楼は周りを確認しながら、口笛を吹く。

 未知なる存在に心躍っているのか、はたまた戸惑いながらも虚勢を張っているのか……。

 どちらにせよ、峰楼はどうやら何かしらの方法でここに侵入したらしい。

 今日だけで……朝子は峰楼によって二つも秘密を知られてしまった。

 迂闊……しかしその迂闊さを朝子はまだ気付いていない。

 そんな彼女の気持ちはさておいて、峰楼は心を落ち着けると再度姿を消し、中を歩き出すのだった。

 次回予告


 薔薇を好む者、百合を好む者。

 趣味嗜好は千差万別。

 色んな趣味が誰にでも有る。

 この世界は言うなれば性癖の宝庫なのだ。


 次回 オレが百合してどーすんの 花四輪 許容可能な性癖のかたまり

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