「わ……悪い……」
座り込んだまま素直に謝ると、緋葉はバツが悪そうに目を泳がせた。
「……えっと……い、いいわよ別に……言い過ぎたわ……」
緋葉は、スカートに付いた土埃をはたくと時に手を差し出した。
時は、その手を取ると静かに立ち上がる。
二人とも怪我はないようだが、どう切り出せばいいか迷ってしまい押し黙ってしまう。居心地の悪い沈黙を破ったのは緋葉の方だった。
「ところで、何で探してたの?」
緋葉の率直な質問に、一瞬どう答えようか迷ったが、ここは素直に言っておこうと正直に事情を話した。
「成る程ね。貴方も、お人好しなのか馬鹿なのか」
話を聞き終わった緋葉は、呆れ気味に感想をのべた。
時は反論ができず視線をそらす。そんな態度にため息をついたが、すぐに微笑を浮かべる。
「まぁ……今朝の後の今じゃ、そう思われても不思議じゃないけど真っ先は失礼ね」
「う……」
「第一、私が死んだところであなたには関係ないのに、どうして探しに来たのよ?」
だが、次の質問には時は答えず俯いてしまう。表情は前髪と眼鏡で良く見えないが思い詰めたように口を閉ざしている。
緋葉は、不思議そうに見つめていたが、直ぐに諦めると薄桃色で白色のレースの付いたハンカチをスカートのポケットから取り出した。
「ほら、手出して」
緋葉の指差す先には、時の手の甲があり、そこからは血が滲み出ていた。恐らく、先程助けたときに地面に擦れて擦りむいたのだろう。先程まで痛みはなかったが、気づいた途端にズキズキと痛みが走り出す。
「こんなの何でもないから」
時は無愛想に手を後ろに退いた。
だが、緋葉は眉を寄せると退けた手を掴んで自身の前に無理矢理持ってこさせる。
「あなた本当に可愛くないわね!このまま上げときなさい!」
緋葉の鋭い剣幕に、時は大人しく手をそのままにして従った。
その間に、緋葉は薄桃色のハンカチを三角に折り曲げ、端を更に折って全体を細くしていくと傷が隠れるようにそっと巻き付けた。傷に響かないように優しく縛ると納得したように頷く。
時はハンカチに巻かれた手を見つめた。
「こんなものしか無いけれど、無いよりはましでしょう。後でちゃんと保健室に行きなさい」
「…………ありがと」
「…………」
時は小さくお礼を言ったが、緋葉は、あり得ないものを見たように驚いた表情で見つめていた。
「何だよ?」
居心地の悪い視線に時が不機嫌そうに言うと、緋葉は困ったような表情になった。どうしようかと考える素振りをしたあと、直ぐに真顔になり少し上目使いで時を見据える。
「いや……あなたに素直にお礼言われると気持ち悪いわね」
「そっちこそ可愛くないな」
時のつっけんどんな言葉に、緋葉は突っかかりそうになったが頬に可愛らしい絆創膏が貼ってあるのに気づくと表情が曇る。
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