恋愛チョコレート物語

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恋愛チョコレート物語

公開日時: 2020年9月4日(金) 07:00
文字数:708

小さな教会に、とある男が女神像の前で、祈りを捧げていた。

その男は、ぶつぶつと小声で言った。


「あの方は、死神になってしまいました。メル様に逆らう者は、どんな立場の人間でさえ、死刑になりました。最近では、あの方の一番の側近であったユーガ様も死刑になりました。ユーガ様は、死ぬ間際にこう言われました。メル様は、変わられてしまった、化け物になってしまった。でも、王として君臨するなら、化け物の方が良いのかも知れません――と。ですが、化け物になった原因は、私のせいかも――いや、私のせいなのです。私は娘の肉と血を出すようにと、メル様に命令されました。出さなければ殺すと言われましたが、咄嗟にとある思いつきが浮かびました。これならば私は、人肉を食べる罪に加担する者にはならないと思いました。私は、子牛の血と肉を使って、娘の血と肉だと偽ってメル様にお出ししました。メル様は、彼女を食べたと思っていますが、実際には子牛の血と肉なのです。しかし、彼女を食べたという思い込みが、メル様を化け物に変えました。あぁ、女神様――私の嘘を、罪を、お許しください――」


そんな男の祈りが天に捧げられているとも知らない、憐れな王は、彼の機嫌を損ねないようにと毎日献上されるチョコレートを食べていた。


王の体は骨と皮ばかりで、今にも倒れそうだったが、目は野生の狼のように鋭く、顔は傲慢さに満ち溢れていた。


顔立ちは美しかったが、その体は、他人の血と殺人の罪で汚れていた。


王は笑う。


これが王の強さなのだと、王は自分を信じて疑わなかった。


とある国のチョコレートの恋から始まった、王の結末。


傲慢な王になった小さな人間に、罰を与えることは、本物の神にしか出来ない。

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