溺愛されたい令嬢と騙されたい騎士

貧乏伯爵令嬢は、なんとかして「幸せの妖精」に会ってみたい!
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17.夜会のドレス

公開日時: 2021年6月19日(土) 06:32
文字数:2,003


 夜会が近づいてくると、リノリラもその準備のために忙しくなってきた。なんといっても、夜会に行くのは昨年のシーズン以来のため、ほぼ1年ぶりだ。ドレスの型も、古くなっているが、かといって代わりの品を用意できるわけでもない。


 昨年着たものをリメークしようとしたところ、ソングフィールド卿からドレスが贈られてきた。ドレスだけでなく、装飾品や靴なども、一緒に届けられていた。そして、サイズ調整として、ドレスショップからも人が来て、サイズを測ることになった。


「まぁ、なんて素敵なお嬢様でしょう!こんなにも可憐な方なのでしたら、もっと意匠を凝らしたのですが!ソングフィールド様に、次のドレスは時間をいただけるよう、お願いしなくては!」


 忙しいであろう中、オーナー兼デザイナーであるマダム・コシノが来て、採寸と直しをすることになった。ドレスは、リノリラの銀色の髪が映えるよう、深紅であった。


「よかった、これでグレアム様の色のドレスでは、なんだか落ち着かなかったわ」


 ただ、装飾品であるネックレスには、瑪瑙が使われていた。それは、グレアムの瞳の色を思い出させるものだった。


「派手な色遣いだけど、仕方ないわね。私の趣味ではないけれど」


 と、ドレスの試着をしていると、マダム・コシノが悲鳴をあげた。


「まぁ、お嬢様。こんなところに、キスマークが残っていますわ。これでは、目立ってしまいますわね。全く、卿にも控えていただかなくては」


 といって、リノリラの首筋に残るキスマークをつけたのは、グレアムと勘違いをしていた。ドレスをオーダーしたのは彼なのだから、そうした間柄とみられても仕方がない。


「その、マダムはソングフィールド卿と、お知り合いなのですか?」


「あ、はい、そうですね。ご衣裳は私どもで注文されることが多いので、卿が小さな頃から、知っていますよ」

「そうですか」

「しかし、この痕はどうしたものかしら…、そうだわ。ネックレスを、チョーカーに変更しましょう。瑪瑙のペンダントトップを付け替えれば、大丈夫でしょう」


 そうして、太めの黒いベルトのチョーカーに変更された。グレアムの瞳の石だけのネックレスよりは、気持ちが落ち着く。


 本当は、蒼い色をまといたいのだけど。色合いとして、難しいわね。と、思っていると、マダムの持ってきた小物の中に、蒼色のガーターベルトを持っていた。


「マダム、この蒼色のもの、当日使えるかしら」

「あら、この蒼色ですわね、ええ、ドレスの下に隠れますから、大丈夫ですよ」


「でも、お嬢様は、本当にソングフィールド卿を射止めるとは、素晴らしいですわ」

「そんな、まだ、何も…」

「あらあら、卿はものすごく人気のある方ですから、本当に、今度の夜会では、卒倒するご令嬢が、何人も出ますわ!あの方がこうしてドレスを用意して、エスコートされるのは、初めてのことですよ!」


 グレアムは、リノリラが思っている以上に社交界では有名で、かつ人気があるらしい。そんな方にエスコートしてもらうこと自体、気が重くなる。


「今度の王宮の夜会と言えば、面白い話を聞きましたわ。どちらかの公爵家の、三男の方が社交界に復帰されるとか。これまで、理由があって三男であることを伏せていたようですわ。その方も、どうやら美男子のようですわ」


 糸と針を持って、ドレスのサイズをどんどんと調整していく。


「あら、お胸がなかなか…見かけ以上ですわねぇ。これはこれは。ギャップ萌えですわ…」


 リノリラは、ほっそりしているが、最近特に大きくなってきた胸が、気になっていた。


「あの、やっぱり、この胸の大きさは、おかしいのでしょうか。私、他の令嬢とあまり接点がないので、よくわからなくて」


「まぁ!なんて可愛らしい!大丈夫です。こんなに華奢な方なのに、これだけりっぱなお胸をされているのは、卿にとって、嬉しいことの他、何でもありませんことよ。最近は、この谷間をすこ~し強調するデザインが流行でございます。自信を持って、着てくださいね」


 確かに、これまで母や祖母のお古を着ることが多かったリノリラにしてみると、深紅のドレスや、胸元の谷間を出すようなデザインは、扇情的過ぎるように思えた。が、これが流行と言われるのであれば、仕方がない。


「はい、これで仮縫いはできましたので、またサイズを直した完成品を、お持ち致します。それまで、ドレスで顕になる箇所への、キスマークはご法度でございます」


 最後の一言で、リノリラも自分の顔が赤くなってしまうのがわかった。


「ありがとう、楽しみにしているわ」


 このドレスも、かなり高価なものであろう。これまで、注文したドレスといえば、デビューの時だけだ。今回、初めて着飾って夜会に行くことになる。


 リノリラにとって、それはほんの少し、楽しみでもあった。ティードに、着飾った自分を見せることができるのは、嬉しい。


ただ、自分の容姿がどれだけの注目を集めることになるか、まだわかっていなかった。



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