【大賢者の相棒?】世界の為に尽くした大賢者は転生したらただの『アイアンソード』で草生えたので、とりあえず貴族令嬢を最強にする事に決めました

夕姫
夕姫

9. 大賢者アイリス=フォン=アスタータ

公開日時: 2022年7月24日(日) 20:00
文字数:1,452

9. 大賢者アイリス=フォン=アスタータ




 ふむ。私は今、サーシャの部屋の壁に立て掛けられている。あの子が私を置いて出かけるなんて珍しいわね。それにしてもどこに出掛けたのかしらね?


 しばらくすると何かを抱えてサーシャが戻ってくる。そしてそれをテーブルの上に置く。ドンッという音が部屋に鳴り響く。あれは……本かしら?しかも大量ね?一体何を読むつもりなのかしら。


「まずはこれから読もうかしら」


 そう言うとサーシャはその本を読み始める。私がその本の背表紙を確認すると『英雄伝』と書かれている。もしかして……と私がふとあることを思い付くとサーシャはそれと同時に口に出した。


「えっと……あったわ!大賢者アイリス=フォン=アスタータ!」


 ああ。やっぱり私のことよね?でもなんでこんなに大量に……。そう思っているとサーシャは次のページをめくる。


「えーっと……なになに?」


 どうやら読んでいるらしい。私は黙って待つことにする。この時代に私ってどう語り継がれているのかしら?すごく興味はある。サーシャは読み続ける。


「この世界には英雄と呼ばれる者たちがいた。その一人、大賢者アイリス=フォン=アスタータは神聖魔法を極めし者だと言われている。彼女は魔法の深淵を知るため、自ら禁術に手を出したのだと言う」


 ……ん?なんかすごいことになっている気がするんだけど気のせいかしら?禁術なんてものには縁がないんだけど。


「彼女の死後、彼女の残した手記が発見された。」


 うん。書いた覚えは全くないのだけど。


「そこにはこう書かれていたそうだ。『魔法とは真理であり、全ての源である。それ故に我々は常に探究心を忘れてはならない』」


 私じゃないんだけどね。すごい良い言葉じゃない!どこかの誰かさん、なんかありがとう!


「その言葉に従い、今もなお多くの者が魔法の研究をしているという……。すごい人なんだぁ、大賢者アイリス=フォン=アスタータって」


 いやぁそれほどでもないわよ?今はただの『アイアンソード』だけど。まあでもちょっと嬉しいかも。こうして後世の人に伝わっているんだから。


 サーシャはそのまま読み続けて、結局持ってきた本が読み終わったのは夕方を回っていた。


「ふぅ〜。これで終わりかしら。結構面白かった〜」


 サーシャは満足したようで笑顔を浮かべながら伸びをする。そして壁に立て掛けられている私を持ち上げると話しかけてくる。


「うーん……確かにいつも助けてくれる時は魔法なんだよね。私は一度もアイリス様に剣術で助けてもらったことはないし」


 もしかしたらバレてしまったのかしら……。サーシャは続けて話してくる。


「ねえ、アイリス様。私のこと見てたんでしょ?それなら教えて欲しいわ。本当に剣の精霊様なの?大賢者アイリス=フォン=アスタータ?」


 うっ……これは困った質問が来たわね。どう答えたものか……。とりあえず何も言わないでおくことにする。


「……まただんまりか。じゃあ1人で話そうかな。アイリス様がずっと私を助けてくれていたこと感謝してる。だってあなたがいなければ今の私はなかったと思うから……」


 そう微笑みながら私に話しかけてくれるサーシャを見て少し胸が熱くなる。


「私はあなたのおかげで今ここにいる。あなたが剣の精霊様でも、もしかしたら大賢者アイリス=フォン=アスタータだとしても。私とこれからも一緒にいて下さい。私はもっと強くなってみせるから」


 ……うん。やっぱり良い子だわ。私は思わず涙が出そうになるのを抑える。私が必ず強くしてあげるから、私のほうこそこれからもよろしくねサーシャ。

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