少年は後ろを振り返った。暗闇の中にうっすらと見えたものは苦しみの象徴だった。それは森の中の洋館だった。一見すると豪華な雰囲気だった。誰もが幸せなくらしを想像できた。しかし、少年はそう思わなかった。なぜなら、そこで過ごした日々は地獄そのものだったからだ。酒に酔った紳士淑女。飛び交う怒号。頭を下げて謝る老人。蔑む笑い声。繰り返される日々。少年の心にはもう光が失われかけていた。
「…ここを早く離れないと…」
少年が歩き出した。そのとき、正装の男性が走って追ってきた。少年は走って逃げた。しかし、腕を掴まれてしまった。
「離してよ!」
男性は大きく首を振った。
「出来ません。旦那様がお待ちですので」
そう言うと男性は力強く少年の腕を引っ張った。男性は命令に忠実だった。少年は抵抗できず連れ戻された。洋館の大広間で大男が赤い酒を飲み干して言った。
「ああ、良い眺めだ。」
少年は椅子に座らされていた。その椅子は他の椅子と異なる目的で使用されてきた。
「さあ、逃げ出した悪い子をおしおきだ。始めたまえ。」
大男が言うと、筋肉質な男性が二人少年の横に立った。
「嫌だ!!」
少年が叫んだ。大男は笑い、扇子で優雅に扇いた。
「待て!そこまでだ」
吹き抜けの二階から聞こえた声に、全員振り向いた。
「誰だ!」
未来感のある銀色のマントに身を包んだ男性が言った。
「世界と世界を飛び越え、平和のために悪を倒す者ー平和の志士だ!」
そう言うと、空気から剣を手にして、跳んだ。蹴りで筋肉質な男性を一人倒すと、もう一人と向き合った。相手の打撃を受け流したあと、峰打ちで気絶させた。逃げ出した大男に剣を向けて言った。
「お金の力に溺れた者よ。最後に言い残すことは?」
大男は笑い、言った。
「言い残すことなどないわ!負けると決まってはおらん」
そう言うと、壁にあった拷問具を手にはめて、大きく振りかぶった。そのとき開いた大男の胸を斬り裂くように剣を振った。
「うわあああ」
大男の身体から黒い煙が噴き出し、大男は倒れた。少年は立ち去ろうとする男性に言った。
「ありがとう」
「礼には及ばない。これが私の仕事だから。」
「あの、また会えますか?」
「君が平和を望むなら」
そう言うと男性は姿を消した。未来感のある乗り物に乗り、レバーとスイッチを操作した。凄まじい速度で発進し、一瞬で目的地に到着した。そこには男性と同じ身なりの者たちがいた。その一人、細身の男性が近づいてきた。
「世界を救ってきたかい?」
「ああ。今回は、比較的楽だった」
「ほう。慣れたものだな」
「まあな。そっちはどうだった?」
「こっちかい?たいしたことなかった。そうだ。もうそろそろあっちに行く頃だ。じゃあね」
そう言って乗り物に向かった。見送りながら男性は思った。
(私の世界を救った男ー私の目標はまだまだ遠い。)
男性は『危機レベル』に『小』と書かれた欄にチェックをした。その横、細身の男性が向かった世界には『大』とあった。
「神の前に平伏すが良い!」
邪悪な化身となったそれは、信仰する者たちを巨大な尾で薙ぎ払った。痛々しい惨状の中、一人が言った。
「…なぜです、神様。私たちはあなたに一日たりとも信仰を欠かしたことはありませんでした。」
「知っている。だが、それは当然のことだ。元々この世界は我が創った。始まりも終わりも我が決める!」
人と竜が合わさった外見のそれは、巨大な足で踏み潰した。
「フハハハハ…何だ?」
その時、巨大な足が真っ二つに縦に切れた。その真下にいた男性が言った。
「邪悪な化身よ。最後に言い残すことは?」
「笑わせる。我は神だ。人に何ができる。」
たちまち巨大な足が再生した。それは、巨大な口から息吹を吐いた。男性は剣で息吹を切った。
「人にしてはやる。しかし、ここまでだ。」
