じーんせいらーくあーりゃ
くーもあーるさー
株式会社動物園社長・うさぎの着メロ。
「はいはーい、うさぎちゃんだよーん。え、金が足らん? わたしに指示された通りいぬを足止めるためイタリアンレストランで3時間粘ったら料金がかさんだ? それ、食べすぎじゃない? もー仕方ないなあー、ちょっと待っててー、すぐ届けるから」
どうやら経理兼事務兼うさぎから社長の座を奪おうとしている現代の明智光秀、ぞうからの着信らしい。
「宅配便さーん、これ届けてー」
私こそがなんでも屋に相応しい気がしてきた。雇ってもらおうかな。
「地図、LINEに送ったから。なるべく早くねー。よろしくー」
軋む腰を上げ、ぞうたちが待つイタリアンレストランへ向かった。
その道すがら。
緑色のビニール袋を3つ下げたとらと手ぶらのねこにすれ違う。
「あれ、盗撮係さんだ」
「やめて」
失敬。思わず声が出てしまった。しかし己を正当化するつもりはないが「盗撮係」って……。だったら「盗聴係」の方がまだまし……。
「減給……減給されるのに、パン買わされた……6千円分も……」
私のヒットポイントはゼロに近しいが、目の前でうわ言を繰り返す屍に折れかけていた昭和魂が奮い立つ。私は双子にインタビューを試みた。
Q.株式会社動物園社長・うさぎはどんな人物ですか?
まずはとら。
「減給……減給……」
屍のようだ。
続いてねこ。
「社長ですか? んー、一言で言うと掴みどころがないです。いつも眠そうでだるそう。でも、ほら変態さんもさっき聞いたと思いますけど、いざとなったら強い。口が。めちゃくちゃくるくる喋ってあっという間に相手を窮地に追い込むんだもん。人の感情をコントロールするのが得意なんでしょうね。びっくりしました。あ、やばいこれ録音されてるんだった。テイクツー! 社長ですか? とっても頼り甲斐があって優しい方です! はい、今の部分だけ使って前半はデータを消してください。消せない? なんで? そのSONYの最新型ビデオカメラを失いたいんですか?」
ザザザザザー
「やめろ! やめてくれ! どうか許して……! あああああ!!」
ザザザザザザザザザザー
ザザッ
暗転。
「社長ですか? とっても頼り甲斐があって優しい方です!」
ねこはとんでもない娘だ。
私はSONYの最新型ビデオカメラを両手に抱え走る。目指すはぞうといぬの元。
「財布さん遅いわよ」
突っ込む気力がない。
あれ、もしかして–––。
「飲んだのかって? いやねえ、違うわよ。このボトルは飾りよ。か、ざ、り。おしゃれなレストランだわ」
「ほんろぅに、おいちかったでちゅう」
「やだあ! いぬちゃんどうしちゃったの? 顔が真っ赤! きっとはじめての取材に緊張してるのね。大丈夫よ、リラックスしなさい」
「そうなんれすぅ、きんちょお、しちゃっれー、けっして、シャンパンを、ぞうしゃんとふたりでにぽん、あけたわけでは、ございましぇーん」
間違いなくシャンパンを2人で2本開けたのだろう。
私は酔っているぞうといぬならば、忖度ない話が聞けると目論み先程の質問をふたりに投げかける。
Q.株式会社動物園社長・うさぎはどんな人物ですか?
いぬに水を飲ませている間にぞう。
「どんなってあなた! 社長のパパなんでしょ? だったらわからない? いつも眠そうだわだるそうだわ働かないわパパ活ばっかりしてるわネイルが派手すぎてもはや凶器だわ–––ひどいものよ! なんであんな人が社長なのかしら。しんじられない。そうそう、まだあるの! 社長ったら毎朝私が叩き起こすまで起きないわ起きても白目剥いてるわ用意した朝食を太るからって食べないわパパ活に出かける以外は常にジャージだわ! それから–––」
「すいません、要約していただけますか?」
「くずよ!」
水を飲み終えたいぬ。
「しゃちょーはぁ、しゃちょおはねぇ、わたちにぃ、たいしぇつなことをおちえてくれまちたあ。だからぁ、わたちぃ、しゃちょおにじゅっと、ちゅいていくー!」
「あんなくずについていったら一巻の終わりよ!」
「……大切なこととは?」
「えへへー、きいてぇ、ふりんちょおさのときにぃ、うっ、おえっ、吐きそう」
かくして私は泥酔状態のいぬをタクシーに担ぎ込み帰宅させ、うさぎへの鬱憤を憤怒の表情で語り続けるぞうを宥め、今日で10歳は老けた己の体を引きずり株式会社動物園へ戻った。
今日の占い、射手座は最下位か?
読み終わったら、ポイントを付けましょう!