「驚いたみたいね、ついでに言うと孫娘もいなくなったの、名前は確か───」
「エリス・シェフラー……マデリーン高校に通うたった一人の孫娘だ」
「アデル、知ってるの?」
「ジュディン・シェフラーと言えば、次世代コンピュータ開発の権威さ。ま、噂では目に入れても痛くないほど孫娘を可愛がってるって話だ。メディアの取材、誌面なんかにたまーに並んでんのを見かけっどもな」
「で、その情報をアデルに知らせて、今度は何を企んでやがんだ、莉子」
暁 将冴が、口を挟んだ。
「やあねえ、何も企んでやしないわよ、人聞き悪い事言わないで将冴、アデルなら乗るでしょ、ねえ」
「その前に、次世代コンピュータってなんだ、え? 大金が拝めるのか」
と、コンピュータには全く疎い将冴が興味を示した。
「なあに、量子コンピュータのことさ」とアデル。
「量子コンピュータ?」と将冴は聞きなれないワードに続けて訊いた。
アデルは姿勢にあぐらをかき、続けた。
「人工衛星に積んでるのは、思うに世界の軍事バランスを一夜にして変えちまう『量子暗号衛星』だ。どんな複雑な暗号もたちまち解読しちまう。敵国の軍事力を無力化できるばかりか、ハッキングも自在だ。ということは、核ミサイルを自国に向けて撃つ事も可能ってことさ。旧約聖書の週末の始まり、ハルマゲドンを起こす事も、理屈では、世界を支配するのも可能だ。つまり、それくらい危険な代物ってことさ」
アデルは、立ち上がって、あっけらんと言った。
「───将冴、次の仕事は決まったぜ」
「軍に手を出すってのか、アデル、そいつは賢くねえ」
「なあに、ワケあり爺さんと孫娘を探し出して、よくない輩にわたる前に、俺たちで頂いちまおう。何も新世界の神になろうってんじゃない、あくまで平和利用さ、世界中の金庫が開けほー題、盗人なら夢があるってものさ」
「そこまで知ってるなら、もってきた情報も形無しねえ」
と莉子が、呆れたように言った。
「いや、上等上等、おかげで博士が行方くらましたワケ、わかりそうだ、莉子ちゃんありがと、んーまっ!」
と投げキッスを莉子に送って、右手をグー・パーしながら開かれた扉から廊下に出て行った。
「あーあ、アデルのヤツを上手く炊き付けやがったな、莉子」
「まあ、今度ばかりはそう簡単にはいかないと思うけど、こんなところでブラブラしてるアデルよりマシでしょ」
そう言って莉子も出て行った。
「今度のヤマには沖田のヤツも呼んどいた方がいいかもな」
祥吾はテーブルのウイスキーのダブルロックをぐいっと呷った。
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