「おう、戻ってきたか! ちゃんと届けられたか?」
「あ、はい。黒髪で長髪の女性に渡しました」
「琥珀か。あいつは不愛想だろ? 最近筋肉が付いてきて嬉しいけど嫌だとか言っていたな」
豪快に笑う一徹を見て、出雲はそう見えなかったけどなと呟く。
「ま、工房以外の人だから不愛想にはしなかったんだろう。さて、お前の剣だがまだ時間かかるな。1ヶ月くらいはかかると思ってくれ」
「1ヶ月ですか……わかりました」
「そうだ。報酬を渡してなかったな。いくらだ?」
「報酬って?」
「配達してもらった代金だよ。配達士なんだろう?」
配達士と言われて一徹がちゃんと見てくれていることが嬉しかったのでお金を受け取ろうとは考えていなかった。
剣を作ってくれるので、それが代金変わりでいいと考えていたのである。
「お金はいりません。代わりに最高の剣をお願いします!」
最高の剣と聞いた一徹は目を見開いて再度豪快に笑った。
突然笑い出した一徹に驚くも、何かあったんですかと話しかけた。すると一徹が金を要求しないなんて驚いたわと笑いながら出雲に言う。
「そうですか? お金より重要なものがあると思って」
「そうか。それでもいいな」
重要なものかと言っている一徹は、出雲を目を見て任せろと自身の胸を叩いて言ってくる。
「ありがとうございます! 大切に使います!」
「大切に使わなくていいから、守るために使ってくれればそれでいいさ。人族と魔人族の懸け橋になってくれよ」
「わかりました! ありがとうございます!」
感謝の言葉と同時に頭を下げた出雲は、一徹に帰りますと言って家に戻っていく。 既に日が暮れ始めており、村の人達はメイン通りで夕食の買い出しをしているようである。
「魚に肉に野菜か。結構幅広い食材が売っているんだな。でも金がないから俺は何も買えない……」
食材を見た途端に腹部から音が鳴り始めた。
お腹が空いたと言いながら、家にある干し肉で我慢をするかと自身に言い聞かせて家への道を歩くと、虎徹から譲り受けた家の明かりが灯っていた。
「え!? もしかして泥棒!?」
消したはずの明かりが灯っているので、慎重に家の扉の張り付く。
どうやって家に入るか考えていると静かに扉が開いてレナの姿が現れた。
「れ、レナ!? どうしてここに!?」
家から出てきた姿を見て驚いている出雲に、レナが驚きすぎよと鈴が鳴る声で笑っていた。
「1人で暮らすことになるんだし、もしかして保管してあるであろう干し肉で夕食を済まそうとしていると思ってね。夕食を作りに来たのよ」
「まさかの手作り!? 手作り料理なんて初めてだよ! ていうか、まだ左腕治ってないでしょ? 大丈夫なの?」
「それなら気にしなくていいわよ。このくらいなら料理を作れるわ」
そう言ってレナは家の中に出雲の入れる。
リビングに移動をすると、家を出る際に散らかしていた紙などが綺麗に机の上に纏められていた。
「出雲君が散らかしていたから綺麗に整えて置いたわ。まさか床に配達士のことを書いた紙を置いておくとは思わなかったわ」
「ごめんよ……一徹さんに返す剣があってそれを返しに行っていたんだ」
「そうだったのね。とはいえ、ちゃんと書類は整理しないとダメよ?」
「ごめんなさい……」
謝った出雲はリビングに設置してあるダイニングテーブルの椅子に座った。
レナは出雲が椅子に座ったのを確認すると、リビングの右奥にあるキッチンに移動をした。
「もうすぐ夕食が出来るからおとなしく待ってなさいね」
「はーい」
その言葉を発すると、キッチンで料理をしているレナを見て可愛いなと感じていた。人族と魔人族であるが仲良くなってもいいのではと次第に思い始めていた。
しかし、未だに村の人々に認められていないのでまずはそこからだなと出雲は考えていたのである。
「さ、カレーが出来たわよ! 私特製の美味しいカレーです! サラダもあるからね!」
「おお! カレー美味しそう! 少し甘い匂いもする! これってリンゴ?」
「よく気が付いたわね! そうなの! リンゴとか果物を隠し味で使うと美味しいのよ!」
「仄かにリンゴの匂いがするけど、これは隠れているのかな?」
「ちっちゃいことは気にしないの! さ、食べて食べて!」
