オレが百合してどーすんの!? ――百合好き中年悪魔、転生しロリ魔王となる

ガチ百合ギャラクシー 大百合厨バトル
光陽亭 暁ユウ
光陽亭 暁ユウ

花一輪 可能性は無限大(メビウス)だ 後編

公開日時: 2020年11月10日(火) 09:31
更新日時: 2021年1月12日(火) 09:45
文字数:6,323

 時は2020年。

 世界はかつてない危機に瀕していた。

 黒き神を名乗る存在により遣わされる存在、神話獣……かつては空想の存在とされていた怪獣。

 そんな恐ろしい存在の脅威にさらされ、世界は一度壊滅的な状況を迎えた。

 だが、そんな中人々を救った存在……それが後に、赤と銀の戦士と呼ばれる異能者である。

 彼の戦士に連なる異能者達は彼のように高潔の志を抱き、いずれ平和が来ることを信じて戦い続けてきた。

 しかし、防衛軍も戦士達も数度の代替わりを経てなお……戦いは終わっていない。

 現在の主戦力である対巨獣防衛軍……通称GDFもまた、そんな防衛組織の一つだ。

 異能者の能力発揮における適性年齢は10代から20代までとされている。

 このGDF本部は件の適性年齢である者達が集められた、まさしく防衛の要。

 その司令室に入り、望海は声を張り上げた。


「状況は!」

「ハッ、春日井市地下に地震を起こす神話獣有り、透過システムによるとモグラのような怪物です、本部はこちらをコウゴウグモラと命名、現在対処部隊が向かっています!」


 オペレーターの女性、徳井の報告を聞きながら望海は司令の椅子に座る。

 そして自らの据え置き式情報端末を起動した。

 その画面には、お帰りなさい諸星零司令と書かれている。

 どうやらこの名前が彼女の本名……もしくはコードネームのようだ。


「ゼロ司令! 上空に謎の影が……!」

「何? 新たな神話獣か!? くっ、私が出られる体ならば……!」

「いえ、これは……空中戦艦? ステルス状態だったというの!? ええと、外壁に書かれている銘は……N、e、b……ネビュラ……? 防衛軍の登録には無い艦船です!」

「……何? 所属不明勢力だと!? ……対処部隊に停止指示、敵か味方か判断がつくまで待機! フィクショナルフィールドはまだか!?」

「現在形成中です、あと10分ほどで完了するかと!」


 あと10分、その報告にゼロ司令は「それでは遅いな……!」と歯噛みする。

 そんな中、彼女の不安を確実にするかのように、ネビュラ号から夜空を背にして人影が降下してきた。

 山羊の骨のような仮面を付けた人影……リス・アムールの首領ベリアードだ。

 どうやら、まずは中級悪魔の実力でどこまで通じるか試すために単騎で出たらしい。

 彼女をゼロ司令は知らないはずだが……見ていると妙に首筋がざわつくのを感じる。

 どこかで会ったことが有るような、そんな気がするのだ。

 一方、ベリアードは手に持った杖をかざすと精神を集中し始めた。


「敵の位置はそこか……いざとなればすぐ救援が来るようになっているとはいえ、単騎出撃だ……接近せず倒したい、なのでまずは地熱を高めてあぶり出す! 火の創造プロメテウス火炎波ファイアーウェイブ!」


