溺愛されたい令嬢と騙されたい騎士

貧乏伯爵令嬢は、なんとかして「幸せの妖精」に会ってみたい!
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6.飴を舐める

公開日時: 2021年6月13日(日) 22:29
文字数:1,995


「お、お待たせしました」

「大丈夫、待っていないよ」


 今日も、ティードは朝の鍛錬をしていた。「よし、終わり」と言うと、リノリラの手をさっと握った。


「行くよ」


 有無を言わさず、ティードはリノリラを片手で抱えると、既に木の上から垂れているロープを使い、上に登ろうとする。


「あの、このロープは?」

「ああ、早く登れると思ってね。今朝、つけておいたよ」


 だから、俺の首をつかんでくれるかい、とリノリラの腕を、ティードの首元に回させた。身体が密着するが、素早く登るため、と覚悟を決めて抱き着いた。


「そのまま、くっついていて」


 耳元でささやかれると、その言葉で真っ赤になってしまう。高いところが怖い、と思う間もなく、するすると木の上に登ってしまった。そして、昨日と同じように腰掛ける。


「あの、また、つかまっていてもいいですか?」


 答えを聞く前に、ティードの腰に腕を回してしまう。下をみないようにしても、やはり高いところは、ちょっと怖い。


「もちろん。いつでも捕まってくれ」


 木の下でも、こうして腰に手を回して欲しいが、そんなことになったら、自分を止められそうにない。


 一息ついたところで、リノリラは魔力をこめて、精霊に話しかける。


**精霊さん、声を聞かせてください**

**おぅ、また男と一緒か。やるなぁ、ネエちゃん**


「ぅ、また男と一緒か、と聞かれました」

「何とも、下世話な精霊だな」


 口の悪さに、昨日は驚いたが、今日はそうした精霊なんだ、と思うことにした。


**幸せの妖精さんを呼びたいのですが、どうしたらいいのですか?**

**へっ、お前ら、本当にただのお友達か?お互い、婚約者がいるから、友達以上、恋人未満って、ところか?**



「ティード様、精霊さんが、私たちに婚約者がいるのか?と聞かれました。私はいませんが、ティード様にはいらっしゃいますか?恋人もいたら教えてください」


 自分で聞くと恥ずかしいが、今回は精霊が絡んでいる。ついでに聞いてしまおう。


「へっ?俺か?俺にもそんな存在はいない。恋人もいない。リノにも、恋人も婚約者もいないのか?」

「はい、いません」


 お互いの顔をみつめる。そして、お互い「ほっ」とした顔をしていた。


**精霊さん、私たち二人とも、婚約者も恋人もいません**

**ふーん、ま、いいや。条件な~、お前、ポケットにいいもの持っているな**


「あ、この小袋のことかしら」

 ポケットの中には、今朝シキズキからもらった飴玉が入っている小袋があった。


「それが、どうかしたのか?」

「ええと、これは今朝弟からもらった飴玉です。精霊さんが関心があるようなので、聞いてみます」


 本当は、ティード様にあげたかったのだけど、まずは精霊さんが優先だ。


**この飴玉ですか?これをどうするのですか?**

**それ、そこの男と舐めあって。それが条件**


 息が止まる。飴を舐めあう?舐めあうって、どういうこと?


「ティード様、あの…精霊さんが、この飴玉を、口を使って舐めあえ、と言われました。それが、条件だと」


「は?舐めあう?」


 さすがのティードも、驚きすぎて空いた口がふさがらない。リノリラは真っ赤だ。何の罰ゲームなのか、飴玉を舐めあうなんて。


「ティ、ティード様、あの」


 やっぱり、そこまでのことを頼むのは申し訳ない。妖精に会えるヒントが貰えるかもしれないが、条件が「飴を舐めあう」なんて。


「いいよ。やろう」


 ティードに迷いはなかった。むしろ、精霊がくれた好機とばかりに、やる気満々になる。


「では、まず俺が舌をつかって、飴を君の口の中に入れる。そして舐めたら、今度は君が舌を使って、飴を俺の口の中に入れる。これを3往復しよう。そうすれば、そのうち溶けて飴はなくなる」

 そういうと、ティードは飴をポイっと口の中に入れて「甘いな」といいつつ、舌の上に乗せた。口をあけて、と伝えるように親指で唇をなぞる。


 リノリラは、口を開けて飴を受け取る。ティードの舌が、ちょっと唇に触れる。コロン、と飴が入ってくる。


「ん、本当に甘い」


 味はいいが、次は自分の番だ。舌の上に飴玉を乗せて、その舌を出してティードの口に近づける。紺碧の目が、まっすぐにリノリラを見つめている。


「あっ」

 リノリラの舌の上にのっている飴を、ティードがちゅっと吸い付くように、取った。


「さ、君の番だよ」


 そう言うと、ティードが唇をリノリラの唇にあてて、直接飴を渡した。そして、そのままリノリラも、彼に飴を返す。二人は唇をあわせて、飴玉を渡し合っていた。気が付いたら、飴はもう消えていた。


「ん、リーノ。このまま」


 唇を離したティードは、リノリラを抱きしめていた。お互い、無言になる。精霊からの条件とはいえ、気が付いたらキスを交わしていた。その熱は、なかなか下がらない。


「ティード様、あの、精霊さんと話を」


「そうだな。そうだったな」


 名残惜しそうに、ティードは身体を離す。まずは、精霊の話を聞こう。条件は満たしたはずだ。


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