レナが皿の上に盛り付けたカレーとサラダを出雲の目の前に置く。
目の前に置かれたカレーとサラダからはとても美味しそうな匂いが出雲の鼻腔を刺激する。
「良い匂い……いただきます!」
木製のスプーンを手に取って、カレーを一口食べる。
「辛さの中にリンゴの甘さがあって、とても美味しくて食べやすい! ありがとう!」
「どういたしまして。さ、私も食べますかねー」
レナは自身のカレーとサラダを盛り付けて、出雲の真向かいの椅子に座った。
そこでカレーを食べ始めると、レナがやっぱり美味しいわと自画自賛をしている姿が出雲の目に映る。
「料理はお母様に少し教わってね。後は独学よ」
「そうなんだね。あ、虎徹さんはいるけどお母さんは今どこにいるの?」
お母さんはどこに。
その言葉を聞いたレナは、魔族に殺されたわと言う。
「お母様は、私が子供の頃にこの村に深手を負いながらも襲ってきた魔族に殺されたわ……私が襲われそうになった時に庇って……」
「そうだったんだ……」
「魔族は正直憎いわ。でも、私が弱かったせいでお母様が殺されてしまったから強くなろうってその時に思ったのよ」
突然レナの悲痛な過去を聞いた出雲は、魔族はやはり恐ろしい種族なのだと確信をした。
「護衛部隊を創設して、ノア達兄弟を中心に組織を作ったわ。魔人族はそれまで防衛組織を持っていなかったからお父様と協力をして自衛力を持つ組織として機能をしているわ」
「そんな理由があったんだね……それでレナは前線で戦ってきたんだ」
「作ると声を上げたのに後ろで隠れてちゃダメだからね。たまに今みたいに怪我をしてノア達を困らせちゃうけど」
舌だして笑顔を出雲に向ける。
今までの話を聞いた出雲は、強い女性だとレナのことを見て思っていた。自身が小さなことで一喜一憂をしている中で、レナは自身より辛い世界を生きていたんだと泣きそうになっていた。
「出雲君が泣くことはないわよ。今の私はお父様や村の人々がいるから幸せよ? それに同い年の出雲君がいるんだから」
「そうだけど……俺よりも辛い過去があるなって思って……」
「出雲君の過去ってなに?」
レナが過去を聞こうとすると出雲はまた今度ねと話を終わらせた。
「そのうちちゃんと教えてよね」
「わかったよ。そのうち言う機会があればね」
2人はその後も他愛もない話をしながら夕食を進めていく。
出雲は食べ終えると美味しかったよとレナに言った。
「お粗末様でした。美味しく食べてくれてよかったわ」
「レナが作るものなら美味しいよ」
「それはよかったわ」
出雲は食器を持つと、キッチンの横にある洗い場で食器を洗っていく。
既に水を貯めてあるので皿を水に浸けて汚れている部分を洗い、水が汚れれば蛇口を捻って水を足していく。
「やっぱりこれ面倒だわ。昔よりは水と電気は発展したけど……上を見たらキリがないわね」
「確かに水道とか電気とかが充実すれば暮らしやすくなるよね」
「お父様が色々準備をしているらしいけど、魔人族の村だし簡単に他の国の人を入れられないから大変みたい」
魔人族の村が他国の人に知られてはいけない理由が理由なので、簡単に人をれられない理由が出雲にはわかっていた。
「俺がこの村に置いてもらえるだけ奇跡なんだね」
「奇跡って言うか、私がお願いしたこととか少なからず一緒に竜人と戦ったかことが大きいと思うよ」
「そういう理由だったんだ……どんな理由でも認めてもらったのは嬉しいよ」
小さく笑って嬉しいと言うと、レナが私もよと言った。
「さて、片付けも終わったことだし私は帰るわね。明日から本格的に配達の仕事をしましょう!」
「うん! よろしくね! 宣伝をしてくれるんだよね?」
「そのことだけど、私も配達の事務として働くことにしたわ。出雲君1人じゃこの村のこともわからないだろうし、私がいればみんな話しかけてくるから役立つわよ。それに、剣術の訓練もうするのよね?」
「何から何まで悪いよ! 訓練はするけど、1人でできると思うけど……」
口籠った出雲にレナが甘く見ちゃダメよと言う。
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