「盗聴係さんだったんですか。そうとも知らずごめんなさい」
いや、私はうさぎ社長の素顔に迫るカメラマ–––「盗聴係雇うならあたしかとら兄にさせればいいのに。どうせあたし、クローゼットで隠密活動してたんだし。経費削減! ぞう姉さんにまた怒られますよ」
「あの子さっきわたしから諭吉3名を言葉巧みに騙し取りサンシャイン通りに消えたけど」
「社長詐欺に遭われたんですか! 大変! とら兄ー! 社長が詐欺に遭ったから犯人捕まえに行こう!」
ガチャッ! ギィ、バァーン!
「オッス! オラとら。犯人捕まえっぞ。だから減給しないでえええええ」
とら氏、玄関の扉をまたもやけたたましく開け再来。
「とら、なんかもういろいろうるさいから減給」
「あああああああ」
「最近ぞう、わたしから社長の座を奪おうとしてるんだよねー。はあ、お母さん育て方間違えたかしら」
うさぎがため息を吐く。
私はこれ幸いと質問を投げかけてみた。
Q.社長の悩みは?
「あーはいはい。あるある、たくさんあるー」
「俺もある! 社長、減給しないでえええええ」
考える人のポーズで固まるうさぎ。
たっぷり10秒後。
「やっぱり、もう少し顎尖らせたほうがかわいいかなー?」
「は?」
失敬。声が出てしまった。
「最近の流行はナチュラルだからー、涙袋とか唇とかヒアルロン酸でぱんぱんにしないで控えめに入れてるんだけどー。うーん、顎のねー、このライン。横から見ると貧相だよねー。Eラインを整えるためにはおでこと鼻先と顎先のバランスを–––」
SONYの最新型ビデオカメラの充電がもったいないため電源をオフ。
気を取り直して。
13:00
朝一番の来客、イノウエ氏が去った事務所。まだ残るぴりぴりとした空気がうさぎとイノウエ氏の激しい争いをものが–––「いえーい! 株式会社動物園のアイドル、ねこでーす。きゃぴっ」
「新規のお客さん、何時に来るんだっけー」
「14時です。ちょっと時間あるし、ランチ行きませんか?」
「わたしパス。まだ二日酔いが抜けないー。ねこたち行ってきなー」
「軽くでもいいから食べてください。そうだ! 南公園の前に美味しいパン屋さんがあるんだそうです。サンドイッチが絶品だとか。買ってきますね! とら兄行こ!」
「減給……減給……」
「行ってきまーす!」
ガチャン、ギィ、バン!
とらほどではないが、ねこも扉の開け閉めが騒がしい。
「うるさいでしょー、うち」
「私が社長だったら首を切る騒音の数々だな」
「手厳しいねー。コーヒー飲む?」
「頂こう」
シュガースティックが一袋添えられたコーヒーカップ。
「相変わらずだな」
「お褒めの言葉と受け取っていー?」
「どうだかな」
昭和の男子としてお恥ずかしい限りだが、私はブラックコーヒーが飲めない。しかも猫舌で、出されたてのホットドリンクは一口目に勇気を要する。
「召し上がれー」
促されるまま上唇だけでコーヒーを啜った。私の口内に設置された危険信号が青色を示す。甘いコーヒーはぬるめだった。
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