少女は怪訝そうに時を睨み、落ちていた時の鞄を拾うと埃をはたき、目の前に差し出した。
「まぁいいわ。機会はいつでもあるし今は礼を言っとく。……命がけで止めてくれてありがとう……。でも勘違いしないでね、本当は死にたかったんだから」
「はいはい、どうも」
時は、鞄を受けとると立ち上がった。先程体を外壁にぶつけたため体が少し痛むが歩けない事はない。
少女は、立ち上がる時を見つめると踵を返して学校の方角へ歩き始めた。
――気の強い女……
そう思いながら時も同じ方角へと向かった。
すると少女は立ち止まって振り向き、時を見つめた。
「名前」
時は、意味がわからず「は?」と疑問をぶつける。何故、今名前を聞きたがるのか理解出来なかった。
少女は、時の態度に良い印象がなかったのか目を座らせた。
「貴方の名前よ。何?」
「普通、自分から名乗るだろ」
時は、お構いなしと少女の横を通りすぎようとしたが、少女は腕をつかんだ。振り払えなくもない力だったが、少女の真剣な顔に動揺してしまい見つめ返す事しか出来なかった。
「話は終わってないわよ!……雫。緋葉 雫よ。貴方は?」
少女は、意外にも突っかからず名前を紡いだ。
少女の正直な態度に、時は引くに引けず視線を反らすと名前を言った。
「……時……黒夜 時……」
「時……時ね。これも何かの縁かもしれないから覚えておいてあげる」
「……それはどうも」
少女は、微かな笑顔を向けると偉そうに言いながら腕を離し、背を向けて学校へと歩き始めた。
時は、後ろの方を歩きながら溜め息をついた。突然の自己紹介に正直に答えてしまったが、何を思って名前を聞いてきたのだろうか?
だが少女……緋葉の正直な笑顔は可愛いと思った。
時と緋葉は、その後は言葉を交えず学園へと向かった。
緋葉は、先程の死にたかったという言葉を放ったとは思えないほど普通に歩いており、何処にでもいる少女そのものだ。何故死にたがっていたのか分からないが、先程の剣幕を考えると本気だった事が伺える。
時は、小さく溜め息を漏らした。
ーー死にたい……か……
時は、空を見上げると緋葉の背中を見つめながら学校へと辿り着いた。
今日の出来事が、時の人生の歯車を回す瞬間だと、その時は気づかずに。
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