入ってきた担任の先生は、皆の騒ぎを見ていたようで少し険しい表情で教卓に立った。
「楪先生ー、さっきの着ぐるみの人は誰だったんですかー?」
クラスの一人の男子が、先程の着ぐるみについて質問を投げ掛ける。
担任……楪先生は、質問した男子を見ると呆れたように話し出した。
「先程の方はまだ見つけたばかりなのに特定できるわけないでしょう」
「あ、そうか。スミマセン」
男子は恥ずかしそうに手を下ろした。
時は、グラウンドを見たが着ぐるみはおらず無人と化していた。あまり気にはしなかったが、雰囲気が何処か知っているような気がして内心薄気味悪さを感じた。だが本当は "気にしたくなかった" の方が正しかった様にさえ思える。着ぐるみなので顔は分からないが、仕草が前に見たことがあり、苦手な雰囲気を漂わせていたからだ。
「……く……夜…………。黒夜君?黒夜君。こら!黒夜 時!」
「え?」
「聞いてなかったの?……この問題。この問題を解きなさい」
時は、いつの間にやらボケッと外を見ていたようで授業が始まっていることに全く気づいていなかった。慌てて席をたつとホワイトボードに向かい、問題を解くと自身の席に戻った。
「はい、正解です。ちゃんと理解していますね」
楪先生は赤ペンで○をつけると、解き方の解説に入った。
時は、疲れたというようにため息をついた。
「と~き……時、凄いね」
向日葵は、感心した様に小声で話しかけてきた。
「冬ちゃんも、そう思うよね」
「何でテストじゃ赤点ギリギリセーフなんだか」
冬樹は、肘をついて悪戯笑みを浮かべながら時をからかう。
――解ってて言うな
鋭い目線で伝えると、冬樹は全く気にしていない様子でニコニコしながら姿勢を元に戻した。
向日葵は、不思議そうに見ていたが、時をチラッと見ると、前に向き直る。
二人を見届けた時は、また外を向くとぼんやり外を眺めた。小鳥が枝に止まり何かを求める様に空高く囀ずりながら見上げている様子に寂しげな視線を向けると、甦る記憶を振り払うように微かに俯き前髪で表情を隠したまま静かに晴れ渡る景色を見つめ続ける。
その後、授業はたんたんと進み一講目が何も変わらずに終わった。
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