アスライア国、キャリオシティ州、カナベル航空宇宙局、宇宙港台地。
時は先の横断歩道事故から三日前時点にさかのぼる。
ここは、センター科学衛星ロケットの発射場。
総敷地面積は九百八十万平方メートル、東京ディズニーランドおよそ二つ分の広さ。
国の南端の海岸線に面しており、連なる山並みの山腹を切削して建設されている。
今、衛星を載せた、デルタ・ロケットが、宇宙へ飛び立とうとしている。
カウントダウン。
・・5・・4・・3・・2・・1 ゴオッ
発射。
午前十時二十四分、地響きをあげ唸りながら、濛々と煙を巻き上げ、ロケットが打ち上る。
『加速度七G、二段プライマリースラスト点火』
『加速度〇.三G』
『二段目分離!』
『加速度七G、三段プライマリースラスト点火』
『加速度八、十、十二G』
ズドドドド・・・・
『ノーズフェアリング、オープン!』
『衛星切り離し! スピン開始!』
『太陽電池パドル展開します!』
『楕円軌道から、地球周回軌道へ投入! 打ち上げ、成功しました!』
「ワアッ!」
地下の管制室の運用管制員からは一斉に歓声があがった。
「Dr.シェフラー、貴方にも見せたかった。私たちは貴方の大いなる貢献を忘れてはいません」
管制室の計画責任者のカール・ステファノが神妙な面持ちでそう呟いた。
彼の歳は五十代半ば、眼鏡の奥には理知的な灰色の目、髪は砂色。
切り離された人工衛星『スタリアス』は、第一宇宙速度、時速約二万八千キロ、高度五百キロメートル、漆黒の宇宙、地球周回軌道上を滑るように飛んでいく。
───と、その時だった。
突如として、数あるモニターから次々光が消失し、計器類が軒並みゼロを指す。
衛星を捉えた巨大スクリーンも映像を喪失した。
オール、シャットダウン、スクリーンOFF。
管制室内が大きなざわめきがおこった。
「どうしたんだ? 停電か?」
「いや、万が一停電があってもバックアップ電源にすぐ切り替わるハズだ」
「スタビリティマーカー、ロスト! 全てブラックアウト!」
管制スタッフらが、懸命にデスクコンソール上で、あれこれ復帰を試みるが、何をどうしても、現状が回復できない。
「大変だ!スタリアスのアクセス権も失っている。復旧プログラム急げ! 一体なんだっていうんだ。こんな事態、経験したことがない!」
───場面代わって、スザク州、ミルシテイン病院。
高い天井。個室の空きベッド。カーテンのわずかな隙間から太陽光が漏れている。
ベッド床には誰もいない。さっきまで人が寝ていたのは確かなようだ。
床には、シューシューと空気の漏れる酸素吸入器のマスクが投げ置かれていた。
ベッドのフレームに架かるネームプレートには『ジュデイン・シェフラー』と記されていた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!