帰還した召喚勇者の憂鬱

召喚勇者たちは、復讐を開始する。
北きつね
北きつね

第二話 帰還?

公開日時: 2023年11月3日(金) 02:47
文字数:3,270


 拠点の整備を行っていた、ユウキたちだが、現状で行えることを行った段階で、足りない物が見えてきた。


「それで、ヒナとレイヤは、|こっち《日本》に残るのか?」


 ユウキたちは、リチャードとロレッタの復讐を終えて、残りはユウキだけの状況になって、拠点の充実を行うことに決めた。いろいろな理由があるが、ユウキの相手が国に喰い込んでいるだけではなく、裏社会にも話が通すことができる。フィクサーというと大げさだが、国会議員だけではなく、地方限定だが基盤を支える企業を運営している。知識層の人材も抱えている。ユウキの復讐相手は、極端な話をすると、国と戦うのと同じくらいに考えておく必要がある。


「武術の訓練を頼まれている」


 レイヤは、正面で珈琲を飲んでいるリチャードに答える。

 実際に、レイヤとヒナは拠点近くの町に引っ越してきた子供たちに、武術と日本語を教えている。


 子供たちは、日本に居た者だけではない。復讐の過程で、家族がターゲットにされることを恐れた者たちが説得して、弟や妹たちを日本の拠点に連れてきている。治安のこともあるが、”院”の運営が厳しい事実もあり、日本への移住を決断した。

 言葉の壁や文化の違いもあるが、子供たちの安全を優先した形だ。

 負担は確かに増えているのだが、言葉の壁以外の問題は少ないと判断している。言葉の壁も、進歩した情報社会では、両者に相手を思いやる気持ちがあれば、大きな問題にはならない。


 それに、言葉の壁も、ユウキたちの誰かが居れば問題にはならない。買い物も拠点に作られた町で済んでしまう。困らない。拠点の近くの町は、事情を知っている者たちが運営しているので、言葉の壁も低くなっている。

 今は、外部との繋がりが少ないために、困らないが、成長すれば、行動範囲が広がる。そのために、武術と言語は絶対的に必要だ。言葉は、英語と日本語を覚えておけば、困らないと判断されている。


「そうか、武術は、体術系か?」


 レイヤは、スキルで体術を持っている。

 スキルは、知識系と呼ばれていて、スキルを持つことで、”術”が使えるようになる。ただ、知識として”術”が使えるわけではないので、人に教えることはできない。

 スキルの”体術”は、武器を持つ事を前提とした、身体の動かし方の”術”だ。


「武器は持たせられないからな。日本の柔術だ」


 レイヤとユウキとサトシは、日本に居た時に、近くのお寺で”柔術”を習っていた。柔道ではなく、柔術なのは、住職が、柔術が好きだという理由だったが、人に教えられる程ではないが、異世界での経験があるレイヤは、極めてはいないが、基礎の基礎は教える事ができる。

 何も知らないよりは、良いだろうと教え始めている。


「”スモウ”じゃないよな?」


 リチャードは、日本の格闘技は”相撲”と”柔道”が一般的だと思っている。

 それだけでなく、サトシが異世界に居る時に、何かあるごとにユウキやレイヤに相撲で挑んだ。相撲なら、自分が勝てると言って勝負を仕掛けて、負けていた。リチャードは、その印象が強くて、子供たちに”相撲”を教えているのかと思っていた。


