溺愛されたい令嬢と騙されたい騎士

貧乏伯爵令嬢は、なんとかして「幸せの妖精」に会ってみたい!
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7.シキズキの不安

公開日時: 2021年6月14日(月) 06:29
文字数:2,195


**精霊さん、条件の飴の舐めあいをしましたよ**

**おう、どうだった?キモチヨカッタか?**


「あ、あの。精霊さんが、気持ちよかったか?と聞いてきました」

「ああ、気持ちよかったよ。リノは?」


「はい、私も」

 そう言い終わらないうちに、またティードはリノの唇にキスをした。


「ちょ、ちょっと。ビックリするので、突然は止めてください!」

「お、突然でなければいいんだな?」


 まるで言質をとったとばかりに、ニヤッと笑うティードであった。


 とりあえず、その顔はみなかったことにして、気持ちを改めて精霊に話しかける。


**あの、精霊さん。お互い、気持ちよかったです**

**へへっ、俺、イイコトしただろ。お前たちも素直になれよなー**


**・・・幸せの妖精さんには、どうしたら会えますか?**

**仕方ねぇな。まぁ、約束だからな。明日、また来いよ。会わせてやるよ**


**ほんとですか!**

**ああ、また来いよ。ただし、お前ひとりだぞ。じゃぁな!**


 やっと幸せの精霊に会える!そう思うと嬉しさのあまり、思わずティードの胸に顔をうずめる。


「ああ、明日、幸せの妖精に会えるようです!」

「そ、そうか。よかったな」


「ティード様のおかげです。ありがとうございます」

「まぁ、お礼なら、本当に妖精に会えた時にしてくれ」


 そう言いながら、やさしくリノリラの髪を撫でるティードだった。だが、彼のズボンの前が、かなり窮屈なことになっている。先ほどのキスの余波だ。


 だが、そんなことに少しも気づかないリノリラは、嬉しさのあまり身体をぎゅっとティードにくっつける。


―――くそっ、こんな木の上じゃなければ、イロイロとやりようがあるんだが…


 悔しそうに、己の思うままにならない下半身を睨みつけると、気持ちを切り替えるようにリノリラの身体をそっと引き離した。


「さぁ、降りようか。時間もずいぶん経ってしまった」

「はい、そうでした」


 少し残念そうにうつむいたリノリラの顎を、ティードはくっと持ちあげて、瞳を見つめた。


「キス、したい」

「えっ」


 そう言うと、チュッと軽く唇を落とす。リノリラが返事をする前に、ティードは二度、三度と唇を重ねる。


「さ、いこう」

 最後とばかりに、長く唇を重ねた後、ティードは優しく、しかししっかりと抱きしめたまま、リノリラと木の下に降りる。


「ありがとうございました。助かりました」

 リノリラは、丁寧におじぎをする。


「いや、俺も…嬉しかったし」

「あの、明日は一人で来るように、と言われました」


「…そうなのか?」

「はい、精霊さんは、妖精に会えるのは私一人だと」


 ティードは、少し考え込むように腕を組んだ。


「わかった、俺は少し離れたところで待つ」

「そんな、そこまでご迷惑をおかけできません」


 ただでさえ、世話になっている。これ以上、何かをお願いするのは、さすがに気が引ける。


「俺は、迷惑じゃない」

 リノリラの頬を手で、そっとなでる。安心させるように、ティードは優しい目で、彼女を見つめる。


「それに、断られても、明日の朝もここで鍛錬するだけだ」

 そこまで言われると、断ることもできない。リノリラも、またティードに会えるのは嬉しい。


「わかりました。近くにいてくれるのは……嬉しいです」


「あ、そう言えば、こちらを返しそびれていたのですが」

 そう言って手袋を返そうとすると、ティードは首を横にふった。


「それは、また今度」

 そう言って、ティードはくるっと向きを変えると、走って行った。


 手に残された片方の手袋は、まだ彼との関係が続いている証のようで、リノリラはぎゅっと握り締めた。



*****



「姉さん、で、結局何が条件だったの?」


 今朝の精霊との話を、シキズキに話をするが、肝心の条件については、ボヤかしてしまう。まさか、ティードと飴を舐めあったなど、恥ずかしくて言えない。


「それはともかく、明日、幸せの妖精さんと、会えるって」

「ふーん、僕には話してくれないんだ」


 拗ねるような顔をしたシキズキだが、これ以上は聞き出せそうにない、と思い至ると、質問を変えてきた。


「今朝の飴は、役立った?」

「え?飴?ええ、すっごく役立ったわ。ありがとう」


「ちゃんと騎士様に渡せた?」

「ええ、渡せたわ」


 キスしながらだけど…うん、ちゃんと渡せたわ。溶けちゃったけど。


「それなら、よかった」

 ニコッと笑う顔は、まさしく美少年だ。最近は、少年と青年の間のような、思春期独特の雰囲気のある弟だが、こうした笑顔をみると、やはりリノリラにとってはかわいい弟だ。


「で、明日は一人で行くの?」

「そうなの。一人で、って言われたから。あ、でもティード様が、少し離れた場所で見ていてくれるって」


「そうなんだ。お世話になるね」

「そうね、明日、無事に終わったら、何かお礼を考えないとね」


 二人で、どうやってお礼をしようかと考えていると、コンコン、と扉をノックする音が聞こえる。


「こちらに、リノリラお嬢様はおられますか?」

 侍女のエリーが、探しているようだった。


「はい、ここにいますよ」

 返事をしてから、扉を開ける。


「伯爵様が、リノリラお嬢様をお呼びです。後で書斎に来るように、ということでした」


 お父様が、わざわざ書斎に呼び出してくるとは、何だろう。要件を伝えるだけなら、食事中でも構わないのに。


「わかりました、今行きます」

 すぐに返事をして、階下の書斎に向かう。その私を、シキズキは不安そうに見ていたが、その視線に気づくことはできなかった。


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