溺愛されたい令嬢と騙されたい騎士

貧乏伯爵令嬢は、なんとかして「幸せの妖精」に会ってみたい!
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2.二人の会話

公開日時: 2021年6月12日(土) 20:15
文字数:1,589


 リノリラは、改めて目の前にいる騎士を見た。


 ティード・ローワンと名乗る彼は、紺碧の瞳に濃紺の髪に、よく見れば整った顔をしている。背の高い彼には、蒼い警護騎士の装いがとても似合っていた。


 銀色の髪が珍しかったのか、私のことを「妖精」と間違えるなんて。でも、妖精のことを知っているから、間違えたのかもしれない。


 普段から社交界に出ていないリノリラであったが、妖精の話が一般的でないことは知っていた。その話を始めると、おとぎ話でもしているかのように、真剣に話を聞いてくれないことも。


 でも、彼はどうやら、そうした社交界で会う貴族とは違うようだ。


「あの、その前に…ちょっと、手を外してもらえますか?」

 ティードは、リノリラの手を掴んだままであった。


「あ、も、申し訳ない」


 照れるように外した手で、頭をくしゃっと撫でている。ニコっと笑った顔は、リノリラの心をほわっと温めた。なぜだろう、もう少し掴んでもらっていても、よかったかも…と思わなくもない。


「で、妖精を探しているといったけど、それと木の上にいたのは、関係があるのかな」

 ティードは改まった口調で、リノリラに問いかけた。


「はい、私、大木の精霊の声が聞こえるのです。で、探している妖精の手がかりを、聞いているのです」

「木の精霊の声、が聞こえる」


「はい、私の魔力は小さいのですが、どうやら特殊で、精霊の声が聞こえます。といっても、あまり役に立つものでもないので、自慢でもなんでもないのですが」


 ティードは、腕を組んだまま、何か考えるようにリノリラを眺めている。やっぱり、精霊の声が聞こえる、ということを信じてもらえないのだろうか。


「では、今登っていた木は、何を君に伝えたのかな」

 不思議そうな声で、問われる。


「はい、運命に出会う、と言っていました」

「運命に出会う、と」


 ティードはさらに不思議そうな顔をした。

「あ、普段はもっと、具体的です。風が強くなる、とか、落とし物に注意しろ、とか」

 

「その、木に登るのは、何か理由があるのかな?」

「木の高い場所の方が、声が聞きとりやすいのです」


 ティードはさらに、リノリラに質問をしてきた。その一つ一つを丁寧に返答していくと、ティードは最後にまとめるように話した。


「では、君は幸福の妖精を探すために、木に登り精霊の声を集めている。ということか」

「そう、です」


 なぜ幸福の妖精を探しているのか、その理由まで問い詰められなくて良かった。それを話すと、自分が伯爵令嬢であることがバレるかもしれない。それは避けたかった。


「あの、騎士様はどうして、妖精のことをご存じなのでしょうか」

 ティードはそう問われると、またくしゃくしゃっと、髪をかき上げた。


「はは、すまない。知っていると言えるほどでもないんだ。祖母が昔、よく妖精の話をしていた。それくらいだ」

「おばあ様が、ですか」


「ああ、だからおとぎ話の延長線上だな」

「それでもいいので、妖精のお話を聞かせてください」


 妖精のことは、私も家に残されていた書物から知識を得た。口頭で伝えられていることに、真実が残っているのかもしれない。


「ああ、そうしたいのだが、申し訳ない。今は時間がそれほどないが…」

「そうでしたか」

 せっかく話ができそうだったのに。もうちょっと話がしたかった…、と少し思う。


「そうだ、明日の朝、またこの木の下で会えるか?鍛錬の時間であれば、自由がきく。あ、朝が難しければ、夕刻でも」


「朝、早朝であれば大丈夫です」

 ホッとしたような顔をしたティードは、急に自分のはめていた片方の手袋をとると、リノリラの手に渡した。


「これは、明日返して欲しい。約束だ。必ず、また会いたい」

 青い瞳が、とまどうリノリラの瞳をまっすぐ見る。

「は、はい」


 護衛騎士はそう伝えると、急いで職場へ戻るように、走っていった。リノリラは、その走る姿をただ茫然と見つめていた。手の中には、彼から渡された白い手袋が、あった。


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