「レナには渡せたんですけど、剣の方が渡せませんでした……黒い剣は俺が使って砕かれてしまって、この剣だけが残りました……」
「そうか。あの剣は砕け散ったのか……」
「すみません……」
出雲が俯いて謝ると、鍛冶屋の男性が謝ることじゃないと言う。
「壊れる剣を作った俺が悪い。お前は悪くない」
「ありがとうございます……」
出雲が謝ると、鍛冶屋の男性が白銀の剣の剣身をじっくりと見始める。
目を見開いて剣身から握りまでを、穴が開くと思えるほどに見続けているようだ。その様子を見ていた出雲は動いていいのかわからずに、ただ立ち続けるしかなかった。
「ふむ……この剣も失敗作だな。こんな剣を俺は戦場で戦っているあいつらに渡そうとしていたのか」
鍛冶屋の男性が剣を鞘に入れると、深いため息をついた。
「ど、どうかしたんですか?」
「俺はこんなダメな剣を打ったんだなと、自己嫌悪をしてしまってな。剣や刀を打った時は最高傑作だと思ったのだが、こうやって改めて見ると改善点がまだあるなと思ってな」
「改善点ですか?」
「そうだ。鍛冶師の秘密だが、こうこの剣身がな……」
鍛冶屋の男性が指で剣を触りながら小さな声で呟き始める。
出雲は色々あるんだなと思いながら鍛冶屋の男性を見続けていた。すると、鍛冶屋の男性がお前の名前を聞いていなかったなと話しかけてきた。
「お、俺ですか? 名前は黒羽出雲です」
「出雲か。俺の名前は加治屋一徹だこれからよろしくな」
「はい! よろしくお願いします!」
お互いに自己紹介を終えると、一徹がどこからか折れている剣を取り出した。
その剣を見た出雲は俺のやつだと声を上げてしまう。
「ん? これはお前のなのか? 虎徹さんから川に流れついていた剣って聞いていたんだが」
「俺が魔族と戦った時に使っていた剣です! 魔族の攻撃でヒビが入っていたんですけど、俺が川に流されている時に失くしてしまった剣です……まさか真っ二つに折れているなんて思いもしませんでした……」
折れた剣を見て、出雲は久遠に会った時に何て言おうか考えてしまう。
素直に折れたと言うか、魔族に折られたと言うか悩んでいるようだ。
「この剣と俺の打った剣を混ぜ合わせないか? 折れたといってもあの魔族の武器と戦えていた剣だ。俺の打った剣と合わせたらより強固な剣になるだろう」
「強固な剣ですか?」
「そうだ。俺の打った剣の問題点を洗い出して、この剣と混ぜて新たな剣を俺が打つ!」
久遠から貰った剣と一徹が打った剣と混ぜると聞いた出雲は、専用の武器がない現状は辛いので打ってもらおうと決めた。
「是非お願いします! 俺専用の武器を打ってください!」
「おう! 俺の鍛冶師生命をかけて打ってやるよ! 任せとけ!」
「よろしくお願いします!」
頭を下げた出雲はそのまま移動をしようとすると、一徹がそうだと言って呼び止めた。
「配達士としての活動もするんだよな?」
「あ、そうです。先生にお金を払わないといけないですし、本業は配達士なのでそれを行いながら剣術の練習もしようかと思いまして」
「ならこの手紙を鍛冶工房に届けてくれ。場所はわかるか?」
「いえ、まだわかりません……」
一徹は店から出ると、出雲に鍛冶工房の場所を教えようとする。
「鍛冶工房は村の外に作られていてな。このまま真っ直ぐ東の方向に進むと、東門が見える。門を抜けた先にある川沿いを進むと工房が見えるはずだ。そこにいる主任って呼ばれている男に渡してくれ」
「わかりました!」
場所を聞いた出雲は、手紙を受け取ると東門を目指していく。
報酬のことを言い忘れたと思ったが、剣を打ってくれるからそれでいいかと思うことにした。
「さて、東門はこっちだな。村は結構広いから行くまでで一苦労だ」
この村に何人暮らしているのか、村の広さはどれくらいなのか、村人の名前はどのような名前なのか未だに出雲は知らない。
いつかレナに聞いてみたいと思っているが、なかなか聞く機会がない現状なので聞き忘れないように気を付けようと決めている。
