「そっちの男性が先だ! 女性の方は傷がまだ浅い! 治療の優先順位を付けてくれ!」
「わかりました! すみませんが、待っていてください!」
医師と看護師は治療の優先順位を付けながら重症の護衛部隊の人達の治療をしていた。護衛部隊の人達は出雲が思っていたよりも人数が多かったようで、男女様々な年齢の人達が所属をしているようである。
「先生! レナを! レナを見てください!」
ノアが忙しなく動いている医師に話しかけると、順番があるんだと一蹴されてしまった。しかしそれでもレナを助けてくださいとノアが言い続けると、医師がレナ様だとと名前を発した。
「しかしレナ様なんだ! レナ様が今にも死にそうなんだ!」
「は? レナ様だと!?」
医師が大急ぎでレオの前に出ると、背中に背負っているレナの様子を見た。
「どんな怪我をしているんだ?」
「左腕と腹部から出血が酷いです!」
「とりあえず空いているベットに乗せてくれ!」
1つだけ空いていたベットにレナが寝かされると、医師は酷い怪我だと頭を抱え始める。
「すぐに手術をしなければ死んでしまう! どうしてすぐに連れてこなかったんだ!」
「そこにいる少年と共に竜人と戦っていたらしいが、途中で倒されてしまったんだ!」
「お、俺は……」
レナの前で立ち止まっている出雲を医師がどかせると、お前は邪魔だと出雲を怒鳴った。
「レナ様はこの村の希望なんだ! レナ様が生きていないと魔人族の未来が潰える!」
医師が看護師と共にレナの手術を始めるとノアが行くぞと出雲に話しかけ、右肩を掴まれる形で診療所から出雲は出て行く。
「お前がレナ様を救えなかったからこうなった。いまにも死にそうなレナ様を見て何も思わなかったか?」
「俺は……俺が弱いせいでレナを傷つけてしまったと思う……だからこれから強くなろうと……」
その言葉を言った瞬間、出雲はノアに頬を殴られた。
勢いと力が強かったので出雲は地面に倒れてしまうと、唇が切れて血が垂れてしまう。
「お前の言葉は言い訳にしか聞こえない! これからこれからとお前はいつから強くなるんだ! またレナ様が傷つくのか!?」
2人が共に戦っている姿を見て、出雲の行動がレナの足を引っ張っていたとノアは感じていた。
「お前自身が弱いと理解をしたことは良い。だが、それからどうするかをお前は決めていない」
「俺は配達人だ……戦闘に勝利を届ける配達人としてこれからも戦うんだ!」
「なら配達の仕事をしつつ戦うことだ。レナ様を守れなかったお前をこの村の人達は見下すことだろう。まずは配達人として村人に認めてもらうことを優先にするんだな」
出雲はノアに言われたことを考えていると、立ち上がりながらやってみるよと言葉を発した。レナに教わっていた村長の家に向かうためにノアに別れを言った。
これからこの村で暮らすにおいて村長にレナの件も同時に報告をして、安定に活動が出来るように許可を貰わないとと考えていた。
「確か村長の家にはレナも住んでいるって聞いたな。村の西側にある家だって言っていたような……」
村長の家だから大きいだろうと思っていた出雲は、目の前に入った家を見て驚いてしまう。
その家には表札に柊と書かれていたので村長の家だと確認が出来たが、その家は2階建ての小さな木造の一軒家であった。
「これがレナの家? もっと大きいと思っていたな……」
出雲が家の前で小さな家だと言うと、背後から小さくて悪かったなと声が聞こえた。
「え、あ、ごめんなさい……」
「平気だよ。君が黒羽出雲君だね?」
「あ、はい。そうです」
返事をした出雲は、目の前に現れた男性を見て村長だろうと確信をした。その男性は茶髪の短髪をして長身で痩せ型であるものの、眼鏡をかけている。
一重のその目と鼻筋が通っているその顔は、目の前にいる相手の全てを見透かす理知的なイメージを受けた。
「娘のレナから話は聞いているよ。人族の男性であり、あの魔族と戦って倒したとね」
魔族を倒した。
その言葉を聞いた出雲は、正確には相打ちですがねと小さく呟く。
「まだ生きているかもしれませんから……相打ちですよ」
