「なあ……宇宙人っていると思う?」
結局サボらずに来た高校の教室で僕は友人たちにこの質問を投げかける。
「いるんじゃね。遠い宇宙のどこかには」
1人の友人がそう答える。こういう話が割と好きなほうの僕の親友だ。
「知ってる?宇宙ってとんでもないぐらい広いし、地球に似た環境の惑星がある可能性は充分にあるらしい。つーか何かもう見つかってるとかいう話も聞いたような……」
僕の親友はスマホを取り出して検索を始めた。眼鏡を抑えながらにやにやと。
「いるとは思う」
「俺もいつかは見つかるんじゃないかと前から考えてるわ」
他の友人たちもこんなようなことを言った。口を揃えて。いると思うけど自分と干渉することは無い。そんな考えだった。
僕も昨日まではそうだった。そういえば黒いパソコンに存在するかも聞いたことがあった。だから宇宙のどこかに宇宙人はいる。けれど干渉してくることは無い。そう思っていた。
そして事実、宇宙人はいて……どこにいるのかが明らかになった。
それがたまたま家のとなりだったというだけだ……。
僕は授業が始まると言い聞かせるように心の中で唱えた。
お隣さんがうちの隣に住み始めたのは最近のことではない。今までずっと隣の家で過ごしてきた。距離で言ったら10メートルもない。にもかかわらず何年間も安全だったということはすぐに危険になることは無いと思う。
パソコンから教わったお隣さんが地球に来た目的も「地球を滅ぼす」とかではなく、「地球の管理」。僕自身、お隣さんから危険を感じたことは無い。むしろ、いつも優しい雰囲気を感じていたし子供扱いも両手を振ってくるのも嫌ではなかった。
だから、もう少し尾行を続けてみたかった。バレていたのだとしても。
気になって授業に集中できない。知らなければ何も変わらない日常があるだけで、行動しなければ変わることも無い。言い聞かせてみてもどうにもこうにも。しかも今日は日を跨いですぐに検索をした日だった。
僕はノートの右隅に自分が想像する宇宙人の絵を描いてみた。目が大きくて頭も大きくて、体は細い。お隣さんの本当の姿がこれだったとしても僕は……いや、やっぱり恐怖を感じる。
僕はまだお隣さんを危険ではないと思っているし、危険だと思うようになりたくない。けれど知ってしまった以上は、「お隣さんの本当の姿」と「お隣さんが実際危険なのかどうか」これくらいは検索せねばなるまい。
今日の夜はどちらをまず検索しようか。僕はそれを考えることと、夜になるまでそれを検索できないことにため息を吐いた――。
学校の授業が終わると僕は長い寄り道をした。行き先は決めず、なるべく歩いたことが無い道を歩いて。街の方をぶらりと。住んでいる街でも曲がったことが無い角を曲がるだけで知らない店がたくさんあった。
ついこの間まで無かったはずの新しい店も何個もある。僕はお金を使うことを躊躇せず、何の記念日やご褒美でもないのに食べたことのない物や欲しかったものを買ってみた。
家の近くまで帰る頃には太陽が色を変えていた。朝からずっといい天気だった今日の夕焼けはこれでもかというほどオレンジだった。
自分の家まで辿り着く直前、お隣さんの家の前を通り過ぎようとする――。
すると、そこで珍しく日に2回目のお隣さんとの遭遇があった。
「おかえり~」
朝と同じく玄関から出てきての遭遇。お隣さんは変わらず両手を振った。
「あ、こんばんは」
「今日は遅いね」
「ああ、ちょっと用事が」
「そう。僕もちょっと用事……あ、そうだ」
お隣さんが手を振るのをやめて近づいてくる。そして、朝から変わらぬスーツ姿のポケットに手を入れた。
一瞬だけ緊張を持った。けれど取り出したものは何でもないものだった。
「はいアメちゃんあげる」
「……。あ、どうも。ありがとうございます」
それが終わると……お隣さんは手を振りながら後ろ歩きで道を歩いて行った。僕が自分の家に入るまでずっと。こちらから見えなくなるまで手を振った……。
うん……やっぱり、悪い宇宙人だとは思えない――。
しかし、夜になって「お隣さん 本当の姿」と画像検索をした僕の目には思いを裏切るものが表示された。
人間よりも1周り大きい体に……小さな目とサメのような歯、緑色の体は筋骨隆々と言った感じで元のお隣さんとは似ても似つかない。
それなのに野蛮と言うような雰囲気は無くて、コードが通った科学的な服装からは1つ次元が上の高度な文明が感じられる。
画像は裸と服を着た姿の両方が見れたけど、裸の方の画像にはとんでもない長さの物まで……。
僕はそれをひとまず、見なかったことにしようと思った……。
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