**精霊さん、条件の飴の舐めあいをしましたよ**
**おう、どうだった?キモチヨカッタか?**
「あ、あの。精霊さんが、気持ちよかったか?と聞いてきました」
「ああ、気持ちよかったよ。リノは?」
「はい、私も」
そう言い終わらないうちに、またティードはリノの唇にキスをした。
「ちょ、ちょっと。ビックリするので、突然は止めてください!」
「お、突然でなければいいんだな?」
まるで言質をとったとばかりに、ニヤッと笑うティードであった。
とりあえず、その顔はみなかったことにして、気持ちを改めて精霊に話しかける。
**あの、精霊さん。お互い、気持ちよかったです**
**へへっ、俺、イイコトしただろ。お前たちも素直になれよなー**
**・・・幸せの妖精さんには、どうしたら会えますか?**
**仕方ねぇな。まぁ、約束だからな。明日、また来いよ。会わせてやるよ**
**ほんとですか!**
**ああ、また来いよ。ただし、お前ひとりだぞ。じゃぁな!**
やっと幸せの精霊に会える!そう思うと嬉しさのあまり、思わずティードの胸に顔をうずめる。
「ああ、明日、幸せの妖精に会えるようです!」
「そ、そうか。よかったな」
「ティード様のおかげです。ありがとうございます」
「まぁ、お礼なら、本当に妖精に会えた時にしてくれ」
そう言いながら、やさしくリノリラの髪を撫でるティードだった。だが、彼のズボンの前が、かなり窮屈なことになっている。先ほどのキスの余波だ。
だが、そんなことに少しも気づかないリノリラは、嬉しさのあまり身体をぎゅっとティードにくっつける。
―――くそっ、こんな木の上じゃなければ、イロイロとやりようがあるんだが…
悔しそうに、己の思うままにならない下半身を睨みつけると、気持ちを切り替えるようにリノリラの身体をそっと引き離した。
「さぁ、降りようか。時間もずいぶん経ってしまった」
「はい、そうでした」
少し残念そうにうつむいたリノリラの顎を、ティードはくっと持ちあげて、瞳を見つめた。
「キス、したい」
「えっ」
そう言うと、チュッと軽く唇を落とす。リノリラが返事をする前に、ティードは二度、三度と唇を重ねる。
「さ、いこう」
最後とばかりに、長く唇を重ねた後、ティードは優しく、しかししっかりと抱きしめたまま、リノリラと木の下に降りる。
「ありがとうございました。助かりました」
リノリラは、丁寧におじぎをする。
「いや、俺も…嬉しかったし」
「あの、明日は一人で来るように、と言われました」
「…そうなのか?」
「はい、精霊さんは、妖精に会えるのは私一人だと」
ティードは、少し考え込むように腕を組んだ。
「わかった、俺は少し離れたところで待つ」
「そんな、そこまでご迷惑をおかけできません」
ただでさえ、世話になっている。これ以上、何かをお願いするのは、さすがに気が引ける。
「俺は、迷惑じゃない」
リノリラの頬を手で、そっとなでる。安心させるように、ティードは優しい目で、彼女を見つめる。
「それに、断られても、明日の朝もここで鍛錬するだけだ」
そこまで言われると、断ることもできない。リノリラも、またティードに会えるのは嬉しい。
「わかりました。近くにいてくれるのは……嬉しいです」
「あ、そう言えば、こちらを返しそびれていたのですが」
そう言って手袋を返そうとすると、ティードは首を横にふった。
「それは、また今度」
そう言って、ティードはくるっと向きを変えると、走って行った。
手に残された片方の手袋は、まだ彼との関係が続いている証のようで、リノリラはぎゅっと握り締めた。
*****
「姉さん、で、結局何が条件だったの?」
今朝の精霊との話を、シキズキに話をするが、肝心の条件については、ボヤかしてしまう。まさか、ティードと飴を舐めあったなど、恥ずかしくて言えない。
「それはともかく、明日、幸せの妖精さんと、会えるって」
「ふーん、僕には話してくれないんだ」
拗ねるような顔をしたシキズキだが、これ以上は聞き出せそうにない、と思い至ると、質問を変えてきた。
「今朝の飴は、役立った?」
「え?飴?ええ、すっごく役立ったわ。ありがとう」
「ちゃんと騎士様に渡せた?」
「ええ、渡せたわ」
キスしながらだけど…うん、ちゃんと渡せたわ。溶けちゃったけど。
「それなら、よかった」
ニコッと笑う顔は、まさしく美少年だ。最近は、少年と青年の間のような、思春期独特の雰囲気のある弟だが、こうした笑顔をみると、やはりリノリラにとってはかわいい弟だ。
「で、明日は一人で行くの?」
「そうなの。一人で、って言われたから。あ、でもティード様が、少し離れた場所で見ていてくれるって」
「そうなんだ。お世話になるね」
「そうね、明日、無事に終わったら、何かお礼を考えないとね」
二人で、どうやってお礼をしようかと考えていると、コンコン、と扉をノックする音が聞こえる。
「こちらに、リノリラお嬢様はおられますか?」
侍女のエリーが、探しているようだった。
「はい、ここにいますよ」
返事をしてから、扉を開ける。
「伯爵様が、リノリラお嬢様をお呼びです。後で書斎に来るように、ということでした」
お父様が、わざわざ書斎に呼び出してくるとは、何だろう。要件を伝えるだけなら、食事中でも構わないのに。
「わかりました、今行きます」
すぐに返事をして、階下の書斎に向かう。その私を、シキズキは不安そうに見ていたが、その視線に気づくことはできなかった。
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