ツキアカリ

消えた幼馴染
Rob
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日常

公開日時: 2020年12月21日(月) 18:36
文字数:2,335

今宵の月光は明るい…明るすぎるほどに。金色に輝く月明は一人の少女をみつめた。


「…今夜はいい月ね。」

「飯食いにいこーぜ、勇樹ゆうき。」

「おー。」


購買で元気なおばちゃんからレーズンパンとミックスジュースを買い、屋上の爽やかな風を受けながら食う。俺の最近のお気に入りの時間だ。


「はぁあ~、俺たちもう3年生だってのになあ。恋の一つや二つ、してみてえなぁ~~!!」

人がいない屋上だからと、大声で愚痴を垂れる友貴ともたかを横に俺はレーズンパンを口に放り込む。


「いくら屋上だからってうるせぇぞ。それにお前、女の子の友達は多いだろ。一人くらい気になる子とか、いないのかよ。」

「まあいるけどさ…でもな、一から関係を作るのって難しいんだぞ!!簡単に言いやがって…お前はいいよな、愛莉ちゃんがいるし。」

「お、おう…なんか友貴がそんなことを言うのは珍しいな。いつもは俺らについてはあまり口出ししてこないのに。」

「まあいつもはな…でも今日はお前に愚痴でも言いてえ気分だわ!」

今日の友貴はどこか不機嫌そうだ。いや、不機嫌というかは拗ねてるな、これは。女の子に馬鹿にでもされたのだろうか。



愛莉とは小さいころから…いや俺が生まれる前から家族ぐるみの幼馴染でずっと一緒に生きてきた。成績、運動神経、人柄と何かと愛莉と比べられるし、俺も愛莉と色々争ってきた自覚はある。ずっと隣にいたから、お互いの知らないことは何もない。…そして、周りが想像していた通り、俺たちは高校1年の夏から付き合い始めた。が、付き合ってからも特に何ら変わったことはない。変わったのは二人きりの時間が増えたくらいなものだ。


「愛莉ちゃんもかわいいからなぁ、お前にはもったいないくらいだよ。」

「そんなのは俺が一番わかってるわい!」

そう、愛莉はいわゆる「なんでもできる」ちゃんだ。言われたことは大体何でもできるし、人間的にもしっかりしている。毎朝たたき起こされているくらいには面倒見もいい。さらに顔立ちも整っているときた。

「(俺が釣り合ってないことなんて俺が一番よくわかっているんだよ…)」


「ま、俺はあの子の隣に相応しいのは勇樹だけだと思ってんだから、心配すんなって!」

「なんだよ急に、こっ恥ずかしいこと言うなって。」

おかしいやつだ、と思いつつ俺は残っていたミックスジュースを飲みほし、ゆっくりと屋上を後にした。




「勇樹、帰ろ?」「おう。」

部活のないテスト期間、俺は愛莉と二人で隣同士の家へと帰る。


「今回のテストはどう?なんとかなりそ?」

「あぁ。愛莉が手伝ってくれたから何とか、な。」

「よかった、勇樹が補習対象になっちゃったら私の苦労が台無しだもん。」

「いやいや、そこまでじゃねえって…」

この何気ない会話、これがいつまでも続けば良かった。



「じゃあ、また明日な。」

「…ん」愛莉は俺に向け小さく手を振る。その小さな違和感を俺は気づいてあげられなかった。




「明日提出の宿題を家に忘れるなんてな…」

全く馬鹿みたいだ。うちの高校は歩いて10分弱の割と近いところにある…が、まだ春先なので夜はなかなか冷える。

「(もっと着込んできてもよかったな…)」


時刻にすれば午後の9時過ぎ。普通学校の正門は閉まっているはず。だけど今日はなぜか少し門が開いていた。さらに学校の玄関のかぎも開いていたのだ。いつもなら俺だって気にするだろう、だがこの時の俺は早く家に帰りたいのもあって何も考えずに急いで学校の中へ入っていった。

「教室まで遠いな…」学校の中は外よりもましだが寒いものは寒い。早くお目当てのものをとって帰ろう…


見回りの警備員がいないことを確認して、俺は教室の中へ忍び込む。忍び込むというには明らかに堂々としていたが、今はそんな言葉が一番合っている気がした。

机の中のノートを取り出す。 


俺はその瞬間、身震いした。体が冷えたか、普通はそう思うだろう。だが、俺の頭には「嫌な予感がする」という考えだけがよぎった。いや、もっとわかりやすく言うのであれば「誰かの思考を読み取った」。

その誰か。それは俺にもよく知っている人物だった。「(愛莉…?)」

あの時。




「ねぇ、勇樹。…私と一緒にいて楽しい?」

「え?なんだよ、藪から棒に。…そうだな、友貴の次くらいには楽しいかな。」

「え~、じゃあ私は二番目かぁ。友貴くんと一緒にいるとき、すごい楽しそうだもんね。」

「今までの友達の中でもあいつは例外だ。…面白いやつだよ。」


「(まぁ、一緒にいたいのは目の前にいる人なんですけどね)」

「…ん?どうしたの?まだ話したいこと、ある?」

「…いや、なんでもない。」





思えば様子が少しおかしかった気がする。いつもはそんなこと、聞くわけがない。だって、一緒にいて楽しくないわけがないのだから。それは愛莉も同じ気持ちである…と思いたい。


教室から見える月を眺める。今日の月はいつもよりどこかきれいに見えた。美しい女性を見つけた時のようだ。それと同時に読み取ったのはまた「愛莉」の思考だった。

「…近くに愛莉がいるのか…?」こんな夜更けに愛莉がいるなんて、しかも学校になんて到底思えない。だが、事実俺は愛莉の思考を読み取れている。



教室から見ていた、外を見ていた。俺は、見た。確かに見た。一つの人影が雫のごとく真っ逆さまに落ちていったのだ。


「(…え?)」

「(落ちた…?いや、そんな馬鹿な。ここは3階だぞ?)」

人影は何かの間違いだろう、と考える俺の思考とは遠くかけ離れた体は落ちていった人影のもとへと走り出していた。自分の目で確かめるまで。「(俺は信じない)」


俺は急いで下へ向かう。風の冷たい、校庭を駆け抜け人影が落ちていったであろう場所へたどり着いた。

「多分ここに落ちたはず…」だが、向かった場所には人の姿は見つからなかった。


「(あれ?俺の気のせい?何かと見間違えたのかな…)」

一抹の不安を抱えながらも、宿題を持って急いで家へ戻った。

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