「相撲を教えられない。それに、柔術と一緒に柔道を教えている。柔道は、馬込さんが教えているのだけどな。意外と、人気だぞ」


 馬込は、拠点に来た当初は、フィクサーの雰囲気を纏っていたが、子供が増えてきたら、子供相手に柔道を教え始めた。

 そこそこの腕を持っていて、教えられるくらいには強いようだ。


 子供たちも、オリンピック種目にもなっている柔道の方を好んだ。


「へぇ。俺は、柔道よりも、剣道が好きだな」


 武器として、長剣を使うリチャードは、剣道への興味がある。


「剣道は、馬込さんのお知り合いが教えられるらしいけど・・・。誘ったら、来てくれるらしいぞ。田舎で、道場を開くのが夢らしい」


「日本人は、本当に変わった奴が多い」


 変わった奴が多いのかは解らないが、実際に拠点には1芸に秀でた者が集まり始めている。

 社会不適合者が多く集まり始めているのも事実なので、レイヤは肩をすくめただけで反論はしなかった。


 反論の変わりに、リチャードが欲しがっていた物を思い出した。


「リチャード。そんな事を言っていいのか?」


 レイヤは思い出した話をリチャードに始める。

 ニヤニヤ笑っている顔が気に入らないのか、リチャードは、テーブルの上に置かれたコップに乱暴に、炭酸飲料を注いで、一気に飲んだ。


「なんだよ」


「お前が欲しがっていた・・・」


「え?まさか!」


 さっきまでのイライラが一瞬で消えた。

 リチャードは、コップをテーブルにおいて、立ち上がる。


「これも、馬込さんの知り合いらしいけど、刀鍛冶が来てくれることになったぞ」


 リチャードの態度に満足したのか、溜飲を下げたのか、レイヤは自分が持っている情報を、教えた。


「お!それなら・・・」


 リチャードは、刀を装備するのが夢だと常日頃から言っていた。

 ユウキやレイヤやサトシが、日本から来ていたことを聞いて、刀の作り方を知らないか、何度も何度も問いただした。レナートで使っている武器は、直剣だが最初のころは、無理して作ってもらった刀もどきを装備していた。さすがに、強度が足りなくて終盤では力不足になってしまって、直剣に切り替えた。


「だが、いろいろと材料に制限をされてしまっているらしい」


 これは、この拠点が抱えている問題の一つだ。

 食料などは、入手できるのだが、素材になりそうな物資が不足している。


「ん?それは?」


「いやがらせだ」


 行政が、手を出せない場所になってしまっている。

 同じように、大手と言われるような企業が手を出せない状況で、物流が止められてしまっている。実際には、買い物はユウキが遠くの場所に移動して購入してくるので、困らない。仕入れもさほど困らないのだが、特殊な物の購入が難しいのは事実だ。

 小売りは、制限されていない。


「ユウキは?」


「レナートから持ってくる事を考えている。それに、日本で刀を使うのは無理だけど、レナートならいくらでも使える」


 日本では所持は難しいが、レナートなら問題はないと考えている。

 実際には、解決しなければならない問題があるが、なんとかなると思っている。


「ミスリルは、こっちでは使えないのだろう?」


 リチャードがレナートでは、優秀な素材になっているミスリルを例にあげるが、ミスリルを使った武器や防具は地球でも性能を発揮したのだが、素材となってしまうミスリルを加工した時点で、純度が高いシルバーとなってしまった。レナートで加工を行えば、ミスリルとして装備品になるのだが、地球で加工を行うと、なぜか素材としての質が変わってしまう。

 マイやサンドラやアリスが調べているが、理由は解っていない。


「それらを含めて」


 ドアがノックされる。

 ユウキが戻ってきた。


「おっ!ユウキ」


 部屋に入ってきたユウキに、リチャードが喰い付く。

 丁度、ユウキに話を聞きたいと思っていたので、丁度よかったのだ。


「ん?リチャード?どうした?」


「レイヤから、”刀鍛冶が来る”と、聞いた所だ」


「あぁ・・・。丁度良かった。レイヤ。リチャード。俺は、レナートに行ってくる」


「ん?素材の採取か?」


 ユウキは、開いているソファーに座って、どこから取り出したか解らないが、ペットボトルに入ったお茶を飲みだした。


「拠点の整備で、レナートの素材が必要になった。特に、魔石だな。施設に関連する物を|向こう《レアート》で作ってくる」


 ユウキは二人に、足りない素材/物品の説明を始める。

 レイヤとリチャードは、ユウキの話を聞いては居るが、具体的に何が不足しているのか判断ができない。


 二人の反応が鈍いことには気が付いていたが、ユウキは説明を続けた。


「こんな所だ。あと、レイヤ。レナートに行く前に、墓参りに行く」


「墓参り?」


「あぁ。素材を集めて、帰ってきたら準備を始める。その報告だ」


「わかった。ヒナは抑える。サトシとマイは、事後報告なら問題はないな」


「すまん。頼む」


「一人で大丈夫か?俺だけでも着いて行くか?」


「大丈夫だ。それに、本当に墓参りだけだ。そのまま、レナートに行ってくる」


「わかった」


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