11. ルグニカの街で
宿屋の一室。私を見つめるサーシャ。いや頬杖をついて睨んでいると言ってもいいかもしれない。周りから見れば無言で壁に立て掛けてある、ただの『アイアンソード』を睨む令嬢って構図よね?
「ねぇアイリス様は本当は剣の精霊様じゃないの?」
そう私に問いかけてくるサーシャ。その質問は答えることが出来ない、というかサーシャが私を握っていないからどっちにしても喋れないのだけどね……。
「また、だんまりか……まぁいいよ。私もそんなに詳しく聞きたいわけじゃないしね……」
そう言って立て掛けてある私を握るとベッドへと腰掛けるサーシャ。そして私の鞘の先端を撫でながらこう言うのだ。
「でもさ、アイリス様。もし本当に剣の精霊様ならさ……私を守ってくれるんだよね?」
私は答えない。しかし私の意識が伝わっていくのか、サーシャは言葉を続ける。
「ねぇ……もしもさ……もしもだよ?私がこの国で一番強い騎士になったらさ……一体何者なのか教えてくれるのかな……?」
…………どうかしら?サーシャは才能があると思うけどまだまだ子供だし。これからもっと強くなると思う。それこそ大人の騎士達にも負けないぐらいに。
だから今はまだその時ではないのだと思う。もう少しだけ強くなってから改めて考えよう。それまでは私はサーシャを守り、そして導いてあげるだけ。それが今の私に出来ることなのだから。
サーシャは笑顔になると立ち上がる。そして窓際に立つと外の風景を見ながら呟いた。
「そうなるといいな。よし!まずはこのルグニカで頑張らないとね!お休みアイリス様」
そのままベッドに入るサーシャ。今日も頑張ったわね。ゆっくり休んで明日に備えましょう。
そして次の日。サーシャはまずこのルグニカのギルドに向かっているみたい。なんでもこの街のギルド冒険者としての登録をする為よね。
この世界の冒険者は大体が傭兵として生計を立てている人が多いらしい。だからギルド冒険者としての生計を立てるのは珍しいパターンだとかなんとか。
でもサーシャは私と一緒に旅をして色々なところに行きたいと前に言っていた。だからサーシャみたいな人はギルド冒険者として登録をする。
それはともかくサーシャがギルドに入ると中にいた人達が一斉にこちらを見る。どうやらかなり注目されているようだ。というより……私を見ている?どうやらこのギルドにまで知れ渡っているみたいね。『アイアンソードを使う元貴族令嬢』として。
「あの……すみません。ギルドに登録したいんですけど……」
受付嬢の前に立つサーシャ。すると受付嬢はサーシャの手にある私を見て目を丸くした。やっぱり驚くわよね。だって初級冒険者の武器……いや訓練用の武器に成り下がっているかもしれない、たかがアイアンソードなんて。
「えっと……失礼ですがその剣は『アイアンソード』ですよね?まさか武器はそれですか?」
「はい、これ以外持っていないので……」
「そうですか……。わかりました。では登録を致しますのでここに手を置いてください」
そう言って机の上に魔法陣が描かれた紙を置く受付嬢。その紙に手を乗せると何かを記入していく受付嬢。
「これで完了になります。」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに笑うサーシャ。そして私を大事そうに握りしめながらギルドを出ると、次は道具屋へと向かう。そこで薬草などのアイテムを購入していくサーシャ。そんな時、道で1人の女性が絡まれていた。
「おいおい?姉ちゃんよぉ〜オレらと遊ぼうぜぇ〜」
見るからに柄の悪い男達だ。サーシャはその光景を見ると駆け出す。そして男の手を捻り上げるとこう言った。
「嫌がってるでしょうが!!離してあげなさい!!」
その言葉を聞いてニヤリとする男達。
「へっ!正義の味方気取りか?笑わせるんじゃねぇぞクソガキがぁ!!!」
殴りかかる男。それをサッとよけるサーシャ。するとバランスを崩す男は地面に転ぶ。
「ぐあっ!?くそがぁ……」
「もうやめて。弱いものいじめなんかしても楽しくないでしょ?」
「ふざけんな!オレ達はお前みたいな女を痛めつけるのが楽しいんだよ!!」
そう言ってナイフを取り出す男達。流石に危ないわね。私はサーシャを守る為に動こうとする。だがその瞬間、サーシャは私を鞘に納めたまま構えたのだ。
「いい加減にして!これ以上やるなら本気で相手になりますよ?」
「はぁ?なに格好つけてんだ?アホじゃねぇの?」
「……そう思うならかかってきてください」
「上等だよ!!死ねぇ!!!」
襲いかかってくる男。サーシャはそれを冷静に見極めながら避けていく。
「はははははは!!どうした?避けるだけか?」
「……。」
「ちぃ……ちょこまかしやがって……あぶっ!?」
喋っている途中で顔面に鞘で殴られて吹き飛ぶ男。それを見た他の仲間達がサーシャを取り囲んだ。
「テメェよくもやりやがったな!!」
「絶対に許さねぇ!!」
一斉に襲いくる男達。しかしサーシャは慌てる様子もなく、私を構える。
「遅い。」
そしてサーシャはまるで舞うかのように私を素早く振るう。峰打ちで次々と倒れていく男達。そして最後の一人を気絶させるとサーシャは私を腰に差した。やるじゃないサーシャ。
「ふぅ……。大丈夫でしたか?」
「は、はい……。あの……助けてくれてありがとうございました!」
「いえ、無事なら良かったです。それじゃ私は行きますね。これからは気をつけて下さいね?」
「あの!お願いがあるんです!私と共に西の洞窟に行ってもらえませんか?」
なんかわけアリかしらこの女性は?まぁ別に構わないけど。
「私はサーシャ=グレイスです。あなたの名前は?」
「あっ私はクレアと言います!実は私、冒険者になりたいのですが実力不足なので……それで……」
「そうでしたか。お茶をご馳走して下さい。お話聞きますよ?」
「え?あっはい!」
こうして冒険者になりたいというクレアという女性の話をまずは聞くことになったのでした。
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