それは、威力を強めた。男性は防ぐ一方になった。
「このままでは、やられてしまう…」
そこに細身の男性が現れて言った。
「派手に暴れてるなあ。今、大人しくするなら見逃すよ。」
それは、言った。
「何を。お前も神の前に平伏すが良い!」
「うるさい、神もどきのくせに。」
細身の男性は玉を掲げた。そして、念じた。すると、玉が一瞬光り、次の瞬間、それはいなくなっていた。男性は力尽きて倒れた。細身の男性が手を差し伸べた。
「助かりました。」
「キミ、その剣をどこで?」
「これはエクスカリバーという伝説の剣で、闘技大会で優勝した時にもらいました。」
「その剣は闇を斬ることができる。どうやら、キミには資格があるらしい。一緒に来ないかい?」
それが私と私の目標とする者との出会いだった。その人は私に説明をしてくれた。平行世界の存在。世界を飛び越える不思議な機械。特殊能力について。
「世界には闇がある。その闇と闘うのが僕らの仕事だ。」
「特殊能力を持つから?」
「そういうこと。理解したかい?」
「いまいち…」
「まあいい。そのうち分かると思う。あ、あそこに闇の黒幕がいる。」
その人が指差した先に一人の女性がいた。女性が歩いてきて、不満そうな表情で言った。
「人聞きが悪い。ちょっといじっただけ。」
「それでこの世界が滅びそうだったけど?」
「どっちみちあれは生まれた。それが早まっただけ。」
「怖い怖い。キミも彼女には気をつけるんだ。」
私は返答に困った。女性が言った。
「悪かった。でも、闇は必ず襲ってた。生きたいなら強くなるしかない。」
女性は歩いていって、空気から現れた機械に乗った。細身の男性は呆れて、言った。
「ところで、一緒に来る?」
私は周りを見て、言った。
「私も行きます。平和のために。」
私が次に向かったのは、魔王が支配する世界だった。その世界では、ジョブというものがあり、ジョブには戦士や魔法使いなど多くの職業があった。そのジョブを集めたパーティーは魔王を倒す冒険に出た。魔王にも配下がおり、その戦力は強大だった。幾千ものパーティーが挑み、散っていった。しかし、千年に一度誕生する勇者が現れた。さらに、勇者を支えるのは最高クラスのジョブたちで、彼らはついに魔王のもとに着いた。勇者は言った。
「魔王よ。長きにわたる支配もここまでだ!」
「フン、勇者と名乗る実力、見せてみよ!」
パーティーの仲間たち、6人が次々に魔王に攻撃を仕掛けた。魔王は動きを封じられ、その隙を狙って勇者は強化された剣で斬りかかった。そのとき、横からとてつもない速さで現れた者に防がれた。魔王は言った。
「フン、見事な連携だ。しかし、この程度だ。やってしまえ。」
「はっ!」
とてつもない速さの者がパーティーを追い詰めた。
「勇者を守れ!」
「我らが盾となる!」
「絶対に諦めない。」
勇者に攻撃は当たらなかった。魔王は言った。
「フン、見事な団結だ。しかし、ここまでだ。」
魔王は手に集中させた魔力を放出しようとした。そのとき、背後から剣が現れ、魔王は防いだ。
「まだ仲間がいたか。」
「世界と世界を飛び越え、平和のために悪を倒す者ー平和の志士だ!」
「平和の志士?」
「私は知っている。あなたもその一人だった!あなたは勇者として魔王に挑み、勝った。しかし、呪いによってあなたは魔王になった。」
「うう、頭が痛い…」
魔王は苦しみだした。かつての記憶が彼を苦しめた。
「仲間たちが死んでいった…残ったのは彼だけ。魔王の配下として支えてくれた。だが、私たちは多くの者を…うあああ!」
魔力が暴走するのを配下が蹴って止めた。
「目を覚ましてください。」
魔王は苦しみ、もがいた。勇者は言った。
「私たちも知っている。なぜなら、あなたは一人でこの世界を救おうと向かった。私たちの反対も押し切る勇ましさはまさに勇者だった。」
