「手紙の配達は距離によって変えて、武器の配達は武器種や個数によって違うと……戦場への配達は設定料金を高めにして……これでいいかな?」
出雲はリビングから移動をして家の奥に移動をした。そこにはツインベットが置いてあり、夫婦で暮らしていたであろうと見てとれた。
ベットにダイブをして体を伸ばしながら、どう宣伝をしていくか悩んでいた。
「チラシを量産するのも労力がかかるし、かといって口で言いまわるのも大変だしなー」
唸りながら悩んでいると、閃いたと声を上げた。
「看板を作るか! それをあの大きな噴水の場所や商店街に置かせてもらってやろう!」
そうと決まればすぐに行動だと、ベットから飛び起きて家の外に出て行く。家の外には様々な枝が落ちているので、それを組み合わせて看板を作ろうとしていた。
「うーん……ちょうどいい感じのがないな……これじゃダメなのかな……」
早速躓いてしまうと、地面に座り込んだ。
これからやろうって時に躓いてしまったので、1人では何もできないのかと落ち込んでいたのである。
「どうしよう……あ、レナの手術どうなったのかな? とりあえず行ってみよう」
出雲は躓いてしまってアイディアが出てこないので、とりあえずレナの様子を見に行こうと思った。
「虎徹さんは気にする必要はないと言ってたけど、やっぱり気にしちゃうよ」
ズボンに着いた草を払い落とすと診療所に向けて歩き始めた。
歩いている途中、多くの村人とすれ違うが表情や仕草を見ていると少しずつ落ち着きを取り戻していると感じていた。
「村が襲われた時から結構落ち着きを取り戻したようだな。村の中を護衛部隊が走り回って警備をしているのも落ち着いた要因なのかな?」
出雲の目には武器を持って走り回っている護衛部隊の人達が映り、警備をしているんだなと感じる。
村人や護衛部隊の人達を見ながら道を進むと、魔人族の子供達が目に入る。その子供達は木の枝を持って何やら遊んでいるようであった。
「枝を武器に見立てて遊んでいるのかな? 護衛部隊に憧れているんだな」
魔人族の子供達を見て、出雲は元気がいいなと呟いた。
「子供の時は憧れなんて考える暇なかったもんな。生きるのに必死だったし」
当時のことを思い返した出雲は今と比べたら地獄だなと自虐をしていたが、そんなことをしても仕方がないと鼻で自身を笑っていると診療所に到着をした。
「診療所に到着しちゃったよ……レナ無事かな……手術終わって安静にしているといいな……」
胸に右手を置いて、手術が終わっていることを祈り始めた。
無事であってくれ、手術が終わって元気な姿を見せてくれと祈り続けていると唾を飲み込んで入ろうと決意をした。
「よし! 入ろう!」
その言葉と共に診療所の扉を開けようとした瞬間、扉が開いた。
目を点にして驚く出雲の目に映ったのはレナの姿であった。レナは左腕と腹部に巻いているようで、とても歩ける容体ではないと出雲の目に映っている。
「出雲君!? どうしてここにいるの!?」
「あ、いや、レナが無事かどうか気になって……」
「わざわざ来てくれたのね? ありがとう! 私は激しい運動は出来ないけど、先生のおかげで助かったわ」
助かったとの言葉を聞いた出雲はよかったと呟く。
自身のせいで重傷を負ってしまったレナが目の前で元気にしていることがとてつもなく嬉しいと感じていた。
「無事でよかった……安心したよ……」
その言葉と共に出雲はレナを抱きしめた。
「ちょ、ちょっと!? 急に抱きしめないでよ!」
「無事な姿を見たら安心しちゃって……」
抱きしめられているレナは、出雲の気持ちを聞いて嬉しいと感じていた。
同世代の人と知り合いがいなかったレナは、初めて対等な関係の男性に言われて心が温かいと感じている様子である。
「嬉しいわ、ありがとう……」
レナも抱きしめ返すと、出雲の力が強まった。
「俺は強くなるよ。この村で配達士として働きながら剣術の鍛錬もしていくから! もうレナを傷つけないようにするから!」
「ありがとう……その気持ち嬉しいわ……一緒に強くなりましょう! 配達の仕事手伝うからね!」
手伝うからね。
そう言われた出雲は嬉しいと呟く。まさかレナが配達の仕事を手伝ってくれるようになるとは思わなかったので、涙を流してしまっていた。
「な、泣いているの!? 大丈夫!?」