 魔術とは、己が持つイマジネーションを如何に力として具現化するかの世界だ。

 故に、自分がこれからすること、どんな技を使うか……。

 そのイメージを高めるためにも、口に出すことは大事になる。

 そうすることでより明確に力を出せるのだ。


「……! 奴は何をした!?」

「杖から炎が出たようです! まるで魔法だ……そしてこれは、地面をあぶっている……?」

「そうか! 地熱をあげて奴をあぶり出す、その腹づもりか! フィールド展開前に勝手なことを!」


 机を殴り、歯ぎしりをするゼロ司令。

 その視線の先で、急上昇した地熱に耐えきれなくなった神話獣が地面から飛び出す姿がモニターに映る。

 暑さに耐えかね、周囲に被害を出しながら悶えているようだ。

 地響きと共に暴れる姿は、まさしく怪獣……。

 周囲の建造物がいくつも倒壊していく、圧倒的な力だ。

 そんな神話獣を見ながら、ベリアードは目論見通りと息を吐いた。

 距離を離して行動する理由は一つ、初手から相手に攻撃目標と認識されるのを防ぐためだ。

 まずは周囲にヘイトを集めさせ、その隙に攻撃をたたき込む……。

 その為に、ベリアードは意識を集中し始めた。


「次は凍らせ、動きを封じる! 氷の創造フレスベルグ浸食氷弾ヴィールスアイス!」


 複数の氷弾が杖から発され、神話獣へ向かっていく。

 数優先精度二の次の攻撃だ、それ故に数個当たらず地面や建物に当たるが……それも已む無し、攻撃最優先だ。

 当たった氷弾は体内を浸食し、内から凍り付かせていく……。

 後はもう一撃、何かたたき込むだけだ……。

 そう考えるが、次の瞬間突如ベリアードは動きを止めた。

 急に息が苦しくなってきたのだ。


「……! これは……?」

「ベリアード様、バイタルが不安定になっています!」

「なんだと……? もしや、元の力を使うのはこの肉体に負担を与えるとでもいうのか……!?」


 荒い息を吐き、握り拳を作るベリアード。

 その辺りも今度確かめなくてはならない……。

 そう考えながら、しかし倒すのだけはしっかりと行わなくてはと覚悟を固める。


「どうやら時間が少ないらしい! 一気に決めさせて貰う……」

「グオオオオォォッ!!!」


 ベリアードの覚悟を察したのか、体調不良により生じた隙を突くべく跳躍する神話獣。

 どうやら地震を起こしていたのは、足にある噴射口のような機関によるものらしい。

 巨体を空中に

 それによる突撃で神話獣はベリアードを一気に潰そうとするが……。

 ベリアードはバリアを発して持ちこたえる。

 サイズ差のかなり違う取っ組み合い……そんな状態になって飛んでいく二人。

 だがそんな中、神話獣の噴射機関が突如爆発する。

 ネビュラ号からのレーザーで攻撃されたのだ。

 目論見通りの隙に、ベリアードは笑みを浮かべながら精神を集中する。


「防壁のエネルギーを攻撃に転換する、これで終わりだ! 光の創造ルーグ光波一閃リーリウム光線!」


 つばぜり合いの状況で攻撃を防ぐため十字に組んでいた腕。

 そこから光線が発射され、神話獣が地面にぶつかって地震を起こす。

 だが光線は止まらない、そのまま神話獣ごと地面をぶち抜き……神話獣が破裂する。

 まるでナパームのような爆発をし、跡形も無く消え去る神話獣……。

 その衝撃で水道が破裂し、まるで祝砲のように水が吹き上がった。

 ベリアードは荒い息を吐きながらも、やりきったことに満足感を覚える。

 我が子らの力を借りることにはなったが、何とかこの世界でも戦えるらしい。

 安堵と共に帰投しようとするが……その時だ。


「この、ド下手くそ!」

「……!? な、なんだいきなり!」


 突如、地上から声がかけられる。

 どうやら様子を見ていたGDFの隊員から声が罵声を浴びせられたらしい。

 キョトンとするベリアードを、隊員の少女は睨み続ける。


「おい、未来野みらの! 迂闊に声をかけるな!」

「いいえ、もう我慢できませんよ! 周りの被害を鑑みず、フィールドを展開するより先に戦って……アンタは一体なんなんだ!」


 ミラノ、そう呼ばれた少女の問いに、ベリアードは戸惑う。

 問い自体というよりも……少女が戦いの場に出ていること、それに戸惑っているのだ。

 人間という大きな力があるわけでもない種族の子供が戦場に出て、異形なる存在と戦いその命を消耗される……。

 それでは前の世界と同じではないか。

 憤りを感じるがそれは後だ、今は説明に徹するとしよう。


「……我が名はベリアード……秘密結社リス・アムールの首領ベリアード、なにぶんこの世界には新参でな……戦い方に無作法があったなら申し訳ない」

「無作法も何も、アンタ周りが見えてないのか! 水道もビルも全部壊れてる! 生き残ってもライフラインに大ダメージが起きちゃ、後処理もその後の生活も大変になるんだぞ!」