パーティーの仲間たちが言った。
「呪いに負けるな!」
「あなたならできる。」
「自分を信じてください!」
そして、魔王はついに呪いに打ち勝った。魔王と勇者たちはともに喜んだ。それを遠くから見る者が言った。
「世界は無数に存在する。はたしてどこまで命を救えるのだろう。」
私は視線に気づいたが、誰もいなかった。
世界は闇に瀕していた。その危機レベルの表示が基地にあった。私たちが向かうのは危機レベル「大」までだった。「特大」という世界は滅亡の寸前で救うことは不可能だった。しかし、その世界に向かう者がいた。その女性は荒廃した地で天に祈るように言った。
「絶望に飲まれた世界に希望の光を与えましょう。」
女性のまわりに草が生い茂った。そこに男性が加わって祈った。すると、木々に花が咲いた。祈りを終えて、女性が男性に言った。
「私たちの行いが無駄にならないといいのだけど。」
「希望はまだ残っています。」
そよ風が強風に変わった。大きな翼の竜が竜巻を起こしていた。
「この世界にはいなかったのに!」
「何者かが仕向けたのでしょう。」
竜が二人の前に降りて、竜の背にいた女性が言った。
「諦めなさい。世界の運命を変えるのは。」
男性が言った。
「それはあなたも同じことだ。」
「うるさい!終焉はいずれ訪れるのよ!」
竜巻が二人を飲み込もうとした。その竜巻を私は切り裂いた。竜の背にいた女性が言った。
「邪魔者は消えなさい。」
より強い竜巻が津波を起こした。私では津波を切ることはできなかった。しかし、もう一人のおかげで生き延びた。それは少年だった。
「君はあの時の」
「はい。あなたに助けられました。今度は僕の番です。平和の志士ならぬ平和ザムライだ!」
私と少年は、力を合わせて竜を斬った。竜の背にいた女性が言った。
「今まで世界の終焉を見てきた。そして、必ずあの男を見た。」
指さした先に、細身の男性がいた。細身の男性はいつもと違っていた。細身の男性が瞬間移動して私を掴んで言った。
「世界の運命を変えたのは、お前か?」
「…私は命を守りたかっただけ」
そこに黒いフードの者が現れた。
「つまり、救うかを決めるのが世界だということ。そう、その二人は世界そのものだ。」
細身の男性は私を離した。私は言った。
「二人が世界そのもの?あなたは一体?」
「わたしはメフィラス。昔、君たちといた者の仲間だ。君たちは今仲間のようだが、前は敵だった。世界の運命を変える戦いだった。最期に、二人の強い力と願ったことで、世界が無数に別れたのだ。」
私たちはよく話を聞いた。
「君たちの特殊能力が物語っている。闇を斬る力。闇を和らげる力。闇を創造する力。闇を崩壊させる力。」
私は頭の痛みを感じた。
「…思い出した。私の名はアグル。少年はシンメンサトリ。あなた方はアナスタシア様とセブン。そして、ガイア様と神龍…」
細身の男性は言った。
「へえ。楽しかった。でも、もう終わりだ。おれには役目がある。」
竜の背にいた女性が言った。
「思い出して。世界を救ったことを。世界は世界が決める。役目なんて変えればいい。」
細身の男性が言った。
「仲間にしてくれるのか?」
私は言った。
「もう仲間じゃないか。平和の志士、ダグラス。」
その後、私たちは基地に一緒に帰った。黒いフードの者が言った。
「世界は闇に瀕している。世界が一つでも無数でも命は平等だ。彼らのような命を守る者は希望の光だ。」
私たちは平和を守る者だ。
私は危機レベルを、平和レベルに書き直した。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!
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