時は、冬樹をジト目で見ると向日葵に向き直り、前髪に触れると申し訳なさそうに手を合わせた。
「悪い、名前は聞いてないんだ」
「ふぇ?」
向日葵は、意味が分からないという顔をして首を傾げる。
「あのときは焦ってたし……すぐ別れたからさ」
時は、嘘をついた。向日葵の性格を考えると、正直に話してしまった場合何かヤバイ事になりそうな気がしたからだ。
向日葵は、そんな時の言葉に満面な笑顔を向けると、何故かポケットからナイフを取り出した。
時と冬樹は、言葉を失ったように硬直する。
向日葵は、ナイフを太陽の光にかざしながら笑うと、顔を時に近づけた。
「ねぇ……何で嘘つくの……時」
「?!」
向日葵の言葉に、時は息を呑む。
教室の明るいざわめきだけが耳に入ってくる。まるで、自分の周りだけ時が止まってしまったかのような感覚に襲われ背中に冷汗が溢れてきた。
「クスッ、時は嘘つくとき必ず髪触るもんね」
向日葵はナイフをポケットにしまうと、笑いながら時の机に肘をたて微笑んだ。
「でもすぐ別れたのは本当なんだね。じゃあ、またその自殺志願者さんに会えたら向日葵にも紹介してね?絶対だよ?約束だよ?時と私の約束だからね?」
向日葵は、時に指を立てながらせがんだ。時が焦りながら頷き指切りをすると、納得したのか向日葵は前に向き直る。
時は、安堵したがそれは束の間だった。
「ねー、あれ誰だろう?」
向日葵がクルッと振り返ると、窓の方を指を指す。冬樹は、時の方に来ると指差す方を見つめ、時も見つめた。
時の教室は、丁度グラウンドが見えるのだが、グラウンドの真ん中辺りに学生服ではなく、猫か兎とおもしき着ぐるみが立っていた。
「……誰だ?」
「さぁ?時の知り合いじゃないの?」
冬樹は、首をかしげながら時に視線を落とす。
時は、上目使いで冬樹を睨む。
「何で、俺の知り合いになるんだよ」
「そうだよ!時は動物好きだけど、いくらなんでも、あんな変な人と知り合いなわけないでしょ!」
「……はぁ……」
頭を抱えたくなった。
そんな時、着ぐるみが此方に手を振り頭をペコンと下げる。時は、興味無さげにホワイトボードに向いた。だが、周りの連中が騒ぎはじめた。
「え?あれ誰?」
「何で手、振ってんだろうね?」
「あ!先生が向かった」
ギーン!ギーン!ギーン!ギーン!
チャイムの音が教室の中に響くと、担任の先生が入ってくる。皆は、慌ててパラパラと自分の座席に戻って行く。
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