姉に黒いマウスを取られた日の夜、僕は如何にしてそれを取り戻すのかを考えていた。
予期せぬ角度から飛んできた攻撃でかなり惜しい物を無くしてしまった。思い返すとマウスの存在を忘れてしまっていた過去の僕が本当に馬鹿に思えて、どうして姉があんな行動を取る前にもっと大事に隠しておかなかったのかと後悔してしまう。
だけど、黒いパソコン本体が見つかるよりはよっぽどマシだったとポジティブに考えて、今は取り返すことだけに集中して前を向く。
マウスを取り返しつつ本体の存在をこれ以上怪しまれないような、なるべく穏便に済ませられるような作戦を考えていた。
まず思いついた作戦その1は、姉がいないときに姉の部屋に忍び込んでマウスを盗む作戦。シンプルな作戦だ。
今日姉がしたように先に帰宅して部屋を漁ったり、休日に姉が出かける日を狙って部屋へそっと入ってマウスを探し、盗み出す。
ただこれだと……姉がマウスが無くなっていることに気づくとまずい。というか、姉の性格的にまず気づかないなんてことは無い。取ったその日のうちに気づいて尋問しに僕の所へ来るだろう。奴はそういう女だ。
代わりに似たマウスを置いておくとか気づくのを遅らせる案もあるけど、費用と労力がかかるのでとりあえず保留。
じゃあ作戦その2、嘘をつく――。
さっきはあのマウスが何か分からなかったけど、よくよく考えたら友達が前にパソコンを家に持ってきたときに忘れていったやつだ。そんな感じの嘘をついて返してもらう。
しかし、あの姉がぱっと思いつくような嘘で騙されるかは怪しい。僕も嘘が得意なほうじゃないし、ずっと一緒に過ごしてきた経験から僕の嘘を見抜く力もある。マウスのことは知らないととぼけ過ぎたし、よく考えてもこの状況からマウスを返してもらえるような嘘が思いつく気もしない。だからちょっとこの作戦も苦しい。
僕が嘘をついても、表情1つ変えずに嘘だと言ってくる姉の姿が目に浮かぶ。
あとは逆切れして無理やり強奪してやるかとか、何かしらの好物やお金を渡して姉を買収するとか、穏便や怪しまれないのとは程遠くて作戦とも呼べない案が色々と…………けれど、もっとも確かな作戦も1つ。
作戦その3、黒いパソコンでマウスの取り返し方を検索する。
これが1番強い。きっと数あるマウスの取り返し方から1番良いものを教えてくれるだろうから。
1日1回の検索を使ってしまうが致し方ない。自分の脳だけでは他にこれといった作戦が思い浮かばないし、もうそろそろ日を跨ぐ。
考えるのも面倒くさくなってきたので、僕は作戦3で行くことに決めた。
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