「日が暮れてきたけど、村人の姿が多いなー。どのように一日を過ごしているんだろう?」
村での暮らしが気になり始めている出雲。
大和国に比べると技術は劣るが、それでも高水準の技術を持っていると来てから見ているだけで理解が出来る。
「魔人族は独自の文化や技術を高めて、外からの技術も取り入れているのかな? 遠征部隊とかいそうだな」
そう考えながら東門に向かうと、茶色いフードを被って出雲の身の丈に届きそうなリュックサックを背負っている10人以上の集団とすれ違った。
「もしかして遠征して外の情報などを集めている人達なのか? 考えすぎかな?」
1人で考えてもわからないと思った出雲は、とりあえず仕事のことを考えることにした。
「この東門を抜けた先だな」
先程の集団が扉を開けているので、空いた隙間から外にだ出雲は外側から門を閉める。門を抜けた先を歩き続けると、頬を撫でる風と綺麗な澄んだ空気が美味しいと感じる。
「澄んだ綺麗な空気と川を流れる水の音で癒される……この世界にこんな場所があったなんて思わなかったなー」
森の中を流れている川沿いを説明を受けたように進んでいく。
周囲を見渡しながら進み続けていると、次第に金属を打っているかのような音が耳に入ってくるようになった。
「音が次第に大きくなってきた。川沿いにある洞窟を工房にしているみたいだな」
目線の先に入ってきた洞窟には男女合わせて10人の職人が働いているようである。洞窟に入る出雲は、一徹さんからの届け物ですと声を発した。
「すみませーん! すみませーん! お届け物でーす!」
金属を打つ音や水が蒸発する音によって出雲の声が掻き消されてしまう。
それでも言い続けると、1人の女性が出雲の存在に気が付いた。
「誰ですか? ここは一般の人は立ち入り禁止ですよ?」
「あ、俺は黒羽出雲です。一徹さんからお届け物がありまして」
出雲の名前を聞いた女性は人族の少年ですかと呟くと、手紙を受け取った。
出雲の前にいる女性は腰までかかる黒髪をしており、顔は汗まみれであるものの切れ長のその目を持つ端正な顔立ちをしていた。
「これは健一宛てですね。一徹さんの息子さんなんですよ」
「あ、そうなんですね! よろしくお願いします!」
女性は届けますからもう大丈夫ですよと言い、工房の奥に消えていった。
「流石職人だな。服の上からでもわかる筋肉をしてスタイルも良かった。工房で人気だろうな」
あんな女性もいるんだなと思いながら出雲は一徹のもとに帰っていく。
とりあえず届けたと報告をしないといけないと思い、来た道を引き返すことにした。途中川沿いを歩いていると、護衛部隊と思われる人達が出雲の前を通り過ぎていく。
「あ、ノアさん達だ」
出雲のその声を聞いたノアは立ち止まった。
「何だお前か。こんな場所で何をしているんだ?」
「配達の仕事をしていました。ノアさんこそ何を?」
「あそこにある工房の近くに魔物が出たと聞いてな。護衛部隊の数名で魔物が出た場所に向かうところだ」
「そうだったんですね……」
ノアは先を急いでいるのでなと言い、その場から離れていく。
「俺は行かなくていいよな……配達士だし……」
武器がない現状では何もできないので、出雲は一徹のところに向かうのを再開した。村に入ると村人がまた魔物が出たらしいと噂をしている姿が目に入る。
「また魔物が出たらしいわよ。近くに鍛冶工房があるわしいわ」
「あそこを襲撃されたら村を守る武器が作れなくなるし、私達の家事道具も流通しなくなるわよ」
初老の女性達が大きな声で話している声が出雲の耳に入る。
気にしないと思いながら道を進むと、初老の女性達が人族が来てから良いことがないわと出雲を横目で見ながら話し続けていた。
「俺が原因じゃないし、俺が悪いわけじゃない……」
そう何度も呟きながら、一徹のもとに歩き続けた。
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