「なるほど……ライフライン、か……しかしあれだけのサイズと戦えばダメージが出るのは当然では?」

「それを回避する方法は有る! フィクショナルフィールドという場を展開すれば、周囲へのダメージをなくせるんだ! なのに……このへったくそ!」

「なるほど……隔離空間ということか、それはすまない」


 素直に謝罪し、ベリアードは頭を下げる。

 その時、ベリアードの通信装置から声が聞こえてきた。

 どうやらローザが激怒しているらしい。


「あの下等生物めが! ベリアード様に物申すなどと……! 砲撃してやろうか!」

「い、いや、これはオレのせいだからな……甘んじて受け入れるよ、ゴホン……! それは申し訳ない、次からはそちらの展開を待つことにしよう! それでは!」

「あ、待てくそっ……! 逃げるな馬鹿!」


 罵声を尻目に、ベリアードはネビュラ号内に帰還する。

 そして……艦長席に座ると仮面を外し荒い息を吐いた。

 肉体に負担がかかる戦闘に疲れたというのもある。

 だが、怒られたことにどうも……元が中間管理職だけあって、若干萎縮しているのだ。

 とりあえず動揺は隠せたが、ネットワーク上で仲間との役割遊びロールプレイをよくしていたのが役に立っているのを強く感じる……。


「隔離空間ね……どうりであんなのが出る割りに、社会機能が麻痺してないわけだ……そういうの有るなら最初から言って欲しいよ」

「お疲れ様です、ベリアード様……インターネットでお調べになった情報には無かったのですか?」

「ぜんっぜん、秘匿癖も大概にしろって感じだ」


 ローブを脱ぎ、上下デニムに戻ればそこからはベリアードではなく六道朝子だ。

 静かに息を吐いて愚痴をこぼすと、体調も安定してきたのでゆっくり立ち上がる。

 望海が来るより早くシェルターに行かなくてはいけないだろう。

 信用しきれない相手なのだ、万一にも正体を勘付かれることがあってはならない。


「じゃ、オレはそろそろ戻るよ」

「はっ!」

「それじゃ、有事まではしっかり自由時間を楽しむんだよ」


 ローザ達にウインクをすると、朝子は地上へ戻っていく。

 中々に疲れる一日だったが、まだこんなのは序の口だろう。

 人間の戦士がいるというのならば、それとの連携も考えなくてはならない。

 それと、肉体への負担をどれだけの時間耐えられるかも検証が必要だ。

 緩和するための策があるのならば、それの確立も忘れてはいけないだろう。


(やることが多いな……)


 そう考えながら、朝子が閉じていた目を開く。

 すると……既に朝子はシェルターにいた。

 どうやら直接転移させてくれたらしい。

 これで一安心だな……そう考えながら腕を組み、壁にもたれかかる。

 その時、シェルターのゲートが開いた。

 そこから見えた外の惨状に、人々はざわめいている。


(そういえば……結局どうやって怪獣の存在を隠しているんだ? 謎だな……フィールドでライフラインに傷がつかないようにできるとはいえ、今回みたいにしばらく地下でじっとしているなんて生物ばかりじゃないだろう、すぐ市街地に現れて暴れる奴だっているはずだ、今回だって避難が遅れて怪獣を目にした者もいるだろう、なのに何故?)


 人々を眺めながら、朝子は考えこむ。

 実際、人々の中には「怪獣が出た」「誰かがそれと戦っていた、凍っているのはその名残だ」と言っている者がいる。

 なら何故秘匿ができるのか……?

 そう考えていると、入り口の先に立っていた人物が何かを掲げる。

 そして……光が迸った。


「!?」


 何なのだろう、そう考える朝子の前で人々はしばらく呆然とした後、再度動き出す。

 そして……何故か彼らは怪獣の話をしなくなった。

 地震が起きた、強い地震だった、ここまで地震の被害が出るなんて……そんな話ばかりだ。


(これは……記憶を操作されている……!? もしかして、それで情報が統制されているのか!?)