レナは出雲から離れると、ポケットからハンカチを取り出して涙を拭おうとした。
「大丈夫? 泣かないで……君は1人じゃないからね! 私やノア達がいるから!」
「うん……ありがとう……」
配達人として大人の世界で働いていた出雲だが、心は未だに子供である。
魔人族と戦い見知らぬ土地に流れ着いたことや、戦闘が立て続けに起きて知らず知らず追い詰められていたのであった。
レナの優しさに触れて張りつめていた糸が切れてしまい、人が沢山いる診療所の側で堪えられずに泣いてしまったのであった。
「落ち着いたかな? そんなに左腕を掴まれると少し痛いかな」
「あ、ごめん……」
すぐに手を離した出雲は、レナに家に帰るねと言った。
「家を手に入れたの!? お金あったの!?」
「虎徹さん……レナのお父さんに会いに行ったら家を紹介してくれたんだ。虎徹さんの両親が住んでいた家だって言ってたよ」
「あの使っていない家を譲ったんだね。あれは私の祖父母が昔に暮らしていた家で、週に1回お父さんが掃除をして綺麗にしていたんだよ」
掃除をしていたと聞いた出雲は、確かに凄い綺麗だったよと答えた。
「あそこに住むなら不自由はないね! 広いしリビングにダイニング、それにベットルームに客間もあるから平屋だけどかなり住みやすい家のはず!」
「そうだね! まさかあんなに広いなんて思わなかった!」
レナと話している出雲は自然と笑顔になっていた。
2人で話すことが楽しいと感じており、レナといると落ち着くとも思っていた。
「あれ? 配達士って言ってたっけ? 配達人じゃなかった?」
「ああ、それはね。虎徹さんが配達士と名乗った方がプロみたいだよと言ってくれて、そう名乗ることにしたの」
「お父様らしいわね。私も宣伝しておくから、今日は一度帰って体を休めた方がいいわよ? 出雲君も戦闘でのダメージはあるんだからさ」
レナに言われて体を触るも特に痛みは感じていなかった。どこが怪我をしているのだろうと自身の体を見ていると、両腕に痣や擦り傷が多数あった。
また腹部を触ると鈍い痛みを感じ、気が付いていなかったのねレナは微笑をしていた。
「戦闘中は意外と気が付かないものよ? あの竜人と戦っていたのだから、それぐらいで逆に良かったのかもね」
「そうみたい。配達の仕事をしながら俺はもっと強くなるよ!」
「その意気よ」
出雲はそれから他愛ない話をすると、それぞれの家に戻っていく。
レナが宣伝をしてくれるとのことでどれくらいの宣伝効果があるのかわからない出雲は、誰か来てくれたらいいなぐらいに考えていた。
「さて、明日の準備をしておこう」
家に到着をした出雲は、リビングに置いていた仕事の道具を纏めることにした。
「この村の地図と家に置いてあったリュックサックに、配達後に書いてもらう受け取りサイン表っと……」
配達の仕事に必要な準備を進めると、戦闘の時に使った武器のことを思い出した。 ノアかレオかわからないが、どちらかに渡すはずの武器を未だに持っていたので返さなければと考えてその場から立ち上がる。
「玄関に置きっぱなしだけど、俺が持っていちゃダメだよな……返さないと」
荷物の準備が終わっているので、玄関に移動をして剣を手に取った。
「白銀に輝く綺麗な剣だけど、俺のじゃないからな。渡してくれと言われた武器だし、俺が持っていたらダメだよな」
よしと一言を発すると、出雲は剣を持って鍛冶屋に向かった。
鍛冶屋はレナのお気に入りのカフェが店舗を構えている通りにあるので、出雲は家から出て向かうことにした。
「確かこの通りにあったはずだけどなー」
人が行きかうメイン通りではないが、それなりに人が歩いている通りを出雲は歩いている。そこには雑貨屋や料理屋、服屋などが店を構えている。
その中の1つがレナの好きなカフェであり、出雲が目指している鍛冶屋もこの通りにある。
「あ、あった! すみませーん!」
出雲が声を上げると、鍛冶屋の男性が顔を上げて周囲を見渡した。
「俺です! 俺です!」
「ああ、武器を持って行ってもらった少年か。どうした?」
「これをお返しに来ました!」
その言葉と共に出雲は白銀に輝く剣を手渡すと、男性が渡さなかったのかと聞いてきた。
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