10. 別れ。そして新たな拠点で
「荷物はこれでよしっと……ついにか……なんか少し寂しくなるわ」
朝早くから荷物をまとめているサーシャ。そう彼女はこの王都から今日旅立つ予定になっている。
私とサーシャがこの王都に来てから2年の月日がたつ。サーシャはあれから見違えるほどの成長を見せているけど、それは私だけじゃなく、ギルドの仲間たちのおかげでもある。
そしてサーシャは最後の別れを告げるためにギルドへ向かう。私も少し寂しくなってきたわ……でも仕方ないわよね。出会いと別れ、それがあるから人は強くなれるんだから。かつての私のようにね。
「今までお世話になりましたアンナさん。ヴェインのおじ様。ジェイさん。テッドさん。」
「ええ、気をつけて行ってきなさい」
「お前ならどこに行っても大丈夫だ」
「そうだぜ。それにいつでも会えるだろ?」
「また一緒にクエストに行こうな?その時は酒おごってくれよ?」
みんなそれぞれサーシャに声をかける。サーシャは涙をこらえながら笑顔を作って返事をする。本当にいい人たちに巡り会えたのね。
「はい!ありがとうございます!」
「サーシャ。オレのかつての仲間が次のお前の拠点にいる。話は通してある安心しろ」
「おじ様。色々ありがとうございました。それじゃみんな、行ってきます!」
こうして私たちは王都を出発して次の街に向かう。目指すは次の街『ルグニカ』というところらしいけど。どんな場所なのかしら……。私の時代にはまだなかった街だものね。
サーシャは少しの荷物と私を持って歩いていく。そしてしばらく歩き続けたところで私に話かけてくる。
「ねえアイリス様?ついに旅が出来る。待たせてごめんなさい!……って話せるわけないか……でも、これからもずっと私の相棒だからね!」
そう嬉しそうに私を握り締めながら話しかけてくれる。私はその言葉を聞いてとても嬉しい気持ちになった。そして私は心の中で呟く。
(もちろんよ。サーシャとの冒険の旅、楽しみにしているわ)
それから数日が経過してようやく街が見えてきた。ここがルグニカの街かしら?思っていたより栄えているみたいだけど……。まずはヴェインの仲間に会ったほうが良さそうね。
「やっと着いた!!ふぅ〜長かったわ〜思ったより遠かったのねルグニカは」
なんか……サーシャの方向音痴のせいのような気もするけどね……。私たちは早速街に入り宿を探すことにした。この街はいろんな種族がいるらしく、多種多様な人種で賑わっている。
私たちが歩いている時、サーシャはある店の前で立ち止まる。看板には『妖精亭』と書かれている。どうやら宿屋の名前みたいね。中からは楽しげな雰囲気を感じる。
「ん?おいそこの銀髪のお嬢ちゃん。もしかしてヴェインの弟子か?」
「え?あっはい!わっ大きい……」
サーシャが声をかけられ振り向くとそこには身長2メートルぐらいの大男がいた。おそらくこの人がヴェインの仲間の人だと思うんだけど……。確かに大き過ぎるわよね。
「オレはこの店の店主でな。まあ名前はドミニクっていうんだ。よろしくな一応ドワーフだ」
ドワーフなら納得かしら。それにしても大きいわよね。それに筋肉ムキムキだし……。こんな体つきをしている人初めて見たかも……。
「よっよろひくお願いしましゅ!」
サーシャったら緊張して噛みまくりじゃない。そりゃ驚くわよねぇ。いきなり目の前に大男が立ってたら。しかも顔が強面なんだもの。
「とりあえず入りな。茶でも出してやるから」
「はい。失礼します」
サーシャたちは店内に入ると奥にあるテーブル席へと案内される。メニュー表を見る限り飲み物だけでもかなり種類があるようだった。
「ヴェインから話は聞いてるぜ?ここを拠点にして構わねぇからな。オレの方からも他の奴らに言っといてやるよ。あと何か困ったことがあったらいつでも来いよ?出来る範囲だが相談に乗ってやるぜ?」
「はい!ありがとうございます!」
見た目は怖いけどドミニクはいい人ね。そんなことを私が思っているとドミニクが話かけてくる。
「ほう……本当にお前は『アイアンソード』で戦うんだな?冗談かと思ってたぜ」
「冗談じゃないですよ。私はこのアイリス様が宿る『アイアンソード』で戦い続けるので!」
「アイリス様?」
「はい。剣の精霊様なんです!たぶん。」
ドミニクが私をすごい顔で睨み付けるように見てくる……なんだろう……私のことは分からないと思うけど心臓に悪いわ。
「ふむ。サーシャ。その剣には精霊は宿っていないぞ。オレはドワーフだから分かる。それはただの『アイアンソード』だ」
「精霊が宿ってない……?」
そりゃそうよ。私は精霊じゃないんだから、それにしてもドワーフに出会うのは誤算だったわ……ドワーフは元来、武器鍛冶屋を生業にしているものが多いと聞くものね……さてどうやってサーシャに説明をしようかしらね。
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