「それでもあの魔族と戦って致命傷を与えるのは凄いことですよ」
微笑を出雲に向けて話す村長は、まだ名前を言っていませんでしたねと言い始めた。
「私の名前は柊虎徹と申します」
「よ、よろしくお願いします!」
頭を下げた出雲を見た虎徹は、家に入りましょうと言う。
「ありがとうございます」
虎徹の後ろを付いていき家の中に入る。
家の中には生活感が溢れており、レナのと思われる靴が開いている下駄箱の中に多数置かれているのが見える。
「散らかっているが、気にせずに来てくれ」
虎徹が廊下を歩くと、リビングに案内をしてくれた。そこには木製の4人掛けの机に小さめのソファーが置かれている。
奥には食材や飲み物を保存するための特殊な長方形の箱が2個置かれていた。
「狭い家だが寛いでくれ。特産品のお茶があるから飲むかい?」
「ありがとうございます。いただきます」
緊張が頂点に達しながらも、ソファーに座りながら返事をしていた。
改めて周囲を見渡した出雲は村長の家だと言うのに大きな家ではなく、高級な家具などがない内装に驚いていた。
「村長の家なのに豪華じゃなくて不思議かい?」
「あ、すみません……」
顔を伏せて謝る出雲に虎徹が気にする必要はないと言いながら、ソファーの前に設置してある丸い小机の上にコップに注いだお茶を置いた。
ソファーは小机を挟む形で2つ設置してあり、小机を両側に出雲と虎徹は対面をする形で座っていた。
「とりあえず飲んでくれ。特産品の1つである桜というお茶だ」
「聞いたことがないですけど、この村には多数のお茶があるんですね」
そう言いながら出雲はコップを取って飲み始めた。
口の中に入れるとすぐに仄かに甘い香りが鼻に入り、次にお茶の苦みが現れた。
「これは美味しいお茶です……毎日飲んでいたいです」
「そう言ってくれると嬉しいな。ちなみにこれ一杯で500セタするよ」
お茶の料金を聞いた出雲は高いと驚いてしまう。
その言葉を聞いた虎徹は小さく笑って、料金は取らないよと言う。
「すみません……」
「そう謝ることはないさ。さて、落ち着いたところで話をしようか」
出雲は生唾を飲み込むと、一気に緊張をしてしまう。
「君はこの村のことを知っていたかい?」
虎徹は自身のお茶を飲みながら出雲に聞くと、それに対して知りませんと回答をした。
「そうか。この村の秘密は守られているようだな」
「知られては困るのですか?」
「この村は秘密でなければならないのだよ。ただ、今回の竜人の襲撃によって魔族に居場所を知られたかもしれないがな」
深いため息を拭く虎徹。
魔族と人族の末裔だからなのだろうかと出雲は考えていた。
「今まで魔物による襲撃は多々あったが、今回の竜人が主導をした襲撃は初めてだったのでね、それも相まって村の人々が慌てていたのだよ」
「竜人を見たのは2回目です。竜人の強さは底知れませんでした」
「魔族ほど強くはないが、竜人は強い。魔族に何かをされて配下となっているらしいが、された内容まではわかっていないのが現状だ」
竜人と戦った際に魔族のことを話した出雲は、その反応を見て何かを考えているのだろうと感じていた。
「村を守るために戦った際に、魔族のことを話したら何かを考えていたように感じました。竜人族はもしかしたら何かを考えているのかもしれません」
何かを考えていると虎徹に言うと、竜人族に動きがあるのかもしれませんねと真剣な表情をしていた。
「あ、娘のレナは無事ですか? 怪我をしたと聞きましたが」
ついに聞かれたと思った出雲は、正直に説明をすることにした。
「レナさんは俺と共に竜人と戦っていたのですが、左腕と腹部を斬られて現在重傷です……診療所で治療を受けているところです……」
「そうか……あの先生に任せていれば治ると思うが、それほどまでに重傷なのか……」
思い詰めたような顔をし始めた虎徹を見ている出雲は、謝った方がいいものかと考え始めていた。
自身が弱かったせいでレナが怪我を負ってしまったので、責任重大だと感じていたからである。
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