 戸惑う朝子、そこへ黒服の男が近付いてくる。

 出て行かない朝子を不審がっているのだろう。

 記憶操作が効いていないのかと訝しんでいるところも有るのかもしれない。

 そういえば何故効いていないのだろうか、と疑問に思うが……いまはそれどころではないだろう。


「君、どうかしたかな?」

「え……ああ、私は叔母の迎えを待っているんです」

「そうか、けどここはもう閉めてしまうから外で頼むよ」

「はあ……分かりました」


 内心、お役所仕事めがと悪態をつきながら退散する朝子。

 その後ろでシャッターが閉まる。

 彼女の心中には、この世界に対する確かな不快感が渦巻いていた。

 子供の命を兵として消費し、記憶操作で臭いものに蓋をする……。

 そうして平和を作るのがこの世界の在り方ならこの世界は間違っている、そう言い切って良い。

 朝子は静かに握り拳を作る。

 そして……迎えに来た望海に、内心で睨みを向けるのだった。

 彼女はこのシェルターに来なかった、ならばそれは彼女がこの世界の構造において、秘密を知る側にあたる人間ということ。

 不快感を隠しながら、朝子は笑顔で一礼するのだった。



 一方その頃……。

 家路を急ぐ人々を見ながら、一人の少女が腕を組んでいる。

 とても怒りに満ちた、不愉快そうな表情だ。


「また一人同胞が死に、世界は我らの苦しみと怨嗟の声を封殺する……」


 呟き、少女はあぐらをかく。

 そして……通りすがりのネズミが自分に近寄ってくるのを見ると……。

 そのネズミを、笑いながら撫でる。

 先ほどまでの不快感とは大違いの顔だ。


「お前達は良いね、不潔扱いされて駆除される身なのに、実際は汚れた人間と違って私を傷つけないんだもの」


 ネズミを抱き上げ、少女はのんびりと歩いて行く。

 その足がどこへ向かっているのか誰も分からない。

 彼女はまるで飛び上がるように地面を蹴ると、そのままネズミごと消えてしまった。



 数時間後……。

 家へ帰り、食事を終えた朝子は自分の部屋で横になっていた。

 この部屋は、かつて朝子が暮らしていた六道家の部屋を模しているらしい、当然感慨は湧かないのだが。

 むしろ、そうやって機嫌取りをする望海への不快感の方が強いかもしれない。

 何はともあれ、朝子は目を閉じながらゆっくり考えていた。


(……この世界は間違っている、でも……間違いは正していくことができるはず……オレは……それをしたい、女の子達が真に平和な世界の中で愛し合える……そんな時代を作るためにも、その為には臭いものに蓋をして目を逸らし、誰かを消耗品にする世界なんて駄目だ)


 そこまで考え、朝子は目を開き立ち上がって鏡を見つめた。

 精神を集中すると……ベリアードの装束が転移してきて、装着される。

 その姿を見ながら、朝子は静かに頷く。


(オレは……この世界を変える魔王になりたい、いや……なってみせる、今の在り方を全て壊し、在るべき平和を作り出す存在に)


 中級悪魔でしかなかった自分がこんな願いを持つなど、大それているかもしれない。

 だが……元神としての人類への愛が、彼にそうさせるのだ。

 悪魔になろうと消えなかった人類への愛、そして百合への愛が……愛おしき者達を守れと。

 それがちゃんとできるのかは、まだ分からない……。

 だが……。


(……可能性は無限大メビウスだ)


 そう信じ、朝子は静かに頷く。

 そしてベリアードの衣装を再転移させると、もう一度ベッドに入るのだった。

 何はともあれ明日からは忙しくなる……。

 今日はゆっくり寝て、英気を養うとしよう……。


 一方、望海もまた居間で静かに考え事をしていた。

 腕を組み、深刻な表情で書類を見ている。

 どうやら一部始終を見ていた件の兵士、未来野日々輝ミラノ・ヒビキが書いたベリアードに関する資料のようだ。


(突如現れ神話獣と戦った、謎の戦士……しかしその戦い方は荒く、ライフラインを傷つける……素直に謝罪をしており、改善の余地はあるはず……か)


 敵か味方か、判断しかねる存在に望海は目を細める。

 この人物がどう転ぶか、それはまだ分からない。

 恐ろしい人類の敵か、それとも頼れる人類の同胞か……。


(いずれにせよ、情報が足りないな……今の段階では、敵味方……どう転ぶか、可能性は無限大メビウスだ……)


 息を吐き、望海は居間の電気を消す。

 そして静かに息を吐くのだった。

 自分が戦える体ならばこうも心配せずに済むのだが。

 せめて、戦えないなりに一人でも多く生きられるようにしたい……と。

 その願いが届くかどうかはまだ分からない。

 しかし、願いが叶うよう努力することはできるだろう。

 そう考えながら望海は自室へ戻っていくのだった。

 次回予告


 与えられた平穏な学園生活。

 しかしこの学園なにか秘密を隠しているような……。

 心安まらないと感じるオレだが、そこに近寄る一人の……えっ、おと……おん……え?


 次回 オレが百合してどーすんの 花二輪 性別の曖昧な少女?


 結局の所どっちなの!?

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