人から聞いた話 パート2

「ヒトコワ」
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

慰安旅行の話

公開日時: 2022年7月23日(土) 06:01
文字数:1,252


 1970年代。

 日本は高度成長期に入っていた……と思われます。

(作者が生まれてない時代なので、詳しくはわからないです)


 親父とお袋がまだ結婚したての頃。

 多分20代前半だと思われます。


 僕にも詳しい話は教えてくれなかったのですが。

 きっと父方のおじいちゃんの親戚の話。


 親父たちが生まれ育った街は、工場とか炭鉱とか港の仕事。

 いわゆる、ブルーカラーの人々で栄えていた街で、うちの親戚はみんなほぼ同じ系列会社で働いていました。


 おじいちゃんもそのうちの一人で、ほとんどが大きなグループの傘下にあった子会社ばかり。

 まあ血の気が荒い男たちでした。


 そして、親父からしたら、叔父にあたる人だと思うのですが。

 

 働いていた会社の慰安旅行によく参加していたそうです。

 その旅行先というのが、東か南あたりのアジア圏、某国だと聞きました。

 おじさんと会社仲間の人たちは、帰ってくると。

 いつもニヤニヤ笑って、同僚のおじいちゃん家にお土産を持ってくるらしいのですが。


 それを見た若かりし頃の親父は

「チッ!」

 と舌打ちをうって、その集団を睨むらしいのです。


 理解できなかった新妻のお袋が、

「どうして怒っているの?」

 と尋ねます。

「ありゃ、ただの旅行じゃない。一族の恥だ」

 なんて捨て台詞を吐いたりして。

「え? 慰安旅行でしょ? なにが恥ずかしいの?」

 親父はため息を吐き、お袋に説明をします。

「はぁ、お前は女だからわからないのだろうけど……ありゃあ、ただの慰安旅行。海外旅行じゃない。買いに行ったんだよ」

 察しの悪いお袋は首を傾げます。

「え? 買う?」

「わからん奴だな。女の子とそういうことをするために、比較的安い某国に集団で遊びにいったんだよ……」

「あっ、そういうことね」


 ですが、ここでお袋は疑問が残ります。

 確かにおじさんは、妻帯者ですが、

「まあ男ならそんな遊びもするのでは?」

 と思ったそうで。


 実際、僕の親父もきっと経験してるはずです。(多分、豊富)


「そんなに嫌うこと?」

「年齢だよ……日本とは違うだろ」

「あ……」

 ここでようやく理解したお袋でした。


 甘い石鹸の香りで、ホクホク顔で帰国した集団を見て、お袋は軽蔑したそうです。


 後に、僕はこの話を聞いて、よく理解できませんでした。

「その話、なにが悪いの?」

「遊んだりしてたお父さんでも、ドン引きするぐらいの年齢ってこと。わからない?」

 中学生ぐらいの時に教えてもらったので、僕は首を傾げていました。

「へ?」


 大人になった今ならなんとなくですが、想像できます。

 多分、当時の日本の感覚なら。

 中学を卒業したばかりの女性がいたとして、15歳、16歳ぐらいで成人感覚で扱われていたと思います。

 早い話、嫁いだり、集団で就職したり。


 ということは、日本国内でも16歳ぐらいの若者が、そういう街で働いていても不思議じゃない時代……な気がします。


 キャバクラやピンクの接待を楽しめた親父ですら、軽蔑する年。

 一体いくつなのでしょうか?

 その、おじさんという人の好みが、もし16歳よりも、もっともっと下の世代だったら……。


 僕はこれ以上の想像を……やめました。


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